第4話
特にやりたくて始めたわけじゃない。
明日香が生徒会に入りたいと言って、私を引き込んだのだ。
それから時が経ち、いろんな行事を経て私も逃げられなくなり明日香は会長に。
気づけばこんなところまで来てしまったな、という何とも言えない思いと、何だかんだで楽しかったという思いと、そして別の選択肢があったんじゃないかという思春期特有の思いが重なりあって私の感情を作っている。
それでも私に他の選択肢はなかったと思うけど。
さて、特にやることがあるわけじゃないこの十二月、集まったところで何があるわけでもなくなんとなく片付けられなかった仕事を各々片付けていた。
大掃除の季節だし年末ってそんなものなのかな、とか思っていると不意に会長、もとい明日香が話しかけてくる。
「華ってクリスマスどうするの?」
いつもよりは少し上ずった声で、少し周りを気にしながら、少し恥ずかしそうに私に聞くという行為でしか確認できないことを聞いてくる。
そのままでも可愛いのに恋する乙女になったら最強すぎて困っちゃう……。
さっさと告白すればいいのに、とも思うけどそううまく行かないことも私は知っていて。
だから私はいつもこの話題に、どう返してあげるべきか、迷って、迷ってしまうのだ。
「華?ほんとに具合悪い?何かすごい顔してたよ?」
別になんでもありませんよ、本当。
「べっつにー。姫は可愛いなーって思っただけ。で、あたしは何もないけどパーティでもするの?」
「もう、なんなのその言い方……。まーそのもしみんなが暇だったらどうかなー、とか思ったんだけど」
可愛いなー、の下りでからかわれたと思ったのかじとっとした目でこちらを見ながらそんなことを言う明日香。
ほら、周りの男子(一人を除く)がちらちらこっちを見てますよ。
この子は本当に自分がどう見られてるのかを分かっていないのだ。
「と、いうことですけどどうします? 副会長さん?」
今回は明日香の望むように動いてあげよう。
前に捻くれた対応しちゃってとんでもないことになっちゃったからなぁ……。
「そうだね、いいアイデアなんじゃないかな」
黒縁のメガネをくいっと上げながら私の一言に反応するのが副会長の橘くん。
下の名前はなんだっけ、忘れてしまった。
乙女が好きでもない男の子の下の名前まで覚えているわけないよね、てへっ。
ちらっと明日香を見ると誰が見たって嬉しそうな顔してるし。
ということで気を利かして私が牽制球を一球。
「じゃ、会長の提案が次に偉い副会長の承認得たことですし早速準備始めましょーか。でも明日香には悪いけど準備めんどくさいから言い出しっぺの明日香とそれを認めた橘くんでやってくださいねー」
演技を入れたつもりだけど、面倒くさいのはほんと。
こういうのって意外と段取りとか、まー面倒くさいのよね経験上。
進んでやるのは何回に一回とかにしたい。
といってもその時がもう一回来てもやらないと思うけど。
「もう華はすぐに面倒くさがるんだから。手伝うところは手伝ってもらうからね、書記様!」
右手をひらひらさせて分かったからさっさと二人っきりで話し合いしな? って合図を送るもお姫様は全く気づかないらしい。
その辺は逆に副会長の方が気付くのだ。
どこまで分かっているのかは未だに確信出来ていないのだけれど。
案の定いつも通りの笑い顔のテクスチャ張り付いたような温和な笑いを浮かべて橘くんが明日香に話しかける。
「それじゃ富岡さん、どんな感じでやるか打ち合わせしようか」
「う、うん! まずはいつやるかだよね…」
二人が座って始めだしたところで後輩の未結が私のところにやってきて小声で囁く。
「先輩、ほんとお上手ですねー。相変わらず感心しちゃいます」
漫画だったら。にひひ、と音が付きそうな笑いを浮かべてそんなことを言ってくる後輩、皆さんならどう対処します?
「あたしはみんなの幸せを思って動いてるだけだからね、未結。決して面白がってはいないよ?」
自分でも白々しいことを言ってるのは自覚してるけど仕方がない、面白いことはそれだけで存在価値があるものですからね。
「ま、別にどうでもいいんですけどねー。さっさと固まってくれた方が見てるこっちとしてもイライラしなくてすむので」
ケタケタ笑いながら未結はそんなことを言う。
この子も斜に構えてるように見えて意外と心遣いできるというか優しい子だからねぇ。
真面目に明日香の恋を応援してるってのはわかる。
「それはなかなか難しいと思うけどね。卒業までに上手く行けば御の字ってところじゃないの」
「それもそうですね、明日香先輩ですからね……とりあえずどんな企画になるか楽しみデスね。クリスマスパーティなんて小学校の時以来ですし」
ほう、このクリスマスパーティの企画を楽しみにしてるとは。
意外と可愛い所あるじゃないの。
ちょっとからかってみるか。
「へぇ、楽しみなんだ。意外と可愛いところあるじゃないの未結も。サンタさんとか信じてる口?」
まあ見た目的には背も低くて歳相応には見えないからそういうキャラでもしっくりくるんだけど。
「なんかいろいろ先輩があたしのことどういう風に見てるのか分かった気がします。どうせ避けられないイベントなら楽しんだほうがいいじゃないですかってことですよ」
確かにそれも一理あるかな。
あれ、このイベントって避けられるのかな?って思うけど。
何を言ってもあの副会長は結局このイベントを開催する気がするのよねぇ……。
「まあ、いちゃいちゃするのはあの二人に任せてやることやってさっさと帰るよ、未結後輩」
はーい、と一言、生返事をして未結は自分の席につく。
さてもう四時、さっさとやることやっちゃわないと。
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