2014/9/28 Sun. - 1
「おお、人がゴミのようだ!」
観覧車の中で、定番とも言える台詞を吐くのは藍華だ。
白いワンピースとベージュのカーディガンを纏った清楚な雰囲気を醸す出で立ち。
だが、やはり喋ると台なしだった。
二人っきりのゴンドラの中。
銀路はそのミスマッチに苦笑しながらも、気を張らなくていい深い安らぎを感じていた。
ここは、海辺の水族館の隣にある大観覧車の中。
見下ろす街並の先には、遠く山々の連なりが見える。
後ろには海と、遠くの島々。
「でも、急にどうしたんだ? 水族館に行こうなんて」
「たまには銀くんとゲーム以外の遊びがしたくてね」
言って、屈託なく笑う。
見た目は清楚な美人なのに、こうやって笑むと少年のよう。
「そっか。まぁ、藍華姉とだったら、どこへ言っても気を使わなくていいよ」
「ふぅん、それって、どういう意味かな? やっぱり、身内として、みたいな?」
「勿論」
「……そっか」
ゲームセンターの魔女の一件があってから、なぜかは解らないが藍華がこれまで以上に銀路と遊びたがるようになった。
お互いの家を行き来しているので家族に近い存在だが、こうやって休日にゲーム絡みでない場所へ二人で出かけるのは珍しい。
「あの娘のことは、どう思ってる?」
何気ない風に、だけどどこかそわそわした様子で、藍華が問う。
銀路は、少し思案して素直な気持ちを答える。
「俺の趣味を理解してくれそうだから友達になりたかったんだけど……まぁ、ギャルゲーで言えば攻略失敗したんだ。今更、どうもこうもないよ」
試行錯誤の結果、否となったことに拘泥しないのは前に進むために大切なことだ。
だけど、胸の奥にチクリと寂しさが滲んでしまう。
言葉とは裏腹に、少しだけ思う。
あのとき、彼女から名前を聞けていれば何かが変わったんじゃないか、と。
シューティングゲームをクリアし損ねて、あのときボムを撃っていれば、と思うのと同じぐらいの感覚で。
そう割り切れたのは、
「それに、理解者は藍華姉がいるから、いいんだ」
ということだ。
ゲームセンターの魔女と友達になれなかったことで、藍華の存在が銀路の中で一際大きくなったのは事実。
「おお、嬉しいこと言ってくれるじゃないか!」
頭を小脇に抱えてぐりぐりとされる。
豊満な胸が顔に当たるが、気持ちいいより圧迫されて苦しい。
「は、はなひ、て」
「あっはっは。これしきで音を上げるなんて、気合いが足りんよ、銀くん」
年頃の男女二人で観覧車のゴンドラの中にいても、ギャルゲーのような色っぽいことにはならない。
だけど、だからこそ。
藍華とすごすのは気楽でいい。
こんな風に藍華との二人の日々が続いていくなら十分だ。
それが今の自分の身の丈にあった幸福なのだ。
銀路は、そう思う。
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