第2話 好きの最終形
*BL、ヤンデレネタです。ご注意ください
『おい、A。また全国模試で1位だってよ』
『A君って今度芸能界はいるんでしょ?』
『俺はモデルになるって聞いたぜ』
『でもあいつんちすげー金持ちじゃね?』
『え、そうなの?なんなんだよ。あいつ』
完璧超人の名を欲しいままにするAと言う男子高校生。
両親からの愛を一身に受け、女子からの誘いは引く手数多、男子からは羨望のまなざしを向けられるA。小さい時からそれは当たり前で、欲しい物は何でも手に入る。この世に手に入らないものはない。そう誰もが思い、Aもまたそう確信していた。
しかし、世の中の概ね全てのものが手に入るAにも決して手に入らないものが1つだけ出来てしまった。
それはAの家にやってきていた家庭教師で、Aが生まれて初めて特別だと想った相手だった。
どんな美女もその家庭教師の前では霞んで見え、どんな綺麗な旋律も家庭教師の声には叶わなかった。恋い焦がれ、思い悩み、何度も諦めようとした。しかししようとすればする程、想いは募りAの首を絞めていった。
「先生のトクベツにしてください」
その想いを胸の内に留めておけなくなったAは件の家庭教師にそう告白をした。先生は苦笑してAに言った。
「僕たちは男同士だよ?」
そう、Aが初めて特別だと思った相手。それはあろうことか自分と同じ性別だった。だからこそAには手に入らないと知っていたし、確信していた。こんな感情はおかしいと何度も捨てようと諦めようとした。
「ですよね。演劇部の子に劇に出てくれないかと頼まれて……実際に人を目の前にしたらどうかなと」
苦しい言い訳。
「あぁ。A君は声が通るからね。スタイルが良いから見栄えもするだろうし。そういう事ならいくらでも練習相手になるよ」
先生はそう笑った。その笑顔が眩しくて、声が心地よくて、手に入らないとしても誰にも渡したくない。とAは心から思った。
古今東西ヤンデレの人物を振ったせいで殺されるという話は後を絶たない。Aはそんな話をネットで見ながら自分もきっとヤンデレの類だろうと他人事のように思う。しかし、Aにはどうしても分からない事があった。
それは【殺す】という手に入れ方。
殺せば相手は誰も見ず、誰にも触れず、誰の食事も、誰と同じ空気も吸わない。でもそれは、自分とも何もしないと言う事だ。
先生の声も笑顔も自分だけが独占したい=殺して誰の手にも届かない所へ。とのはAの中で何か違う気がした。それでは先生の声も聞けず笑顔ももう見られない。それに、好きな人が痛い思いをするのは嫌だった。
Aには兄弟はいなかったが同年代の従妹がいた。可愛らしく夢見がちで惚れっぽい女の子だ。A程でなくても優しくてかっこいい男性にはもれなく惚れる。そう、先生の様に。
Aは従妹に先生を会わせた。思った通り従妹は先生を好きになり、先生もまんざらではない様だった。Aはその従妹と先生の恋のキューピッドを買って出た。時に相談にのり、時に、アリバイ作りに協力し、時に喧嘩を取り持つ。Aはその間楽しくて仕方なかった。先生の事を知り、先生の信頼を勝ち取っていくのは、受験よりスポーツより心躍る事だった。
数年後ついに2人は結婚することになった。と言っても、従妹の惚れっぽさは男癖の悪さに進化していたから、結婚などしたくないと駄々をこねていたけれど。
Aはずっと温め続けた言葉を従妹にかけた。
「籍だけ入れたら、好きな男のところへ行くといいよ」
従妹の悪い所は、男癖が悪い所と、一度信じた相手を疑わない所だ。Aの言葉通り籍を入れた次の朝、従妹は何も残さずに姿を消した。
捜索願を出し涙にくれる先生にAは優しく声をかける。
「待ちましょう。きっとすぐに見つかりますよ」
「A君。ありがとう」
先生はAの胸で涙が枯れるまで泣き、Aと共に従妹の帰りを待ち続けた。
ー 先生。僕は嘘をつきました。従妹はいなくなったりしていません。裏庭でずっと寝てるんです……これからも、ね -
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龍川那月さんは以下の中で一番多かったお題を書いて下さい。
一番多かったお題:好きだからこそ
お題アンケートより
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