第25話 償い
キンコーン、キンコーン、キンコーン…。
けたたましインターホンの音で目覚めた。
ベッドサイドの目覚まし時計に目をやると8時を少し過ぎたところだった。
誰だよ。こんな朝っぱらから断りもなしに来るろくでなしは!
インターホンの画面を覗くと、クリスティーンの顔が画面いっぱいに現れた。
「さっさと開けなさいよレオン!どれだけお客様を待たせるつもり!」
くそっサムの奴しくじったな!勉強が出来ても中身は空っぽか⁈薄のろの馬鹿野朗め‼︎
クリスティーン相当怒ってるぞ。ヤバイ殺されるかも。とにかく今日も綺麗だねとかなんとかいって機嫌をとるんだ。
恐る恐る玄関ドアを開け、引き攣りまくった笑顔で出迎えた途端逃げ出したくなった。
うわーっクリスティーンが全速力で向かってくる。なんて足の速い女だ。逃げる間もなくクリスティーンが飛びついて俺の首に腕をまわした。このまま首をへし折られて殺されるのかなぁ。
「ありがとう、ありがとうレオン!」
と何度もお礼の言葉を口にする。
「くっ、苦しよ。クリスティーン腕離して。」
「レオン貴方にキスしてあげたい気分だけど、それはダメだわ」
サムが後からとぼとぼ歩いてきて、コホンと咳払いすると、やっとクリスティーンの腕から解放された。サムを薄のろの馬鹿野朗から命の恩人に昇格してやろう。
「昨夜は本当に申し訳ない。なんてお詫びすればいいか、僕に出来ることなら何でも言ってくれ。なんなら殴っても構わない。」
と頭を下げた。本当に面目なさそうだ。
「頭を殴るのは止めてあげてね。この人頭はいいのよ。私達お互いの気持ちを素直に打ち明けたの。レオン貴方のおかげよ。」
思わず吹き出しそうになった。しかし昨夜の誤解はあんまりだよなあ?尻軽扱いされてかなり凹んだんだから。
「殴るぐらいで気が済むとでも?」
「じゃあ何かして欲しい事とか、欲しい物とか何でも努力してみるよ」
じゃあサマーに会わせてくれと言いたいとこだが、無理なのは百以上も承知だ。
フンと鼻を鳴らし答えた。
「君に出来る事も欲しい物もない。だが何もお咎めなしはない。だから俺を君達の結婚式でベストマンを遣らせろ!これでどうだい?」
「えっ本当に⁈」
「私達まだそんなとこまで話し合ってないのよ」とクリスティーンがしどろもどろに答える。
「この後に及んで何グズグズ言ってるんだよ。
さっさとやっちまえよ。どーせやるんだろド派手な結婚式。」
「あの、すみませんが、そろそろ料理を運ばせて貰えませんか。」
サムとクリスティーンの後ろにジョシュが頭ひとつ飛び出して立っていた。
「ジョシュごめんなさい。重かったわよね。さあ運んでちょうだい」
クリスティーンはリビングはこちらかしらと指差すとジョシュを連れて入って行く。
「ここでいいわね。キレイに片付いてるのね。」
「ハウスクリーニングを頼んでるんだ。これは?」と料理を指差した。
「ホテルベルエアーのモーニングよ。朝食まだでしょ。」
「ああ、ついさっき起こされたんでね。」
「残りの料理を取って来ます。」
ジョシュを手伝おうと後をついて行く。
「首は大丈夫ですか?」
「なんとか生きてるよ。」
「僕も今朝やられました。あんなに嬉しそうなお嬢様を見るのは、初めてですよ。」
ジョシュも嬉しそうだ。
クリスティーンとサムにラブラブなところを見せつけらそうだったので、遠慮するジョシュを無理言って朝食に誘った。
そして案の定ラブラブ全開だった。
やはり少しだけ妬ける。なんて幸運な二人なんだ。子供の頃からずっと側にいて結ばれるなんて、俺は会いたくても会い方すらわからないんだぞ。
「貴方の方はどうなってるの?」
「どうなってるって何が?」
「気になってる人がいるんでしょ?その人とは真剣なんじゃないの?」
「クリスティーン、君は人の心が読めるのか⁉︎」
「いや〜ね。最近のレオンは分かりやす過ぎよ。スタッフの皆んなも言ってるわ。レオンは丸くなったって。ライアンと拗れたのも関係あるの?」
「ライアンとは何でもないよ。俺変わった?自覚ないけど。」
「そうね。以前は自分にも他人にも興味ないって感じだった。で、その人とはどうなってるの?」
「恋愛とかって言うんじゃないんだ。ただ気になる事があるんだ…。」
三人に夢で起きた出来事を話してみた。あくまでも夢として…。
「う〜ん時差はあってるね。だが物理的には瞬間移動は不可能としか言えないなぁ。」
「時差か。考えなかったな。」
サムに否定されたにも関わらず自分の見落していた事に気付いて納得する。
「もうサムったら、物理で物事が全て解決するわけじゃないのよ。それに日本人を侮っちゃダメよ。日本には昔忍者がいて、妖術とか使うんだから!」
「クリスティーン、それはアニメだろ。」
「いいわ、じゃあその人を探してハッキリさせましょう。」
サムに否定されたクリスティーンがムキになる。
「レオンが最初に夢に見た場所だけど、えっとワンちゃんといた場所に何かもっと特徴はないの?朝の散歩としたら自宅からそう遠くないはずよ。」
勢いづいたクリスティーンに押され、仕方なく絵を描いて見せた。
「レオン…。役者の才能があって良かったわね。」
「悪かったね。下手くそな絵で!」
「まって下さい。このマーク見たいなのがあるのは神社ですね。この魚は?」それまで黙っていたジョシュが口を開いた。
「鯉だったよ。石で出来た鉢の所に鯉の像があったんだ。」
「ジョシュはね日本の武道を習ってるのよ。だから私達より日本の文化に詳しいわね。」
「そんなに詳しくはないですよ。ただ試合で日本に行った時、日本人の武道家に神社へ連れて行って貰ったんです。試合前にお祈りに行くんですよ。教会の様なものですね。」
「その神社を探してみましょ」
と言うとクリスティーンはiPhoneを取り出しGoogleで検索し始めた。
「あったわ。レオン見て。」
クリスティーンがiPhoneを俺に差し出す。
「ここだ!間違いない!夢で行った場所と同じだ!」
「本当に⁉︎」三人が同時に声をあげる。
その神社の他の画像も見て間違いないと確信した。
「ああ間違いない。それに神社の名前、北野神社ってサマーが住んでる場所は北野町って言ってた。なんて事だ。本当にあったなんて。」
俺はメチャクチャ興奮した。今すぐにでもサマーに会いに行けそうな気がしたぐらいに。
クリスティーン達も同じぐらい興奮していた。
「北野町ね。日本、神戸、北野町…。出てきた。そんなに大きな町じゃないわ。凄いじゃない。ほら綺麗な町よ。見てご覧なさい。」
またクリスティーンがiPhoneを差し出した。
ここがサマーの住む町か。何故か泣きそになった。行き止まりだと思ってた。夢だったんだと諦めようとしてた。こんな事誰も信じてはくれないと思っていた。そんな想いにクリスティーン達が光を照らしてくれた。
「皆んなありがとう。なんて感謝すればいい。信じてくれるなんて思わなかったよ。」
「感謝の言葉はまだ早いわよ。レオン。」
「えっ?」
「私言ったはずよ。サマーを探すって!」
「でもどうやって?」
「探偵さ」
「気にしないで、日本のアニメの決め台詞だよ。でもかなり手がかりがあるから探偵をつかえば直ぐに見つかる筈だよ。君には借りがある。僕達に任せてくれるね?」
サムがポンと俺の肩に手を置く。ダメだ涙腺が決壊する…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます