2014/9/28 Sun. - 2

 水族館からの帰り道。


「近道しようぜ!」


 最寄り駅から家までの道中で、藍華は唐突に宣言するなり適当な路地に入り込む。


 家の方向は解っているので迷いはしないだろうと思いながら、藍華の進むに任せて曲がりくねった路地をいくつも抜けていく。


「あれ? どこだ、ここ?」

「あたしも、覚えがないな」


 だが、辿り着いたのは行き止まりだった。


 周囲は稼働しているのかいないのか解らない古い木造の町工場。

 その中に紛れるように、木造の年期の入った建物があった。


 外壁に色あせたポスターが貼られ、中からなにやら電子音が流れてくる。

 オレンジ色の看板には、黒い毛筆のような字体で横書きに『いぇうぃりふ』と書かれていた。


「お、ゲーセンじゃないか! 入ってみよう!」


 藍華に続いて観音開きの扉を抜けると、昭和の雰囲気漂うレトロなゲームセンターだった。


「って、ん? 前にもこんなことなかったっけ?」


 若干の既視感を抱きつつ足を踏み入れた店内は、ピコピコ音と電子のどぎつく鮮やかな光に満たされた空間だった。


「すげぇいい雰囲気じゃないか!」


 はしゃぐ藍華に、銀路も同感だった。

 壁際にずらりと並ぶゲームには年季が入ったものが沢山ある。


「お! あるじゃないか!」


 目敏く『怒首領蜂』を見つけた藍華は、迷わず銀色の硬貨を投入。


「あっはっはっは! やっぱり弾幕シューティングは楽しいなぁ」


 豪快なアドリブプレイ。

 ガチャガチャとレバーを派手に動かしながらも、まったく敵弾には当たらない。

 パターン化すれば楽に抜けられそうな場面も気合いで避ける。


 だが、実はそれだけではない。

 避けきれないと思えば早めのボムを撃つ判断力があるからこその、快進撃。


 ノーミスで一周をクリアし、二周目に突入する。


「ここからが本番だねぇ」


 冗談のように激化する弾幕も、藍華の気合いの前には無力だった。


 二周目も最終面までクリアし、かの有名な台詞の後。

 最終鬼畜兵器と火蜂との連戦が待っているのだが、


「いやぁ、楽しかった」


 流石にノーミスとはいかないにしても、ワンコインで火蜂を倒してしまった。


 自分でも何度か到達したことがあるとはいえ、銀路の性分であれば、倒したことのないボスの攻略を見るのは忌避するところだ。


 だが、藍華の火蜂戦は見ていても何をしているのかさっぱり解らないので、例外だった。


「やれやれ、火蜂をワンコインで倒してしまうとは……いきなりとんでもない人間を連れてきたものじゃのぉ」


 と、老成した口調の幼い声が聞こえてくる。


「え、だ、誰だ?」


 藍華が誰何の声を上げ周囲を見回すが、銀路と藍華以外に人影はない。


 しかし、その声を聴いた瞬間、銀路の頭の中で何かが弾ける感覚があった。


「遊……ちゃん?」


 記憶が呼び覚まされる。


 『シューティングゲームの復権』を賭けて、リアルを舞台とした『げえむ』に挑む。


 あれは、夢ではなかったのだ。


「そうじゃ。電子遊戯神、遊ちゃんであるぞ」


 遊ちゃんの言葉を合図に、世界が変わる。

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