降りる駅の選定者
女性も無言になり僕は又、女性とのたわいも無い出来事が無かったかのように、一人に戻った。
ガラスの外は小雨なのか普通の雨なのか判断出来ない漆黒の世界になっていた。
今、分かるのはガラス面に微量の水滴が斜めにつたい、ガラスに映る僕の無頓着な顔を切り裂く光景だけだった。
どこで降りようかな…
不安から生まれた、そんな苦言が脳裏を汚した時、アナウンスが流れた。
《えぇ。次は〜神無月町〜神無月町〜…》
僕は視線を正面のガラスから上に向けた。
そこには、天井と壁面のちょうど隅角に曲線部を描くように貼り付けられた張り紙がある。どの列車も同じだな…。
そう、路線図だ。えーと…。これか。
僕は、半歩中央に移動して身をのりだすように体を曲げた。終点は…帰…かえ…かえ…。
《
声の主は、栗毛色の女性だ。突然の声掛けに驚き左膝がカクンとしてお笑い芸人のようにオーバーリアクションになりそうだった。僕は少し赤面した。
《あ。あぁ…そうなんですか。…読み難い駅名ですね。》
と言い、作り笑いをした。女性は既に笑顔になっていて、僕の顔を真っ直ぐに見つめている。基本的にこの女性は、人の目を見つめて話すタイプなのか?それとも僕が変な人に見えているのか?はたまた目が悪いのか?とにかく見つめられると恥ずかしくなり視線をそらしてしまう。
《初めてこっちに来た人は皆んな読めないんですよ。ホント、困りますよね?どちらまで行かれるのですか?》
ちょっとまった!…
女性から出た言葉にNGワードが入っている。今の僕は行き先の無い不審者みたいな男なのだ。ここで行き先を決めていないなどと言ったら…どう思われるのだろう……。僕は慌てて路線図に視線を戻して適当な目的地を見つけた。
《えーと。か…んざい……つき…ちょう…かな。》
小さなローマ字を読んだため外国人みたいな発音になってしまった。そしてまた額に汗が滲んでしまう。
《あ。私と同じ駅、、私も神在月町でおりるんですよ。お仕事…?じゃなさそうですけど…旅行ですか?》
女性は僕の足元から頭の天辺まで視線を一度ながしながら話した。
確かに僕の服装は私服だし手荷物も無い…ポケットに入れた黒い革財布と現金36000円が持ち物の全てだ。それにしても…この女性は…よく話すタイプだな…。スマホが無いから時刻は分からないが、駅の数からして…9駅、いや10駅は過ぎたな、ヒト区間15分か20分くらいだとして…夜の10:30くらいか?
そんな時間に旅行ですは変だろ…。親戚の家?実家はおかしいよな…。
しかし、なんて答えたら良いのだろうか…。まいったな…。
《あ…ごめんなさい。私、初対面なのに色々聞いてしまって。》
女性は苦笑いしながら僕を見つめている。その表情には罪悪感が溢れていて、逆に申し訳ない気持ちになってしまう。
僕は、回答でき無いが精一杯の返事をした。
《いえ。違うんです…僕が悪い。というか、、色々ありまして…何ていうか…色々と複雑で…》
きっと今の僕はとても困った表情になっているんだろうな…。僕は無意識に窓の外に視線をそらした。
え?
さっきまでの景色と何かが違う…煙?…なんだこれ…霧?
僕は女性に視線を戻して話しかけた。
《あ。…霧?ですかね?》
女性の表情からは罪悪感が消えて、明るさと驚きが同時に現れた表情になり窓の外を見つめた。
《え?…あ。本当だ!霧ですね。私、毎週この電車にのるけど初めて見るかも…これが…神在月町の霧…ね》
窓の外に突然現れた霧は次第に濃くなり町の街頭すら見えなくなった。
神秘的にも思えるが何故か胸騒ぎを感じる。
それほど気味の悪い現象なのだと僕は思っていたのだ。
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