第13話 連係プレー
2020年4月12日 15:20 神奈川・大宝寺邸
ガラス窓が割れる音と同時に、けたたましくベルが屋敷中に鳴り始めた。
「なんなの?!」
国安女史が悲鳴のような叫び声をあげる。
「警報ベルだな。窓ガラスが割られるとこうなる、みたいな?」
したり顔で説明する空人。
「つまり、侵入者?」
「たぶん、そういうことでしょうね」
「だったら、落ち着いている場合じゃないでしょう!」
そう非難され、空人は渋々といった様子で扉を開き、エントランスホールへと向かっていった。その後に田神が続く。しかし、文句を言った国安自身は付いて来なかった。
ホール内に出た空人達は、階段上やその下を慎重に見て回った。だが、侵入者の姿は何処にもない。玄関扉の横にある曇りガラスも、その上のステンドグラスも割られてはいない。
どうやらここではないようだ。
そう判断したらしい空人は、「あっち」と言うように、向い側にある扉を指さした。
その瞬間だ。まるで魔法でもかかったかのように、示された扉がゆっくりと開き始める。顔を見合わせた二人は、急いでその扉へと駆け寄って、隠れるように壁へと張り付いた。
未だ警報ベルは鳴り響いている。
その音にビクついているのか、コソコソとした様子で何者かが中へと入ってきた。
刹那、田神がその右肩を捕まえる。相手は警報機以上のやかましさで、「うわぁぁぁぁ」などとわめきながら、逃れようと体を反転させた。
背後から空人が飛びつき、羽交い締めを試みる。
見事な連係プレーと言いたいところが、侵入者に後頭部で振って頭突きをされ、空人はあまりの痛さに相手を放してうずくまってしまった。
どうやら思いの外、相手は戦闘能力があるらしい。だが、悲鳴をあげながら空手の構えで牽制しているその姿は、強いのか弱いのか判断に苦しむところだ。自衛官の田神ですら予想外な反撃とその後の様子に、混乱を余儀なくされた。もっとも防衛大時代は工学科専攻で、体力的訓練などはいつも落第ギリギリだった彼の戦闘能力など高が知れているが。
それはともかく、侵入してきた男はひどく怯えているようだ。何故だか知らないが、うわごとのように謝罪の言葉を繰り返している。
その時、彼の背後から、近付いてくる者がひとり。いつの間にかホールへ出てきていた国安女史だ。男は自分の鳴き声で彼女の気配に気がつかないようだ。
そうと分かった空人達は、無駄な動きで相手の注意を引きつけた。国安女史が何をしようとしているのかは一目瞭然だ。なにしろ彼女の両手には、どこから持ってきたのか大きな額縁が握られているのだから。
男が空人達に気を取られている隙に、その背後に忍び寄った彼女は、恐怖に顔を引きつらせながら、その後頭部めがけて手にしたそれを叩き付けた。
かくして、南雲純樹は空人達に捕獲されたのだった。
ちなみに彼女の手によって破壊された絵は、市場価格五百万円相当の代物であった。空人の恩義で弁償だけは免れた国安査察官だが、納税分を引かざるを得ない事態となったことは後日談として記しておこう。
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