2014/9/22 Mon. - 2

 放課後のゲームセンターでは、パターン通りに乃々のプレイを遠目に眺め、今日は銀路が『ファンタジーゾーン』の腕前を披露してすごした。


 その後に喫茶店へ向かうのも三度目。

 これもパターン化されたと言えるだろう。


 二人でコーヒーを頼み、乃々が大量のミルクと砂糖を入れてカフェオレ仕立てにしたところまではいつも通りだった。


 だが、今日は会話らしい会話がなく、静かな二人の時が流れていた。


 銀路は話の切っかけが掴めず、手元のコーヒーをチビチビすすりながら思案する。


 一方で、乃々は銀路の顔を見ては視線を外し、また銀路の顔を見ては視線を外し、そんなことを繰り返している。


 十回ぐらい乃々が繰り返したところで、銀路は少し気になってきた。


「もしかして、俺に何か話があるのか?」

「……遅い」

「ご、ごめん」


 冷たい声で言われて思わず謝ってしまう。


「はぁ……」


 そんな銀路の態度に、既にお約束になった溜息一つ。


「でも、いいわ。パターンを繰り返して反応がある方が、予想もつかないよりはずっといい」


 言って、目を閉じる。


「それで、何の話だ?」

「わたしの、こと。わたしが笑わない魔女となった理由を、聞いて欲しい」


 開かれたアンダーリムの奥の瞳に真剣な色を湛えて、乃々。


 敢えて詮索しなかったが、鈍い銀路でもこれまですごした時間の中で流石に気づいていたことがある。


「それは、正確には、笑えない魔女……つまり、真城が笑えなくなった理由、ってこと?」


 そう、彼女は感情が欠落して笑わないんじゃない。

 ただ、笑えないだけなのだ。


――笑えない魔女でよければ、友達になりましょう。


 あのときは深く考えていなかったが、最初から乃々は答えを言っていたのだ。

 時々浮かべる不可思議な表情について考えていて、きっと、そうだろうと思っていた。


「鈍い財部君にしては、珍しいわね。ちょっとパターンと違って驚いたわ」


 言葉とは裏腹に、落ちついた口調だった。


「でも、どうして急にそれを話そうと思ったんだ?」

「今日、ちゃんと約束を守って学校では必要以上に絡まないでくれて信用できると思ったのもあるけれど、これまでのパターンの積み重ねの結果、そろそろ知ってもらわないとフェアじゃない。そう、思えてきたのが大きいわ」

「フェアじゃない?」


 ゲームに対して乃々がフェアプレイを大事にしていたのを思い出したが、銀路は今一意味が解らなかった。


「……そうね。やっぱり鈍かった財部君に知ってもらうには、ちゃんと説明しないとね」


 溜息一つを挟んで続ける。


「要するに、財部君が楽しそうに笑っていても、わたしが笑えないことが、後ろめたく思えてきたのよ。こっちは楽しんでいても伝わらないから。それだと、財部君は気兼ねするんじゃないかしら? だから、フェアじゃない。そう、思ったの」


 銀路は、その言葉に驚き、なんだか嬉しかった。銀路とすごしていて、彼女が楽しんでくれているのか想像するしかないのが不安だったのは事実だから。


「それで、聞いてくれるのかしら?」


 淡々とした口調ながら、そのレンズ越しの大きな瞳は不安げに揺れている。学校では髪に隠されている乃々の瞳は、存外に表情豊かだった。


「是非、お願いする」

「ありがとう」


 たぶん、ここはヒロインが微笑む話の流れなのだろう。

 だけど今、乃々の顔に浮かんでいるのは、寂しそうな哀しそうな強ばった、あの、表情だった。


 そうして、乃々は、語り始める。

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