2014/9/12 Fri. - 1

「ようやく『ファンタジーゾーン』をクリアしたんだ!」


 翌日、休み時間にクラスの男子連中に昨夜のクリアを報告するのだが、


「ああ、前からずっと言ってたやつか」「そんな古くさいゲームコツコツとよくやったなぁ」

「いつもいつもレトロゲームばっかだよな」「今時シューティングとか……シューティングなんて、とっくの昔にオワコンだろ」「映像も音楽もしょぼいのに、よくやるなぁ」「ネット対戦とか協力プレイとか、もっとみんなで楽しめるのやろうぜ!」


 クラスメート達の反応は芳しくない。


 それもそのはずだ。


 銀路は高校一年生。

 『ファンタジーゾーン』は三十年近く前のゲーム。


 生まれる前に出たやったこともないゲームについて熱く語られても対応に困るというのは、同年代の友人達にとっては至極当然だろう。


「財部、もっとほら、気楽にゲームやろうぜ。どうせ、攻略情報とか見ないでやってるんだろう?」

「当然だ。何度でも言うが、他者の攻略情報に頼るなんて邪道にも程がある。己の力で試行錯誤してこそのゲームだ」

「そんな面倒なの今時流行らねぇって。今はもう絵も音もリアルで実写と見まごうようなのだってあるんだぜ? なのにそんなチマチマしたドット絵のゲームなんて……」

「ゲームの本質的な面白さはそこにはない。点と線でも変わらないものこそがゲームの面白さの根源だ」


 面倒臭いと思われていることは自覚しているが、それでも己を通すのが銀路である。


「まったく、財部はブレずにアラフォーライクなゲーム趣味だなぁ」

 呆れた様に、右隣の席の名取なとりは言って、まとめてしまう。


 アラフォーライク。


 銀路の持論がそれぐらいの年代の面倒臭いおっさんの言説に近いので誰からともなく貼られたレッテル。


 銀路がそんな考え方を持つのは、偏に彼の育ちに由来する。


 若干度を超したゲーム好きのリアルアラフォー両親のお陰で、銀路の家には各種ゲーム機とソフトがずらりと並んだゲーム庫が存在する。古今東西のゲームが選り取り見取りな環境でゲームをしてきた結果、両親がかつて夢中になったゲームに銀路も夢中になってしまうのは、血のなせる必然だった。


 ゲームの面白さに時代は関係ない。面白いものは面白いのだ。

 

 心から、そう信じている。


 銀路はこうして楽しんでいる姿を示せば誰か一人ぐらい共感してくれるんじゃないかと期待していた。上手く言えないけれど、古き良きゲームにある、今のゲームからは失われつつある熱さのようなものを、同年代のみんなにも解って欲しいと常々思っているのだ。


 だからこそ、ブレずにアラフォーライクな在り方を貫いている。


 とはいえ、小中学校と身内以外に共感は得られず。高校に入っても、この通り成果を上げていない。


 それでもめげずに試行錯誤を続けるのが銀路の性分であった。


「そういや、『笑わない魔女』がゲームの話してると、ときどきこっち見てるぜ。相変わらず目が隠れてて表情は解らんが、どうせ冷たい目で見てるんだろうよ」


 名取に言われて彼の逆、左隣の席を見ると小柄で華奢なクラスメートの姿がある。


 肩ぐらいまでの長さの癖のある髪の中に顔の上半分が埋もれた陰気な雰囲気。前髪が目にかかっているのだ。そのため、銀路と向き合う形になっているが表情がまったく解らない。


 彼女が件の『笑わない魔女』こと真城ましろ乃々ののだ。中二染みた二つ名の通り、誰も笑った姿を見たことがない陰気な女子。名字の『真城』が『まじょう』とも読めることから言葉遊び的に『笑わない魔女』などといつしか呼ばれるようになっていた。


 乃々は銀路の視線に気づいてか、口の端を歪める。髪の奥に秘された瞳には冷ややかな色が湛えられているのだろうと思わせる、嫌な感じの口元だった。


「あなた、おかしいわ」


 無機質で小さな声でそう告げると、乃々は銀路と向き合っていた顔をさっと手元の次の授業の教科書へと向けてしまう。


「笑わない魔女までも呆れるほどのアラフォーライクな趣味だってことだな」

「そうだな……まぁ、何と思われようといいさ。俺は俺の道を貫くだけだ」


 やれやれ、という名取の言葉に銀路もさらりと応じる。


 個人的に記念すべきゲームクリアであっても、その喜びに共感してくれる友人はクラスに誰もいない。


 だけど、『ファンタジーゾーン』をコツコツクリアしたのと同じだ。地道に古来のゲームが持つ熱を周りに示していけばいつか解って貰える。銀路は心からそう信じていた。

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