第51話:甘い毒

「ありがとう」

 少なくともこれは味見用だろう。

 薇薇と莎莎を振り向いても、大丈夫だよ、という風にパーマの頭を軽く頷かせている。

 差し出された乳白色の果実を受け取って口に運ぶ。

 プリッとどこかえびに似た歯応えの後にトロリと甘い蜜が舌の上に広がった。

 もう一度噛むとガリリと中に含まれていた種に当たった。

 これが楊貴妃も好んだという茘枝ライチか。

 一粒だけでも果物というより甘い菓子を食した感触があった。

「どうだい?」

 左頬の傷跡を笑顔の皺に半ば紛らした主人は尋ねるが、もう一粒目からは無料タダにならないことはこちらも知っている。

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上海リリ 吾妻栄子 @gaoqiao412

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