第8話

 明日香には休みな? って言ったけどもちろんあたしは生徒会室に行かなければならないわけで。

 案の定、未結あたりはすごい楽しそうに私の顔を見てくる。

 いいじゃないの別になんだってさ。

「せーんぱい、今日は会長と副会長の二人、どこ言ったんですかねー」

「未結の知らないところじゃないのー」

 生返事で適当に。

「でも先輩が動かないと状況進まないと思ってたんですけどねー。なんかしたんですか? 先輩?」

 勘のいいガキは嫌いだよって某漫画の台詞が浮かんできたけど、こういう勘のいい後輩は大事にしてあげなきゃいけないのかもなぁ等とふと思うわけで。

 今週はなんか人と関わる気持ちになる週だなぁ。

 とはいえあんまりこの部屋で話すのも気分良くないかなー。

「ほら後輩。ちょっと可愛らしい面貸しなさいよ。おごったげる」

 怪訝な顔をするもすぐ事情を察して「はーい」と言って私についてくる。

 そのまま誰もいない適当な教室へ。

 どっこいしょ、とおばさんくさい掛け声を上げて椅子に座る。

「ほら、あんたも座りなさいな。で、さっきの話だけど、面白い考察ね、後輩。私が明日香を炊きつけないと進まないって話でしょ?」

 未結から嫌らしい笑いが漏れる。

「やだなぁ先輩。会長をいくら炊きつけても一線なんて超えられないじゃないですか。炊きつけるというか燃やすなら副会長しかないと思うんですけどねー」

 ほほう、いい見解ね。

 でもそんなことばっかり見てなにか楽しいのかなぁ。

 少なくても私は何も楽しくないぞ。

「あたしが副会長に、明日香があんたのこと好きだよーって伝えるってこと? まあそうでもしなきゃ進まないかもねー」

 うん我ながら白々しい。

 でも今はこの会話を楽しみましょう。

「先輩マジで言ってます? そんなことだけじゃあの二人が一線を超えると、ほんとに思ってます?」

 まあ思ってたんだけどね、ついこの前まで。

 ほんと未結後輩は頭がイイね、私は身内びいきってのもあったけどその考えはなかなか思いつかなかったから。

「じゃあそれで駄目ならどうすればいいのかな? 察しのいい後輩ちゃん」

 私も未結に習っていやらしく口元を歪めて笑う。

「その前に、ここは確認したほうがいいですかね。先輩」

 もったいつけるなぁ。

 暇じゃなかったら話するの止めてたよほんと。

 いつでも暇じゃん、という野暮なツッコミは止めていただきましょう。

「何を確認するの? 今日だけ特別に、あたしがしっていることであれば何でも答えてあげるよ、可愛い後輩のためだもの」

 あたしのこと可愛い後輩なんて一回も思ったことないくせに、と小声で言ってるけど気にしない気にしない。

 さあ、どうぞ。

「先輩は副会長が自分のこと好きだって知ってますよね?」

「へー副会長が未結をねぇ、それは初耳かなー」

 おっ、相当むっとした顔してる。

 こんなやりとりで心動かしてイニシアチブ取られるのはいけませんよ、後輩。

「自分ってのはあたしじゃなくて桐谷先輩のことです。どうなんですか、そこらへん。何でも答えるっていいましたよね」

 ええ、言いましたとも。

 その程度の質問に答えるのは造作もないことでしてよ。

「そうね、何となくだけどわかってたかな」

 明日香も橘くんも、純朴で分かりやすいのだ。

 私みたいに外側にいる人間ならなおさらわかるってものだ。

「やっぱり……だったら先輩がやることは一つ、先輩と付き合える希望を断つことですよね。先輩はそういう無慈悲な行為、目的のためなら躊躇いなくやりそうですし」

 しっかしこの後輩は私のことを残虐非道の悪魔超人か何かと思っているのだろうか。

 私だってそのあとのやりにくさとか考えてから……ってそれも結局利害だけか。

 誰かがどう傷付くなんてどうでもいいのかもなぁ。

「で、先輩は結局なんかしたんですか?」

 何でも答えると言った手前、答えないってのも仁義に反するのかしら。

「私が何をしたかを当てられたら、はいかいいえで答えてあげる。気分の良くなる答え方だったら注釈も付けてあげる」

 ここまで言ってきてるのに正解にたどり着いてないってことあるわけないんだけどね。

 さあ後輩、お答えをどうぞ。

「先輩が副会長を振ったんですよね」

 なるほど、振ったと。

 何もないのに私が振ったと。

「はい、どうせ先輩のことだからパーティの前に期待持たせたくないから今のうちに言っちゃうね、とかで振ったんじゃないですか」

 ほほう、これアレだなー、ちょっと私をどう思ってるのかきちんと聞く必要がありそうね。

「ふむ、大筋は分かったわ。でも私がそんな面倒くさいことすると思う? ってか私の事どんだけ変な人だと思ってるのよ」

「別にそこまで変な人とは思ってないですよ? やらなきゃいけないって決めたことはどんなことでもやる人だって思ってるだけです。あ。これは褒めてるんですよ?」

 なるほどね。

 あながち間違ってはいないので八十点位の点数あげましょうか。

「ま、ほとんど正解。実際変な期待持たれてもお互いに辛いだけでしょ? それに私、恋のキューピッドって憧れてたのよ」

 全く、この後輩は自分でその答えをわざわざ私に言っておいてなんて顔してるのよ。

 ほんと中途半端に優しいというかなんというか……。

「先輩はそれ、辛くないんですか? だって完全に悪役ですよ。先輩に得なんて一個もないじゃないですか」

 ここまで答えてあげたなら、もう気を遣ってあげる必要もないかな。

「何が得で得じゃないかってのは私が決めることよ、後輩。それに本当に明日香への優しさだけで動いてるのかもしれないじゃない?」

 腑に落ちない顔をしてるけど、その答えじゃそこまでしかお答えできませんので。

 次はもっと大胆な発想の転換をするんだね、後輩くん。

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