第36話 新たな出逢い 夏
「ジュリア、彼女にあの家の持ち主が誰か言った?」
「いいえ、そんな事本人の了解なしに言える訳ないじゃない。」
「詳しい事情は込み入っているから、後で話すよ。彼女はレオンに逢いにきたんだ。そしてレオンも彼女を探している。」
「やっぱり。そうじゃないかと思った。でも彼女は悪い人じゃないわ。マザーの紹介だもの。アダムが連れて来たわ。」
「どうしてマザーが…。いったい何者なんだ。」
「それに私彼女の家族を知ってるのよ。貴方も少なからず知ってるわ。」
「なぜ?君はともかく。俺は日本に知り合いはいないが。」
「アリアの揺り籠よ。あれを作ってくれたのは夏のお父さんよ。話していて偶然わかったのよ。彼女も驚いてた。省吾の家族しか知らない事も教えてくれたわ。省吾とも電話で話したから間違いない。」
「ショウゴって、君の日本の師匠だろ?なんて偶然なんだ。いや今ならどんな不思議であり得ない事でも信じられる。とにかく彼女に話しを聞いてみよう。」
「お待たせして申し訳ない。あの家をどうして見たくなったのかな?」
私はジュリアに伝えた様にライアンにも話した。
「なるほど、そういうことか…。」
ライアンはぶつぶつと口の中で呟くと、持ち主に連絡を取ってみると約束してくれた。
ジュリアが新しいコーヒーを淹れ直し勧めてくれたが、とても喉を通らない。
「マザーとはどういう知り合いなの?」
私は杏さんと麻美の事を話した。
「ケイトの事だね。杏という名前はセカンドネームだよ。たぶん杏と名乗る方が日本では仕事しやすいからだろうね。」
最初は尋問の様に質問攻めだったが、次第に話しは仕事や神戸の街のことになり、ジュリアとアリアも加わって、私の家族の話しで盛り上がった。
予定より長い時間を過ごしてしまい、そろそろ帰ることを告げると食事に誘われた。
ジュリアとアリアにも是非にと誘われムリだとは言えなかった。
麻美に連絡を入れると、麻美の具合も良くなっているようだったので、食事を済まて帰るからとマザーに伝言をたのんだ。
私達は近くのモールの中にあるファミリーレストランに入った。
「悪いね。子供連れだとこんな所しか入れなくて。」
「気にしないで下さい。こちらのファミリーレストランには馴染みがないですから。」
「それもそうね。」ジュリアが笑った。
そんなジュリアを見るライアンの目は優しかった。
「ナツ、提案なんだが君とジュリアさえ良ければLAに滞在する間は、我が家で過ごすというのは無理かな?」ライアンからの唐突な話しに戸惑いが隠せない。
「そんな今日会ったばかりで、泊めていただくなんて迷惑かけられません。」
「迷惑なんかじゃないわよ。もっと夏と話しがしたいわ。」ジュリアまで…。
「ナツがいてくれたら嬉しい!」アリアったら…。
けれどマザーのお城の様な豪邸で、落ち着かなかったがジュリアの側は居心地が良かった。
悩む私にライアンは追い討ちをかけるように、好条件を出してきた。
「ジュリアは映画や舞台のセットをつくる仕事をしていたと話しただろう。あの家の持ち主に連絡がつくまで、きっと君の興味のありそうな場所に案内できると思うよ。」
「アリアがいるのに無理よ。もちろんいっぱい案内してあげたいけれど…。」
「大丈夫さ。俺が面倒みる。君達は羽を伸ばすといい。」
「パパ、ディズニーランドに連れて行ってくれるの?」
「アリア、君はなんていい娘なんだ!ディズニーランドはパパが娘とデートしたい場所No. 1だ!ナツ、君が居てくれたらジュリアもアリアも楽しそうで、俺は嬉しいんだ。無茶を承知で頼むよ。どうかな?」
マザーが出がけに言った私がライアンの助けになるというのは、こういう意味かもしれないと思った。
「私は友達と一緒にマザーの家にお世話になると約束しています。私の一存では決められません。一度マザーの家に戻って二人に相談してきます。返事はそれからでもいいですか?」
「もちろんだよ。いい返事を期待しているよ。」
私達は食事を済ませ、ライアンの車でマザーの屋敷まで送ってもらった。
私は麻美とマザーに、ライアンが持ち主に連絡を取ってくれると約束してくれた事とライアンの家に滞在しないかと言われた事を相談した。
二人とも意外にあっさりと、私の好きにしていいと言ってくれた。
まるでこうなる事を予想していたかのような反応だ。
マザーはともかく麻美には、違和感が増すばかりで不安になる。
やはり麻美には何か他の目的があるに違いない。私の事はどうでもよくなったのかな…。
LAに着いてから天国と地獄を行き来している心地だ。きっと寿命が五年は短くなってる。
私は二人におやすみを言って部屋に戻っり、最初で最後のセレブ感を満喫することにした。
「あの、ライアン。夏のことありがとう。」
「俺に礼を言うことないさ。きっとナツもこちらに来てくれるだろう。」
「話してくれる?夏とレオンはどう繋がっているの?」
俺はレオンから聞いた全てを話した。クリスティーンが探偵を雇って探している事も、今朝からレオンに連絡がつかない事も話した。
ジュリアは目をまん丸にして、きょとんとした。そりゃあそうだろう。誰が信じるって言うんだ。但しナツに直に会って話した今は信じるしかないが。
「何故もっと早く教えてくれなかったの!もっと早く教えてくれていたら、もっと早く二人を会わせてあげられたかも知れないのに!」
「そんな、今日まで話せる状況じゃなかっただろう?てかレオンの話し信じるのか?こんな簡単に信じちゃうのか?君は実際にナツに会った後だからそんな風に言えるんだよ。」
「そうかも知れないけど、レオンの話しが信じられなくても、省吾に聞いてみる事は出来たわ!」
「そりゃあショウゴの娘だと聞いた時は、しくじったと思ったよ。レオンから聞いた時もちらっと君のこと思ったし、ごめん悪かったよ。」
「わかってくれればいいのよ。さっさとあの坊やを探し出して連れてきてちょうだい。」
俺は反発したい気持ちもあったが、これ以上言うとやぶ蛇だと思い我慢した。
「だけど、引っかかる事もあるのよね。」
「なに…?」やぶ蛇じゃあありませんように…。
「貴方を見た時の夏の反応よ。貴方が夏を見て妙な反応した理由はわかったけど、夏はほっとして力が抜けた様な反応してた。それに貴方に頼み事しに来た筈なのに、貴方に会うまでに帰ろうとしてた。それもかなり焦った様子で…。まるで貴方に会いたくないみたいな感じだったわ。何故かしら?」
「それは妙だな。俺はあの時パニクってたから気にしなかったけど、言われてみれば変な反応だったな。」
二人でこんなに話し合うのは久しぶりの事だった。結婚して初めてかも知れない。でき婚だったから余裕がなかったのだが、付き合っている頃は二人でよく話し明かした。ジュリアの瞳が恋人同士の頃のように生き生きしている。
ジュリアはずっとこんな風に話しがしたかったのかも知れないな。それを俺が無視したから、こんな事に…。
「もしかして、レオンはライアンだと思ってたんじゃないかしら?それなら辻褄が合う。」
「えっ?どういう意味?」
「だから、レオンがライアンだと名乗ったんじゃないの?」
「そんな、いくらバカなアイツでもそれは無いだろう。」
「そうかしら?夏は最初レオンに誘拐されたと思ってたんでしょう。しかもあのレオン・ビィンガムだと気づかなかったんだから。まあ普段のレオンなら仕方ないけどね。」とクスクス笑う。
「それなら、あり得るかも知れない。」
「でしょう。」
「ジュリア、君が賢い女で良かった。」
「…私が賢いなんて思ってくれるの?」
「今更何言ってるんだ?」
「私、ずっと貴方にバカだと思われていると思ってた…。」
「ジュリア、なんてこと言うんだ。俺は君を尊敬しても、バカだなんて思った事は一度もない。自分を貶めるような事言うんじゃない。」
「…ありがとう。」
ジュリアは俯き涙ぐんだ。
抱きしめたい衝動に駆られたが、今はまだ早いと苦し程にわかっていた。代わりに頭を撫でてティッシュを箱ごと渡し、アリアの様子を見に行った。
ナツの出現に感謝だな。
ナツ必ず俺がレオンを君の前に引きずり出して来てやるからな!
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