第2話
私の一週間はこの瞬間から始まる。
「キリヤさん、月曜日の一限目から大分お疲れの様子ですね」
聞き慣れたこの嫌味に寝ていたという負い目をどこかに放り投げて嫌味で返す。
「先生、キリヤじゃなくてキリタニです、私。二年も担任やってるのにまだ覚えてないんですか?」
先生に嫌味を言われ起こされることなんてあまりに何度もありすぎるから、私もウィットに富んだスマートで洋画みたいな返し方をするように心がけているのだ、えっへん。
「知っていますよ。だからこうやって起こしてるんですがねえ」
先生の溜息を聞いて、これ以上のやりとりは面白くはならないだろうなぁという妙に確信めいた経験則から素直に謝ることにする。
「すいませんでした」
ちょっとはにかみながらモジモジして言うのが反省しているポーズを見せるコツ。
せっかく女子なんだから少しはそういうの使わないとね。
深い溜息をして黒板の前に戻る先生。
特に怒ってはいない様子。
先生が怒っているところなんて見たことないんだけど。
そうしてこのいつも通りの一週間は始まり、先生の低い声を聞きながら貴重な一限目の時間が過ぎていくのでした。
「華は先生とよくあんなやり取り出来るよね……尊敬を通り越して呆れるよ……」
その用法、逆じゃないのかなと思いつつうわの空へ聞き流す。
桐谷華が私の名前、今話しかけてきてるのが富岡明日香、うん、私の頭はまだ大丈夫みたいだ。
「は~な~? 全然聞いてないでしょあたしの話!」
ぷりぷり怒る姿も相変わらず美人は絵になるなぁ、とか馬鹿なことを思いながら返事をする。
「聞いてますってばお嬢様。何か御用ですか?」
こういう巫山戯た返事の仕方だとまた怒るんだろうなぁと思いつつ巫山戯るのは止められないんだよね、いつも。
「もう知らない! どうせ次の英語の課題やってないんだろうなって思ってせっかく見せてあげようともったのに!」
そうだ、次の時間の課題やってないんだった。
見せてくれないのは困るのよね……。
ということで変り身早くご機嫌とり。
「じょーだんだよじょーだん! だからそう怒らないでください見せてくださいなんでもしますから神様仏様明日香さま」
「もういいよ……ほら、課題見るならどうぞ!」
いつもいつもこんな私を許してくれてありがとう、我が親友……。
と心の中で思いながら口には出さない。
この無駄なやりとり(もちろん私のせい)で休み時間が残り少なくなってきているからおしゃべりをしている暇はないのだ。
この後英語のうるさいババアに小言を言われないために黙々と友達の課題を写すのでありました。
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