第39話 親友と離れて
くっそー。レオンのバカタレ!
帰って来たらタダじゃおかないからな!
あまりの腹立たしさに、朝から最悪の気分だ。
周りを散々心配させておいて、呑気に酔っ払いやがって!あームカムカする。
眠気覚ましにコーヒーを淹れていると、ジュリアもアリアを連れて起きてきた。
「おはよう。君もコーヒー飲む?」
「ええ、いただくわ。」
「レオンにやっと連絡がついたよ。」
「本当!何処にいるの?」
「それがさ…。君の言った通りだったよ。」
俺はジュリアにレオンの様子を伝えた。
「まったく。何考えてるのかしら?早く連れ戻さなくちゃ。夏が可哀想よ。」
「また、後で連絡してみるよ。奴とちゃんと話すまで夏には内緒にしておこう。」
「そうね。その方がいいかも。」
ジュリアに話すと、怒りが少しは治まった。
かといって夏に嘘をついたことを、許してやる気は毛頭ない。
「そろそろ夏が来る頃だろう?何処に案内するか決めてるかい?」
「いろいろ案内してあげたいんだけど、先ずディックに連絡してみようと思うの。」
ディックはジュリアが結婚前に世話になっていた、映画や舞台のセットを作っている会社の人間だ。
「それはいい。彼ならいい物を見せてくれるだろう。俺も何人か舞台裏を見せてくれる人を、あたってみよう。」
「ありがとう。でも夏が一番見たいのは、レオンの家でしょうね。」ジュリアが嬉しそうにクスクス笑う。
「教えてやればいいじゃないか。君のデザインだろう。」
「ダメよ。楽しみがなくなるじゃない。でも、つい私のデザインよって言っちゃいそうになるわ。私のデザインに興味を持ってくれて、それが二人を引き合わせる事になるなんて、凄く誇らしい気分。」ジュリアは照れ笑いをする。
「君はいい仕事をしていたよ。カレンやクリスティーンは未だに君の仕事を褒めてるんだ。」
ジュリアは頬を紅潮させ瞳を輝かせた。
「こんにちは。お言葉に甘えてお世話になります。」
夏がアダムに連られて我が家へやって来た。
「今日の予定がまだなら、近くの公園でランチをどうかしら?マザーの家のキッチンを借りてお弁当を作ってきたの。」
「いいわね。行きましょう。」ジュリアが賛成した。あれ以来ジュリアは家に引きこもっていたので、外出する気になってくれたのが嬉しい。
アリアも公園でピクニックすると聞いて大喜びだ。
「じゃあコートパークはどうだい?プライベートパークだからキレイだし、遊具もたくさんある。」
「あなたが子供の遊び場情報を持ってるなんて意外だわ。」ジュリアが俺をチラリと横目で見る。
「広告の製作会社がプラヤビスタの商業施設に入ったんだ。これはそこの担当者の受け売り。さあ早く準備しよう。」
これ以上変な雰囲気にならないよう、ジュリアとアリアを急かせた。
ライアンの運転でコートパークにやって来た。
コートパークはオフィスパーク用に作られた憩いの場らしい。
公園内にはたくさんの遊具があり、日本では見かけない型のものばかりだ。
トイレには洗った手を乾かす為に、ダイソン社の乾燥機まで設置されていた。
これは大人でもテンションが上がる公園だ。
もちろん私はアリアと一緒にいろんな遊具を楽しんだ。
ライアンは一生懸命アリアの写真を撮りまくっている。
私が作ったお弁当も大好評だった。
とくにアンパンマンや動物のキャラにしたオニギリは絶賛してくれた。
お腹が膨らむとアリアは、また遊具で遊びたいと言い、ジュリアを引っ張っていった。
「夏、もしかしてジュリアの為にお弁当作って、公園に誘ってくれたんじゃないか?」
ライアンが唐突に尋ねてきた。
「そんな大袈裟な事じゃないの。ただ昨日の会話の中で皆んな気分転換が必要なのかなって…。勝手に思っただけなの。もちろん私にもね。」
「やっぱり夏はいい人だ。俺の申し出を受けてくれてありがとう。」
「あんな好条件を断わる人いる?すごく楽しみにしてるの。」私は笑ってみせた。
「我が家へ来てくれたこと、絶対後悔させないよ。丘の家の件も任せてくれていい。」
私はライアンに大きく頷いて、アリアとジュリアの仲間に入りに行った。
LAに居る間夏はライアンの家に滞在する事になり、アダムに付き添われマザーの家を出て行った。
マザーは昨日夏をライアンの家に行かせる時から、こうなると予測していたみたいだ。
今日から私はマザーの教育を受ける。
LAに来るまでは自分の能力が、ただの思い込みか或はそうではないのかを知るだけだと思っていた。
まさか自分に本当に能力があって、その力と使命を理解しコントロールする事や歴史、他の能力者との交わりなど知らなければならない事があるとは、考えてもみなかった。
マザーに言わせれば、私はまだ能力者として初心者同然らしい。
自分でもそうだと思う。なぜなら自分はもしかして他の人と少し違うのではないかと、気づき始めたのは最近になってからだからだ。
マザーは言った。私はコネクターなのだと。
世界には様々な能力を持つ人がいて、他人の考えや心を読める人、他人の過去が見える人、逆に未来が見える人、死者と話す人。
映画や小説の世界じゃなく実在するのだと言った。
そして私は人と人とを結びつける力を持っている。能力者の間では、その力を持つ人間をコネクターと呼ぶらしい。
マザーの教えてくれる内容が、自分が考えていた事より遥かに大きくて、実際は戸惑っている。
この人とこの人なら気が合うんじゃないかと感じ始めたのは小学校三年生ぐらいからだった。
中学生になると自分も周りも恋心に目覚め、上手くいきそうな友人を見つけると仲を取り持ったりもしていたので、高校生になる頃には『縁結び』などと呼ばれるようになっていた。
そして働き出してからは、その力が仕事に大きく影響した。
インテリアのデザインは、そのお客様の好みや趣味、人となりを知る事が重要なのだ。
夏はお客様の気持ちを、自然に引き出す術を心得ていた。
私には起業家や店舗経営者の顧客が多くいた。
それは私が仕事の枠を越え、この人とこの人なら…。という力を発揮したからだ。
レストラン経営者とシェフ、従業員。意外に孤立してしまいがちな起業家には、趣味や考え方の合う友人。
マザーは言う。今迄は大きなトラブルがなかったのが幸いだと。そして間違えた組合せによって不幸な出来事も起きてしまうのだと。
親友、同士、恋人、その出逢いは必ずしも偶然とは限らない。
私のような者の力によって引き合わされ、幸福になる人もいれば、同じ志を持ち大変な事態を起こすこともあるのだ。
それは歴史に名を残す偉人達が、多く物語っているという。
そして、その力を悪意に利用しようとする人間もいるということを、忘れてはならないと教えられた。
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