2014/9/19 Fri. - 1

 朝は乃々と挨拶を交わし、いつも通りにすごして放課後を迎える。


 そこから一端帰宅して私服に着替え、ゲームセンターへと向かうのが銀路の行動パターンとなっていた。


 『レイディアントシルバーガン』をクリアした魔女に銀路は歩み寄る。

 今日は、ちゃんと右手と左足を出しながら。

 少しは余裕が持てるようになったのは、試行錯誤の成果だ。


 魔女は、今日も銀路が来るのを筐体の前で待っていてくれる。


 深呼吸一つ。

 昨日奇しくも聞きそびれたことで、今日の最初の話題には困らない。


「OOOってどういう意味なんだ?」

「ああ、ランキングを見たのね……ちょっとした、遊び心よ」


 クールに答える。


「Oって円環よね。わたしはパターンを構築して、それをなぞるのが大好きって話をしたでしょう? 裏切らない、同じ事の繰り返しの象徴みたいなものよ」

「ああ、なるほど」


 素直に感心する。こういう意味づけは嫌いじゃない。


「でもまぁ、実はそれ以外にも、意味はあるのよ」


 感心していると、魔女は更に言葉を続ける。


「わたしの名前の捩りよ」


 そこで、気づく。

 今更にもほどがあるが、銀路は彼女の名前さえ知らなかったのだ。


 気づいてしまえば、彼女の名を知りたくて仕方なくなってくる。


 そうして、今の話の流れは、彼女の名を尋ねる絶好のチャンスを示している。

 ならばこのチャンス、逃してはならない。


 銀路は手に汗を握り、脳内で戦略と戦術を構築する。

 名を尋ねるための言葉を用意する。

 

 大丈夫だ、問題ない。


 己に言い聞かせ、


「えっと、それで、君の名前は?」


 緊張しながらも、ちゃんと口に出すことができた。

 爆死を繰り返しての努力と根性による試行錯誤は、銀路に確かな成長をもたらしていたのだ。


「はぁ……やっと、それを聞くのね」


 一方で、盛大に呆れたように溜息を吐く魔女。


「貴方は、もっと早くそれを聞いておくべきだったのよ」


 勿体つけるように言う。


「わたしの名前は……」


 いよいよ、魔女の名前を知ることができる。


 重要なイベントの発生への期待が高まる。


 銀路は高鳴り響く鼓動を胸に、固唾を飲んで魔女の言葉を待つ。


 筐体へ向けて最高の笑みを浮かべる少女はどんな可憐な名前なのだろうか?


 果たして、遂にその名は告げられる。


真城ましろ乃々のの、よ」

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