第6話

 その夜、明日香に電話をしてみる。

 議題はもちろん副会長とその後どうなったかって話。

「もしもし、どしたの? 華?」

 全く、普通なら絶対今日の放課後のこと聞かれるって分かるはずなのに、この天然さんめ、このっこのっ。

「ほんとに私がわざわざこんな時間に電話した理由が分からないのかな?」

 どうやらここまで言ってもわからないらしい。

 電話の向こうで、えっなんかあったかな……宿題とか……なんて訳の分からないこと言ってるのでそろそろ本題に入ってあげるか。

「そりゃあもちろん橘くんのことに決まってるじゃない。今日はどこまで話したのよ、ほら言ってみなさいよほらほら」

 まーた明日香があたふたし始めたのが分かる。

 まあ聞いたところで大したことがあるわけじゃないんだろうけど、一応行っといでと背中を押した身としては聞いてあげる礼儀があるからね。

「良いからお姉さんに全部話して楽になっちゃいなよ、ほらほら」

 さすがに観念したか、明日香はいつもより甲高い声で話し始める。

「えっ、えっとね、別に華が考えてるようなことはなんもないよ? ただマックに行ってパーティの打ち合わせしただけ……だよ?」

 おっと、なぜ話しているうちに声のトーンが下がってくるのかな。

「一緒に話すだけで進展ありで楽しかったんじゃないの? なのにそんな不満そうな感じになっちゃうのかな?」

 ま、大体他の女の話が出たとかそういう話なんだろうけど、そのオンナの話、あたしは正体知ってるからなぁ……。

 一つアドバイスするなら、そのオンナはそいつのこと何も思ってないし、向こうだって結局は先着順というか、恋なんてそんなもんよということなんだけど。

「で、どんな話が出たわけ?」

 口ごもる明日香。

 いいからさっさと話しなさいな、その方が楽になっちゃうし踏ん切りも付きますよ。

「えっとね、パーティで二人一組作る企画考えてたんだけどね、その話の流れでそういう話になって……それで気になる人とかいたらこういう企画で付き合っちゃうかもしれないねって言ったら表情が変わっちゃったから気になる人とかいるのって私も聞いちゃったんだよね。そしたらすっごく慌てた感じでそんなことないからって言われちゃって……」

 ったく普段鈍感なくせしてクリティカルなところを気付くんだなぁ……。

「ま、年頃の男の子が好きな女の子の一人もいないってのはおかしいからねー。でも先に告られたらそっちに靡くってこともあるからさっさと告白すれば?」

「それはそれで辛いと思うんだけど……でもこれで諦めちゃいけないよね。なんか華に話したら少し元気でたかも! うん、このパーティで少しでも頑張ってみるよ!」

 まあ元気出たならいいか。

 その恋、状況が整えばきっとパーティ前に解決しそうな気もするんだけど。

 じゃーね、また明日、という明日香の可愛い声を寝る前に聞けただけでもいいとしようかな。

 さて、私も寝ますか。

 この一週間はまだ始まったばかりだ。


 次の日の火曜日は特に何もなく。

 強いて言えばまた授業中に居眠りして怒られたくらいと、放課後にちょっと野暮用を済ませたことくらいだ。

 その野暮用が多少めんどくさかったんだけどさ。

 さてさて、どう転ぶやら。

 今日も一日お疲れ様でした、私。

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