第21話 事前のリサーチ

 賢にぃは約束通り30分きっかりに戻ってきた。

 私達はイタリアンかお寿司か迷ったが、結局落ち着ける個室がある居酒屋に入った。

 賢にぃは私達を送るため車で来てくれたらしく、ウーロン茶で我慢していたが、私と麻美は遠慮なくビールを飲んだ。

「双子ちゃん本当に可愛いね。」と麻美が話題を振ってくる。

「賢にぃ、あの子達麻美にお付き合いしてる人いますか?って聞いたのよ!叱ったら、シゼンのリサーが大事なんだよ。って言ったのよ。」

「きっと事前のリサーチって言ってたのよ」

「最近大人の口真似ばかりするの」

「あいつら九官鳥みたいに言葉を覚えるもんだから、親父がいろいろ教えるんだよ。」

「賢にぃの事も言ってたよ。おじちゃんは、いつまでも子供みたいだから結婚出来ないんだよ。ってね。」

「あいつらぁ余計な事を…。明日たっぷりお仕置きしてやる」

 賢にぃを奮い立たせた事に満足して、私はトイレに席を立った。


「夜店では妹を守ってくれて、ありがとう。」

「見てたんですか⁉︎」

「麻美さんがあの男と夏の間に入って睨みを利かせてたんで、俺の出る幕ないかなぁって…見てました。あの男何者?」

「夏の元カレ」

「あいつ見る目ないな。で、あの時何て言ったの?」

「ただの忠告ですよ。話した事夏に内緒にして下さいね。」

「言えません。言ったら何で助けに来なかったんだ!って文句言われるでしょ?」

「それもそうですね。」と麻美は屈託なくわらった。

「今日はお礼とお詫びにご馳走しますから、遠慮しないでいいですよ。」


 トイレから戻ると二人が楽しそうに話していたので安心した、反面おしゃべりな賢にぃが余計な事言ってないか気になった。

「何話してるの?」

「夏、幼稚園に入るまで自分は男の子だと思ってたんだって?」

 予感的中‼︎トイレに行ってる間、私の子供時代の恥ずかしい話しで盛り上がっていたらしい。

 それからも暫く二人にイジられた。

 ふと賢にぃと麻美が目配せする。

 変な間があくと二人が同時に小さな箱を差し出す。

「お誕生日おめでとう」

「覚えててくれたの?」

「夏、開けてみて。」

 麻美がくれた方から開けてみると中にはルビーのピアスが入っていた。

 賢にぃの方にはピアスとお揃いのネックレス。

「お前が双子達と的当てゲームしてる時に、麻美さんに選んでもらったんだ。」

「麻美、賢にぃ。ありがとう。凄く嬉しい。大切にするね。」

 さっそく付けて見せると、麻美は似合うと褒めてくれたが、賢にぃは「お前もちゃんと女らしくなって良かった」と笑いをとった。

 ライアンは私の誕生日を覚えてくれているだろうか?覚えていてくれたとしても、どうでもいい事かもしれない。東遊園地に突然現れて消えて以来姿を見せないのだから、きっと私の事など忘れているのだろう。

 麻美と賢にぃの笑顔を見ていると、いつまでも非現実的な想いに囚われていてはいけない気がした。

 そろそろお開きにしようと賢にぃが言い出した。

 麻美の家はうちの実家と同じ方角なので、私を先に送ってくれた。

「賢にぃご馳走さま。麻美また明日ね。おやすみ。」

「また明日、おやすみ。」

「おやすみ。」

 賢にぃは私がマンションのオートロックを解除して中に入るのを確認すると、車を発進させて帰って行った。


「賢斗さん金魚すくいわざと負けたでしょ?」

「さすがにチビ達に奢らせるわけにいかないでしょ?勝ったら家族から批難されるからね。」

 とクスリと笑う。

「今度リベンジマッチしますか?」

「まさか⁉︎あんな凄いとこみたら、闘志なくすよ。」

「てことは今日のは負けた奢りですね…?じゃあ今度、私をデートに誘って下さい。」

「えっ⁈」と驚くと車を道路の端に停め笑い出した。

「やだ、そこ笑うとこですか?」

「麻美さんって、せっかちな人だね。俺から誘うのを待てなかったの?」

「もう賢斗さんが早く言ってくれないから…。」

「妹のいる前で誘う奴いないでしよ?」

 賢斗はコホンと咳払いをひとつすると

「じゃあ改めて、今度誘いたいので連絡先教えて下さい。」と麻美に交際を申し込んだ。

 明日は双子達を叱るのはナシにしよう。こうなったのは双子達が、事前のリサーチをしてくれたお蔭だからと笑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る