INSERT COIN
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2014/9/11 Thu.
巨大な敵の体内から、尖端に虫のような異形のついた触手が次々と伸びてくる。
迎え撃つは、赤青緑のカプセルのような機体。
一本、また一本と迫る触手を撃ち倒していく。
最初の内は触手の動きは鈍い。ゆっくりと狙う余裕がある。
だが、撃破するごとに速度を上げてくる触手。
最後の六本目ともなると超高速だ。
ここで、何度もやられてきた。
それでも繰り返してきた。挑み続けてきた。
倒れるたびに戦略を立て、立てた戦略を遂行するための戦術を磨き。
試行錯誤を繰り返し、泥臭くも愚直に勝利を目指してきた。
コントローラを握る手に力が入る。
「今度こそ……」
小刻みに動き、自機を狙う触手の軌道を誘導する。
縦に並べばボムを落とし、横に並べばショットを撃つ。
超高速で迫る触手を超高速で避けながら、隙あらば攻撃を与える。
短くも、緊張感溢れる濃密な刻。
見る間に画面は触手で埋め尽くされていく。
渦を巻くように触手を誘導しながら、どんどん画面が埋まっていく。
最後には、画面の最外周のみが残った。
もう、後はない。
外周に沿って、一気に右下隅に。
反時計回りに追い駆けてくる触手。
振り向いて迎え撃つ。
最後のチャンスだ。
ぶつかるまで一秒もない、コンマ秒の勝負。
引き延ばされた刹那の間に、ショットを全力で連射する。
あと三発。
二発。
そこで触手との距離がゼロに。
接触。
……したかと思われた瞬間。
画面を満たしていた触手が巻き戻すように消えていった。
「よっしゃぁぁぁぁあああぁぁああぁあぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁっっ!」
今では骨董品となった大画面ブラウン管テレビを前に、これまた過去のハードとなったセガサターンのコントローラを握ったまま、少年はガッツポーズ。
不器用な、とてもエレガントとはいえない瀬戸際の勝利だった。
それでも、ノーコンティニュー。
アーケードゲームでいうところの『ワンコインクリア』の達成だ。
今日日ネットを検索すれば攻略情報は沢山落ちている。
模範となるプレイ動画さえあるだろう。
それでも彼は、攻略情報の一切を拒絶する。
マニュアルなど公式に与えられた情報だけを頼りに攻略を進めるのが流儀だ。
努力と根性で試行錯誤を重ねて戦略を練ってきた。
鍛錬を積んで戦術を磨いてきた。
ステージごとの敵配置やボスの攻略法を書き込んだルーズリーフがその足跡。
そうして、ようやくここまで辿り着いたのだ。
達成感は一入。苦労に苦労を重ねたからこそ味わえる充実感があった。
彼が挑んでいたのは、セガが産んだ名作シューティングゲーム『ファンタジーゾーン』。
宇宙の彼方のファンタジーゾーンで全惑星を襲った大恐慌。それは、外貨を奪い巨大要塞を建造せんとする何者かの陰謀に起因するものだった。
プレイヤーは、ファンタジーゾーンを救うために立ち上がった英雄オパオパを操作して黒幕の打倒を目指す。
大仰な舞台背景とは裏腹に、パステル調の色彩と丸味を帯びたデザインで構成される映像や、個性的なボスキャラ、ポップなBGMが印象的な横スクロールシューティングゲーム。
通貨危機がテーマだからか、コインを貯めてパワーアップアイテムを購入するというシステムが当時においては斬新だった。
ラスボス撃破後のブラウン管テレビの画面の中では、オパオパを拡大したような姿が現れ、涙を流している。
なんと、全ての黒幕はエイリアンに洗脳されたオパオパの父親だったのだ。ファンタジーゾーンに平和をもたらした英雄オパオパは、一生涯その事実に苦悩することとなる。
短いエンディングに、そんな悲劇さえも内包していた。
リアルと見紛う3D映像のデモがあるでもない。
フルオーケストラの荘厳な音楽や有名アーティストの歌が流れるでもない。
それでも、このエンディングにはグッと少年の心に迫るものがあった。
オパオパの父と同じように、だが、全く違う感情で。
少年の頬を一筋、熱い雫が流れ落ちる。
彼、
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