第38話 新たな出逢い レオン

「ビールでいいかな?夏が留守する前に、全部片付けていったから何もないんだ。」

「いきなり押しかけたんですから、気にしないで下さい。」とは言ったものの空きっ腹にビールは…。

「改めて自己紹介するよ。俺は夏の二番目の兄でケント・カトリ。こいつらは俺と夏の兄貴の子供。ほら挨拶して」

「はじめまして、ショウ・カトリです。ショウちゃんって呼んでいいよ。」

「はじめまして、ソウ・カトリです。ソウちゃんでいいよ。おじさん外国人だったんだね。」

「二人とも小さいのに英語話せるんだね。」仲田が感心した。

「こいつらの母親が帰国子女だから、簡単な英語なら話せるんだ。」

「ショウチャン、ソウチャン、僕はレオン。よろしく。」双子に自己紹介して握手した。

「レオンおじさん。夏お姉ちゃんのお友達?」

「レオンでいいよ。残念だけど、まだちゃんと会ったことないんだ。」

「そうなんだ。じゃあいい物見せてあげる。」

 そう言って双子は本棚からアルバムを引っ張り出してきて、俺の膝の上にちょこんと座った。

「こらこらお前達、降りなさい!」

 ケントに叱られて、双子は降りてくれたが、俺の両脇にピッタリとくっついた。

 そこへふぅも仲間入りするように、俺の前でお座りした。なんだか逃げられないよう囲まれたみたいだ。

「レオン、見て。夏お姉ちゃんの写真がいっぱいあるよ。夏お姉ちゃん可愛いでしょ。」

 どの写真も笑っているサマーだった。それだけで俺も嬉しかった。

「この人は麻美お姉ちゃん。夏お姉ちゃんのお友達で、おじちゃんの彼女だよ。」

「ん?どれどれ、おーっ麻美。俺の彼女可愛いだろ?」ケントは彼女にベタ惚れのようだ。

「そうだね。可愛い人だね。」

「レオンの彼女はアメリカの人なの?」ショウが俺に聞いてきた。

「彼女はいないよ。」

「そうなんだ。でも夏お姉ちゃんはダメだよ。」ソウが口を尖らせる

「どうして?」

「もう、好きな人がいるから。」

「…。」マジ?付き合っている奴がいるなんて考えもしなかった。俺はなんてマヌケなんだ。サマーほどの女を男が放って置くわけがない。いや結婚してる訳じゃないんだから奪ってやる。でもサマーが幸せなら壊したくない。どうしたらいいんだ。

「夏お姉ちゃんはねぇ、ソウちゃんと結婚するんだよ。」

「相手の名前はソウチャンっていうのか…。」

 名前なんて知りたくなかったな…。ソウチャン…。ソウチャン…。ソウ…?お前かよ⁈

「ハッ、ハッハハ。ソウチャンは夏お姉ちゃんが大好きなんだね。」なんとか気をとり直してこたえた。

 子供の妄想で良かった。心臓に悪い。

「ところで、夏さんはいつ戻って来られるんですか?」仲田ナイスクエスチョン!

「再来週の月曜日まで帰って来ないよ。」

「10日後ですか…。レオンさんスケジュールは大丈夫なんですか?」

「今はオフだから大丈夫だけど、今どこにいるんですか?会えるなら、そこに行ってもいい。」

「あれっ?言わなかった?LAだよ。麻美も一緒に行ってるんだ。」ケントは呑気にこたえる。

「聞いてません‼︎」仲田と俺は声を揃えた。



 ケントからサマーがLAの何処に滞在しているのか聞き出そうとしたが、サマーの友人でLAに同行している麻美の知り合いの家に、泊まっているとしか聞かされていないようだ。

 サマーに連絡を取ってくれるように仲田がケントに頼んでくれた。

 ケントは少し考えてから、口を開いた。

「そんなにまでして、俺の妹に会いたい理由ってなに?」

 しまった…。まさか本当のことをいって理解されるとは思えない。

 口ごもる俺の代わりに、仲田がこたえた。

「以前来日した際、夏さんとお会いする機会がありまして、レオンさんはずっと夏さんにもう一度会いたいと思っておられたんです。」

 仲田!本当は何も知らないくせに、その説明はパーフェクトだ!

「ふーん。まあ連絡は取ってみるよ。」

 少し頼りない返事だが、ケントが約束してくれたので、様子をみることにした。

 もしサマーに連絡が取れなくても、10日後には帰って来るのだから、我慢して待てばいい。


「レオンさん僕は次の仕事がありますので、そちらに行かないといけないんですが、ホテルまで送りましょうか?」

「そうして貰えると助かるよ。」サマーの部屋を出るのは名残惜しいけど、ケントや双子の時間も邪魔しては悪い。

「いやいや、待て待て。レオンはもう少しゆっくりしていけよ。どうせ暇だろ?ホテルには俺が送ってやるから。」ケントが引き止めてくれるとは予想外だ。

「いいのかい?」

「わざわざ遠くから妹に会いに来てくれたんだ、遠慮なんてするなよ。」

「そうだよレオン。もっと遊ぼうよ。」

「じゃあ、そうさせて貰うよ。」


 一足先に仲田が帰り、ケントと双子はLAの事や仕事の事を聞いてきたので、撮り終えたばかりの映画の話をすると、絶対観に行くと言いって喜んでくれた。

「じゃあ、俺達も帰るか。あんまり遅くなると、お婆ちゃんが心配する。」ケントが腰を上げた。

「付き合わせて悪かったね。」

「何言ってんの?レオンも俺ん家に来いよ。」

「えっ?いや悪いよ。」

「いいって、俺ん家はお客様大歓迎。

 それにさ、ここにはない夏ちゃんグッズがいっぱいあるぞ。見たいだろ?」っとニタリと笑う。


 サマーのグッズだと…。みっ見たい!


「夏お姉ちゃんの小さい時の写真もあるよ。」

「おーっそうだ!高校生の時の夏は、兄貴が言うのもなんだが、メチャクチャ可愛いかったぞ。

 白いセーラー服でさぁ。いや〜あの頃は悪い虫がつかないように守るのが大変だった。」


 なんなんだ、この三人は?どうして俺のツボを心得てるんだ。


「家に連れて行って下さい!」

 完全降伏。俺は三人にお願いした。



「バァバ、だだいまー。」

「母さん、お客さん連れて来た。」

 ケントが家の奥に向かって声をかけた。奥の部屋からパタパタと足音立て年配の女性が出てきた。サマーとはあまり似ていない、どちらかと言うとケントとよく似ている。この人がお母さんだろう。

「おかえりなさい。お客様?」

「レオン入れよ。」ケントに手招きされ玄関に入り、サングラスと帽子を外して挨拶をした。

「ハジメマシテ、レオン・ビィンガムデス」

 何故か女性は驚きもせずニコニコしながら、スリッパを揃えて出した。

「いらっしゃい。どうぞゆっくりしてってね。」もしかして、この人も俺を知らないんだろうか?俺の知名度もたいしたもんじゃない。

「レオン、ここで靴を脱いで、ここに上がってから、靴を揃えるんだよ。」

 ショウが部屋に入る時の手本をみせてくれた。

「その前に、お邪魔します。って言うんだよ。」

 ソウが教えてくれた日本語の挨拶をまねして、ショウが教えてくれたようにして、部屋へ上がった。


 畳が敷かれた部屋に通され、お母さんらしき人がコーヒーを淹れてくれた。

 ありがたい、やっと飲み物にありつける。

 いつもはブラックだが、今日はミルクをほんの少し入れた。

「母さん、レオンは夏にわざわざ会いに来たんだって。」

「あら、そうなの?タイミングが悪かったね。夏に連絡とってあげなさいよ。」

「夏も到着したところで疲れてるだろう。明日にするよ。」

「そうね。」

 サマーの名前が出てきたから、きっとケントがお母さんに事情を話してくれているんだろう。

「夏の母です。自分の家だと思ってゆっくりしてちょうだい。ケント通訳して。」

「レオン、母さんが自分の家だと思っていいって。母さんはあまり英語が得意じゃないんだ。」ケントが通訳してくれた。

 お母さんは俺を見ながら、ずっとニコニコしている。凄くいい人そうで良かった。

「外人のお客さんだって。」

 そういいながら中年の男が、ツカツカと入ったきて、低いテーブルを挟んで俺の前に座った。

「レオン、俺達の親父。」

 ケントに紹介されて、また同じ挨拶をした。

 どうやら、サマーは父親似のようだ。

「話はチビ達から聞いたけど、せっかく来たのに残念だったな。」

 父親は英語が話せるようだ。

「はい。まさか行き違いになるとは思いもしませんでした。」

「あー、かしこまらなくていいよ。気楽にしてくれていいから。」父親はかなり気さくな人みたいだ。

「食事の用意をするから、先にお風呂にしたらどう?」

「じゃあ僕達が一緒に入ってあげる。」

 お母さんと双子が何か言って、俺は双子に手を引かれ風呂場に連れて行かれた。

 もしかして、俺は双子と風呂にはいるのか?

 …そのようだった。訳のわからないまま双子と日本の風呂に入っている。

 日本の風呂は木の香りがして、森林浴しているみたいで最高だった。双子が俺の背中を洗ってくれる。くすぐったいけど、心地いい。

 双子お前らチビのくせにグッジョブだ。


 風呂から出ると、着替えを用意してくれていた。

「やっぱり少し小さかったな。兄貴のジャージだけど、一番大っきいのそれしかないんだ。我慢してくれよ。」ケントが恐縮気味に言う。

「ありがとう。親切にしてくれて、お風呂凄く気持ち良かったよ。」

「さあ、腹へっただろ?御飯できてるぞ。」

「なんだか申し訳ないな。突然きたのに。」

「いいって、俺と親父も嬉しいんだ。」

 いきなり押しかけてきた俺を、歓迎してくれるのか?サマーの家族は、なんていい人ばかりなんだ。感激だ。

 夕食はすき焼きと寿司だった。

 サマーとケントの兄貴、裕也夫婦も来ていた。

「さあ、レオン飲もう。飲めるんだろ?」お父さんがビールを勧めてくれた。

「はい。いただきます。」

 風呂上がりのビールがこんなに美味いと思ったのは初めてかもしれない。

「いいねぇ。いい飲みっぷりだ。」

 お父さんは嬉しそうにおかわりを注いでくれ、お母さんがすき焼きと寿司を取り分けてくれた。

 サマーの家族に受け入れて貰えて、楽しくて嬉しくて本当に日本に来て良かったと思った。


 食事を済ませてからも、縁側に移動して俺とお父さんとケントとユウヤは、楽しく酒を汲み交わした。

「父さん、兄貴、レオンが来てくれて良かったな。」

「ああ、ケント。よく連れてきた。親孝行息子だ。」

「お前は、やれば出来る奴だと思ってたぞ!」

 三人ともずいぶん酔っ払ってきてるみたいだ。

 まあ、俺も珍しく酒が回ってるが。

「レオン、これ持って来てあげたよ。」

「おっ、これこれ、これを見せなきゃな!」

 お父さんが双子から受け取って、俺の膝にポンと載せる。

「お待たせしましたー。夏ちゃんアルバムだぞー。」ケントが声をあげる。

 しらふの双子が約束を守ってくれたみたいだ。

「さあ、見てみろよレオン。笑えるぞ!プッハハ」

 笑える?笑えるって何?とにかくアルバムを開いた。どこが笑えるんだろう?可愛い赤ちゃんのサマーだった。俺は可愛く成長していくサマーを想像した。

 何ページかめくっていくと、絆創膏だらけの子供が写っていた。大口を開け笑っている。中には刀や銃の玩具を振り回しているのもあった。

「これは、ユウヤかい?それともケント?」

「プッハハ、夏だよ。凄いだろ?」ケントが笑いながらこたえる。

「はっ?」これはどう見ても男の子だろ?ズボンはいてるし。

「夏はさあ、幼稚園に入るまで自分は男の子だと思ってたんだよね〜。ハッハハ。」ユウヤは昔を思い出したように笑い出す。

「夏は、もうやんちゃで。兄貴達より暴れん坊で、手を焼いたよ。」お父さんは懐かしそうに笑っている。

 俺は一人見てはいけない物を見せられた気がしていた。

「らいじょーぶだよ、レオン。あいつもちゃんと女らしくなったから。心配するなよぉー。」

 説得力のない酔っ払い口調でケントが言う。

「レオン、もっと後ろの方見たらいいよ。」

 そう言って双子がページをめくってくれた。

 こっこれは、そうだこれこそが俺の想像した、いや想像以上のサマーだ。

 長い髪をふたつに結んで、白いセーラー服を着たサマー。なんて可愛いんだ!

 双子、お前たちは俺のキューピットだ!

「なっ、嘘じゃないだろ?かぁいいだろ?俺の妹。」ケントが俺の肩に腕を回して顔を覗き込む。

「なっちゃんにカンパーイ!」ユウヤがグラスを上げる。

「なっちゃんにカンパーイ!」

 それにならって全員グラスをあげた。


 それからも俺達は飲み続けて、楽しい酒に俺はかなり酔っ払っていた。

「レオン、電話が鳴ってるよ。」

 双子が俺の携帯を持って来た。

「レオン!お前なにやってんだ!いつも言ってるだろ携帯にはちゃんと出るように!」

 ライアンはいきなりがなり立てた。スゲー怒ってるみたい。それが何故か笑えてきて、笑いが止まらなくなっていた。

 ライアンは当然ながら余計に怒り出す。

「わりぃー、おぢついたら連絡しよーと思ってたんだよぉ。怒んないで下しゃい。」

「お前酔っ払ってんのか?まあいい、今どこだ?」

「いまぁ?くっくく、サマーの実家。びっくりだろぉ?」

「お前何言ってんだ?まさか日本か?」

「そうだよぉー。」

「なんでだよ!まぁいい、お前サマーの事で俺に隠してる事あるだろ!」

「あっれぇ、バレちゃったあ?なんれ?俺はライアンだって言っちゃった。ごめんなー。」

 ライアンからの電話はいきなりプツンと切れた。

 俺は携帯を放り投げ、またお父さんと兄貴達の輪に加わった。




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