女性の笑顔

女性は、僕の反対側に設置された手摺りに背中から寄り掛かる様にして僕を見つめている。


僕は寒い冬なのに額が汗ばんでいる事を、女性にバレてしまわないかと不安になった。実は生まれてこのかた女性とろくに話をした事が無いのだ。つまり生まれてから22年間彼女はいなかったという事で間違いない。


学生時代には何度か告白された事もあるが、その頃の僕はバスケの部活一筋で恋愛などは眼中に無かったのだ。


今となっては後悔している…。


そんな僕は、女性に対して免疫が無く、少し過剰なくらい苦手意識をもっている。


やばい、意識しすぎて逆に額の汗が水滴にグレードアップしてしまいそうだ…。


この女性は、そんな異性イケメンだんせいとして僕を見ていないのに僕は、一方的に意識して…ほんと自分が情けない。


そんなやり取りを右脳と左脳がしている間に自然な返答が出来る秒数セーフゾーンを遥かに超えてしまった。そんなオーバーヒートした状態の僕が女性に返した気の利いた言葉は…これだ…。


《僕は大丈夫。……問題無いです。》


何が大丈夫なんだ?!っと、思わず一人突っ込みを右脳と左脳でしばきあう!。


女性の美しい瞳がキョトンと丸くなってからニコッと笑顔になった。


僕もなんだか面白くなり照れ笑いをしてしまった。


《あ、いや…すみません。話すのが少し不器用というか…苦手というか…。でも、本当に良かったですね。弟さんの大切なギターが壊れなくて。》


女性は、その場から僕の顔をしばらく見つめて話返した。


《うん…弟も、一安心してるかな?…空の上で…》


話し終わると、車内の天井を見つめてからギターケースに視線を落とした。女性の表情は、少し寂しそうだった。僕も、その弟さんの様に半年もすれば空の上に行くのかと思うと、一瞬、寂しい表情になってしまう。


でも何で?!女性は見ず知らずの僕に身内の生死を話したのだろうか?現在の僕の心境のせいなのか、色々と勘ぐってしまう。

僕は、そんな心境の中で女性を見つめて感情を隠さないストレートな返事をする。


《ギターよりも姉が無事で良かった…って…思うんじゃないですか?。…いや、ギターも大事ですけどね。》


僕は、話し途中で我に返ってギターも大事だと付け足した。女性は僕の顔を驚いた表情で見つめている。僕は気不味くなり窓の外を見つめて話を強引に打ち切った。


窓の外は小雨なのか?窓ガラスに斜め45度の水跡が何本か入っている。女性とのやり取りで気が付けば外のネオンはビルの光では無く住宅や街路灯の光になっていた。


僕は、何処に行くのだろう…。そんな台詞が頭の中で拡散して、不安という得体の知れない感情を呼び覚ましはじめた。

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