お題を消化する話

第1話 暗闇に光を灯す。

 私には特殊能力がある。

 ただ、現代社会においてこの能力はほぼ無価値に等しく、使いどころがなく、また使った場合の代償も大きすぎて使う事はない。そう信じていた。

 が、いまさら何を言っても遅い。

 その力を使う時は今なのだ。


 状況を説明する。

 現在時刻は19時45分。場所は体育倉庫。隣には好きな男子が密着している。2人とも運動着。ラブ展開を期待したい。したいが、すごく悲しい現実として、私たちは付き合ってはいないし、漫画にありがちなハプニングで押し倒されたわけでもない。因みに彼はフリーですらないという事前情報によりラブ展開はお預けだ。

「そろそろ学校閉まっちゃうね」

 暗闇の中、下校を促す放送を聴き少し震えながら彼が言う。

「あっ、うん」

 もう少し詳しく解説しよう。

 季節は冬。現在外では音もなく雪が降り、私達は閉じ込められている。部活終了後、先輩に頼まれて片付けをしていた私達。

 さて終わったと出ようとしたところ、私がバスケットボール部のうっかりでしまい忘れたボールに転び、彼を後ろから押す形に。バランスを崩した彼がバレーボール部が雑に片付けたポールを倒し、何故か奇跡の様にうまい雪崩が起こり出られなくなった。

 どんなコメディだよ!と私は心の中で今年一番の突っ込みを入れ、彼は呆然としていた。多分心の中で突っ込みは入っていたと思う。口に出してくれたらどんなにか助かるが、彼の口は動かなかった。

 そんなことが1時間ほど前にあり、私達は寒いので身を寄せ合い助けを待った。片付けて出ればいいとも思ったが、本当に奇跡の様な雪崩は一つ動かせば全てが倒れてくるという特別仕様の為諦めた。暫くすれば誰か助けに来てくれる。そんな淡い期待がなかったわけではないが、結果は見ての通り、誰も来ない。

 誰かが確認もせず電気を消したのか、体育倉庫の電機は消え、完全な暗闇の中寒さが私たちを襲う。このままでは凍死する可能性もある。


「私、助けを呼ぶ方法知ってるよ」

 覚悟を決めて私はそう切り出した。

「そうなの?それならもっと早く言ってよ」

 彼の明るい声。

「ごめんごめん。忘れてて」

 私も明るくそう返す。

 もっと早く言うべきだった。でも言えなかった。私の能力を使えば助けは呼べる。でも……彼の声に少し覚悟が揺らぐ。

「寒いから、一瞬だけぎゅってしてもいい?そしたら呼ぶから、助け」

 声が震えた。彼は寒さのせいだと思ったのか、ぎゅっと抱きしめてくれた。汗の匂いがする。でも嫌いじゃない匂いだ。


「ありがとう。見られると恥ずかしいからちょっと離れてて」

 私はそっと彼から離れ、少し距離を置いた。そしてポケットに入っていたお守りを取り出す。友達に頼み込んでこっそり撮ってもらった私のお守りで何より大事な彼の写真。

 目を閉じ指先に意識を集中する。体中の熱が指の先に集まって指先が熱い位だ。

「さよなら」

 小さくつぶやいた言葉はきっと聞こえなかっただろう。彼の写真に火がついたのと私の意識が途切れたのは同タイミングだった。


 どんな施設にも火災感知器はある。体育倉庫には熱と煙を感知して通報するシステムがあるから、隠れて吸ってもばれるぞと顧問の先生が1年の時に言っていたのを何故か私は憶えていてしまった。


 私の能力。光の差し込まない暗闇で紙製品に火をつける事が出来る能力。代償として命を失う、存在意義を疑う様な能力。


 一生使う機会なんてないと思っていた。でも、まあ、仕方ないよね。好きな人が死ぬかもしれないなら、仕方ないよ。


____________


龍川 那月さんの能力は”紙製品に火をつける”です

制限・発動条件:光の差し込まない暗闇でのみ使える

代償:使うと死ぬ


貴方が目覚める能力診断より

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