第20話 最悪の再会

 7月も終わりに近づき、ライアンの手がかりが見つけられないまま2週間が過ぎた。

 ライアンは私の事を忘れてしまっただろうか?

 最後に会った時は体調が悪そうだった。無事に過ごせているのだろうか?

 誰も信じてくれない様な出会いで、思い詰める自分は変なんじゃないかとさえ思えてくる。

 アサミは「こんな素敵なデザインの家なんだから、何かの賞をとっているかもしれない。」「雑誌に載せているかもしれない。」といっては調べてくれたが、何の手がかりもないままだった。

「夏、もう18:00だよ。帰りに元町商店街の夜店に行こうよ。」

 アサミに声をかけられて、もうそんな時間になっているのに気づいた。

「うん、いいよ。金魚すくい対決する?」

「負けた方が晩御飯奢りね。」とアサミが自信ありげにニンマリする。

 帰り仕度を済ませ、三ノ宮センター街をブラブラ歩いて元町に向った。

 大丸前のスクランブル交差点で信号待ちをしていると「夏お姉ちゃ〜ん」声と同時に腰のあたりにドシンと小さな塊が二つぶつかってきた。

「うわっ!ショウソウもうビックリした。夜店に来たの?」

「うん、金魚すくいとボールすくいするの」

「たこ焼きとジュース」

 二人同時に喋りだす。

「よお、夏。いい所であった。」

 二番目の兄賢斗が呑気に声をかけてきた。

「賢にぃ。こんな人混みで手を離しちゃダメじゃない」

「こいつらすばしこいんだよ。お前も一緒に面倒みてくれよ。」

「ダメだよ。友達も一緒だもん。」

「夏…」アサミが小声で紹介を促す。

「賢にぃ、こちら会社の同僚で友達の御蔵麻美ミクラ アサミさん。麻美、二番目の兄の賢斗。この子達は上の兄の双子で翔と湊。」

「初めまして、御蔵麻美です。」

「初めまして、妹がいつもお世話になってます。お前達もちゃんとご挨拶しなさい。」

 いつもお調子者の兄が大人ぶってるのが、照れ臭くて笑える。

「こんばんは、翔、湊です。5才です。」

 また二人同時に喋りだす。一卵性双生児だけあって、いつも息がぴったりだ。

「こんばんは。ちゃんとご挨拶できて偉いね。私も一緒に夜店に行ってもいい?」

「いいよ。」

 双子達は同時に答えると麻美の両手を繋いだ。

「麻美いいの?」

「多勢の方が楽しい。二人とも人懐こくって可愛い。」

「ごめんね。こら翔、湊、おじちゃんと手を繋ぎなさい。」

「やだあ!麻美お姉ちゃんがいい!」

「ダメだよ。人が沢山いるから迷惑になるよ。湊は夏お姉ちゃんと手を繋ごう。」

 信号が変わり私達は元町商店街に入った。

 1.2kmにわたる元町商店街の夜店は、ほとんど商店街の人達が出している夜店なので、安くて美味しい店が沢山並んでいる。そんな訳で毎年ながら大盛況だ。

「パパとママは?」

「お仕事だよ。だからおじちゃんと来たの。」

 兄夫婦は実家の近くに住んでいて、義姉も仕事をしている。なので双子達は孫を溺愛しているジィジとバァバの家に入り浸りだ。

「あっ!金魚すくいあった!」

 麻美と前を歩いていた翔がいち早く金魚すくいを見つけ、私は湊に早く早くと手を引かれ金魚すくいの順番待ちの列に入った。

「よし、お前達。約束通り負けた人がジュースを奢るんだぞ。」

「賢にぃったら、子供相手になんてこと言うの」

「私達も金魚すくいで食事賭けてるでしょ。忘れた?」

「いいね。大人チームは負けたら食事奢りね。」

「いいですよ。」

「麻美!そんな約束しちゃダメ。この人遠慮ないんだから!」

 賢にぃは子供の頃から金魚すくいの達人だ。必死で止めたにも関わらず、二人は勝負する気満々で結局私も参戦する羽目になった。

 この勝負、麻美や双子達の為にも絶対に負けられない‼︎

「ヨーイ、スタート!」

 賢にぃの合図で一斉に金魚をすくいだす。

 結果、強敵のはずの賢にぃが、たった三匹で破れ双子達は仲良く五匹づつすくった。

 私は十匹ほどすくって破れ、なんと麻美は金魚を入れる器をお代わりをしてすくい続けたものだから、順番待ちをしていた人から声援までされていた。

 当然ながら麻美は双子達から羨望の眼差しで見られ、賢にぃは双子達から「早くフルーツジュース買ってきて。たこ焼きも」と下僕扱いされる次第となった。

 賢にぃが買って来てくれたジュースとたこ焼きで小腹を満たしたので、双子達は下僕の賢にぃを連れスーパーボールすくいに向った。

 私と麻美は後から出店を見ながら歩いているうち、双子達から置いてきぼりにされたようだ。

 麻美の金魚すくいの腕前に驚いた事や、賢にぃに何を奢らせようかとか話していると、いきなり肩をぐっと掴まれ小さく悲鳴をあげる。

 振り返ると後藤和也が満面の笑みで立っていた。

 何故この人は何事も無かったかのように笑っているのだろうか?

 この人に肩を掴まれる関係は終わっていると思うのは私だけ?

 いや、違うようだ。麻美の顔つきが変わっている。きっと麻美も私と同じように感じてるのだろう。

 懐かしいとか、また宜しくとかみたいな事を親しげに話しているが全く耳に入らなかった。ただただ厚かましさに呆気にとられる。

「連れを待たせてますので失礼します。」と返し立ち去ろうと背中を向け歩きだす。今度は腕をぐっと掴まれ驚きのあまり声すら出ない。

 振り向くと麻美が私と彼の間に割って入るようにいた。ちょうど私と麻美が背中合わせになり、私の腕を掴んだ彼の腕を麻美が掴んでいる。後ろ向きで聞き取れなかったが、麻美は彼に耳打ちし彼の顔色がかわる。私は咄嗟に「和也逃げて」と忠告しそうにった。麻美は合気道の有段者だ。師範になれるほどの腕前だと聞いている。

 しかし彼は私が忠告するまでもなく、サッサと逃げ出した。

「麻美、ありがとう。」

「たいした事ないよ。でもこれから気をつけてね。」

「もう何の感情も湧いて来ないと思ってたけど、実際に顔を合わせると何て言うか…ムカつく…」

 きゃははと麻美は笑いながら「そりゃああんな厚かましい態度で来られたら誰だってムカつくわよ。」

「だよねぇ。あの態度はないわよ。賢にぃったら肝心な時にいないんだから!」

 と行き場のない腹立ちを賢にぃのせいにした。

「俺が何かした?」

 噂をすればってやつで本人に声をかけられ、麻美と二人して驚いた。

「賢にぃに何をご馳走してもらうか話してたんだよ。」

「嘘つけ。どうせ俺の金魚すくいの腕前を笑ってたんだろ?」とニヤリと笑う。

 それから双子達を連れて帰って30分で戻るから、何処かで待ってるようにと言うと、双子達を連れて帰っていった。


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