第3話 季節外れの桜に気を付けて
桜と言うものを知っているか。
バラ科モモ亜科スモモ属の落葉樹。もっとわかりやすく言えば春にすぐに散ってしまうというのに、毎年飽きもせず桃色の花を咲かせるあの桜だ。
道を歩いていたら桜が咲いていた。それはそれは淡雪のように薄紅色の桜で、あぁ、血が足りないんだな。とすぐに分かった。桜は血を飲めば飲むだけ桃色が濃くなる。あ?そんなのは常識だろ。
自分は少し血を分けてやろうとその木に近づいた。正直歩きづめで疲れていたし、歩くのに飽きていた。花の妖怪同士何か思うところがあったかもしれないがまあ、暇つぶしと言うやつだ。
紅葉した橙の葉と共に散る姿は薄暗がりの中でも綺麗に見えたが、理由をこじつけるなら個人的にはもう少し濃い桃色が好みだからと言う事にしておこう。自分の血を飲めばこの髪のような薄紫とも桃ともつかぬ綺麗な色になるだろうと思ってな。
季節感?桜とて生きている。気まぐれに葉と花を同時に散らせて遊びたくなる時もあるだろう?
やけに怪訝そうな顔をするな?お前まさか人間か?あぁ、人間だからそのようなよく分からない布を纏っているのか。そこは理解できた。あー言うな。主人の好みなんだろう。珍妙な趣味を持つご主人様がいると大変だな。同情はしてやる。
で、ここはどこだ。鉄の妖怪がうようよいるが何故一様に口を利かない?
自分?自分は妖怪だ。どこにでもいるただの妖怪。何をそんなに驚く事がある?妖怪なんて見渡せばどこにでもいるだろう?人間だからと言って見た事が無いはずはないだろ。まさか囲われていたのを逃げてきたのか?
勘弁してくれ。自分はそういうものに興味はない。自分が興味があるのは……そうだ。電脳遊戯(ゲーム)。自分の持っていた電脳遊戯はどこに行った。というより、初回限定特典のセルロイド人形(フィギュア)と予約特典の添い寝用敷布(添い寝シーツ)、はたまた店舗特典の特製電脳遊戯版袋(ゲームケース)はどこに行った。風呂敷に大事に大事に包んであったんだぞ。何故無い。あんな分かりやすい大きさのものが何故無い!!
せっかく勇気とお金を振り絞って3つ隣の街まで行って買ったのに。ぶっちゃけ電脳遊戯よりそっちの各種特典が欲しくて3日前に家を出て頑張って行ったのに、なぜ電脳遊戯本体だけがあるのか。
なんだ。憐れむような目で見るな!と言うかお前泣いているのか?この悲しみが分かるのか!!おぉ友よ。電脳遊戯を好む者に悪い奴はいない!そうだな。
で、もう一度訊こう。ここはどこだ?
現代?まて、まさか……お前、幹の交差する桜を見たいのか?そこに手を伸ばしたのか?そして十……数えたのか?自分を同じように。
何てことだ……暇つぶしに噂話を試そうとした自分が馬鹿だった。
電脳遊戯の様に異界のものを呼ぼうとしたのに、自分が引っ張られるなんて……
だがしかし、こうなっては仕方ない。
自分は藤の花の妖怪。全く持って不服極まりないが1年付き従わせてもらう ヨロシク
マシンガントークで話していた着物姿のロリ人形はそういって頭を下げた。2次元だけが友達だったけど、少しは面白くなりそうだ。
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龍川 那月は『妖怪社会』の住人です。薄紫の髪でゲーマーな貴方は暇つぶし目的で手を伸ばしましたが逆に引っ張られてしまいました。時刻は秋の6時です。
『たられば』の世界より
世界観設定はこちらからお借りしています。
https://twishort.com/oBbic
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