368:09:21 魂喰らいの魔女のお茶会



ディスヴァンド王国の辺境、人の手の入っていない森の奥に、魂喰らいの魔女が住むという。





穏やかな昼下がり。森の奥に美しい庭園があった。

よく手入れされたその場所は、秋の花々を見事に咲かせている。春になればさらに色とりどりの花が咲くのだろう。そして、様々な薬草がそこかしこに植えられていた。

その庭園の先には温室、そしてさらに立派な家が建てられていた。木造の二階建ての家は木々に囲まれて静かに佇んでいた。

周囲には人が住んでいない。ここまで来るのに町から離れて森に入り、獣道を丸一日歩いて来なければならない。だが、そんな場所にその家はあった。

家の主はまだ若き女の魔術師。なぜこんな辺境の森の奥に一人で住んでいるのだろうか。

洗濯物を干し、掃除をして一通りの家事を済ませた彼女はほっと一息つくと時計を見る。

時刻は15時過ぎ。丁度良い時間とばかりに彼女は用意を始める。

お湯を沸かし、一皿に手作りのクッキーを盛り付けてある部屋に運ぶ。カップはお湯で温めてから。

二つのカップとポットを持ってまた運ぶ。

運んだ先は一階の小さな一室。窓から庭が見渡せて、光がよく入る明るい部屋だった。

壁際にいくつも本棚が置かれている。2人用のテーブルと椅子が中心に。そしてベッドが一つ。

部屋の中にも植物が飾られ、植木鉢がいくつも置いてある。

慣れているのだろう。テーブルに2人用のお茶が用意される。

だが、紅茶が注がれたカップは一つだけ。

そして彼女はおもむろに本棚の前に行く。いくつもの専門書や図鑑、巷で流行りの小説や教本、様々な本が分けられて置かれたその中で、不思議な区画があった。なぜか古びた手帳が置かれた場所があるのだ。しかも、何冊も。

ふと思い出したように彼女は手帳に手を伸ばそうとして止まる。迷った末にすぐ横にあった小説を手に取った。

椅子に座ると彼女はゆっくりと紅茶を飲み、本をめくり始めた。

そして、時折ベッドを見る。

そこには眠る青年がいた。

身じろぎひとつせずにまるで死んだように動かない。でも生きている。

彼女は何も言わない。

ただ、本に目を落とす。

穏やかな昼下がり。

魔女は静かに待ち続ける。









彼女は魂喰らいの魔女。


賢女と呼び声高き、魂を救う者。


彼女には救いたいヒトがいた。


でも、そのヒトはずっと眠っている。

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