第16話 恋愛と友情
もう一度サマーが現れた時から、さっき目覚めるまでの事を整理しよう。
冷静になって時系列で整理していけば、この異常な出来事の説明がつくかもしれない。
そう思い立つと矢も盾もたまらず直ぐに開始した。
どんな些細な事でも手がかりになりうるのだから、忘れないうちに一秒でも早くしなくては、サマーと俺に起きた出来事が繋がらなくなってしまうんじゃないかと気持ちばかりが焦りだす。
ノートに時間や話した内容、夢の内容を細かく書き出した。
まるで刑事の手帳の様だ。
だが共通点を幾つかみつけ、書き出したのは正解だったと我ながら感心してしまう。
共通点は風邪、熱、薬、そして夢だ。
サマーが消える直前呟いた言葉を思い出す。
「やだ、アラームが鳴ってる。もう起きなきゃ。もっと夢の続きを見ていたいのに…」
そうだ「私、夢を見てるのよ。だって眠っていたんだもの。なんていい夢なの。」とも言っていた。あの時は、あまりにも怯え過ぎていて現実逃避しているのだと思った。
だが俺に起きた出来事と照らし合せて考えるとどうだろう?
例え夢であろうとあまりにリアル過ぎないか?
突然見知らぬ場所にいて、感触や匂いや温度までしっかりと感じる事が出来た。そして男の自分でさえ怯えたんだ、これは夢だと現実逃避して当然じゃないか。実際に夢だったのだが…。
夢だが現実で現実だが夢だった…。ここまで考えて少しばかり混乱してきた。
こういう現象なんて言うんだったか?瞬間移動かタイムトラベル?
でもそんな事ばかげている。小説やドラマの作り話じゃないか。何度も否定できる部分を探したが、どうしても夢の中で現実が起きていると考えれば全て腑に落ちる。
俺にそんな不思議な能力などある筈がない。だとしたらサマーの能力なのか?
もし仮にサマーに不思議な能力があったとして、一体何の為に俺の前に現れたのか?
俺の正体すら分からず、あの怯え方は演技とは思えなかった。
やはり真実を確かめる方法はサマーに会って話しを聞く事だろう。
だが会って話すと言ってもどうやって…。まさかまた眠れば会いにいけるのだろうか?
確かにサマーに会いたいし、この現象の謎を解きたいとは思う。けれど眠るのが怖いと感じる自分は、なんと情けない臆病者なのか。
俺の透ける掌から見えたサマーの恐怖に歪んだ顔を思い出すと、もう二度とサマーを怖がらせたくない。
守ってやりたいとさえ思った女は初めてだった。なのに恐怖しか与えられないなんて惨すぎる。
勢いよく始めた謎推理は、結局何の解決にも成らず尻すぼみに終わった。
気づくともうすぐ午前3時だ。サマーが現れた時刻になろうとしている。
淡い期待を胸に家の外に飛び出す。
門の前まで出てみたが期待はずれだった。
暫く周りを探してみたが出会ったのは野良猫だけで車すら通らない。
無性にサマーの名前を叫びたい衝動に駆られたが、さすがに理性でおさえ家に戻るとライアンが玄関の前に立っていた。
「お前何やってんだ?」と訝しげに問いかける。
「まだ居たのか?」
「お前が寝てから少し飲んで、寝てしまったんだ。質問に質問で返すなよ。」
「ちょっとした、あー、あれさ、散歩だ」とボソボソと言い訳しながら家に入る。
ライアンは本当に飲んでいたらしい。ビールの缶が3本とつまみにチーズとナッツ缶も探しあてていた。
「もう少し飲まないか?」とライアンに聞くと、自分が用意するからと言って俺をソファに追いやった。
そして水のボトルを2本持って来ると「さて、聞かせて貰おうか。」と向かいのオットマンに座り話しを聞く姿勢をとる。
追い詰められたネズミの心境だ。昨夜は俺がサマーに同じ事をしたんだったな。
「どうして分かったんだ?その…ジュリアが運命の相手だって」
俺の突拍子もない質問にライアンは面食らったようで、ポカンと俺を見ていたが直ぐに爆笑した。
「お前はいつから夢見る乙女になったんだ⁈まさか恋煩いで熱が出たなんて言うなよ。」
と笑いながらライアンは言ったが、俺が無反応なのを見て「マジかよ⁈」とかなり驚くとまた笑い出した。
「で、相手はどんな女なんだ?俺の知ってる女か?」と俺の質問を無視して聞いてくる。
「お前の知らない女だ。質問に質問で返すなよ。」
ライアンはプッと吹き出して言った。
「俺とジュリアは、運命なんて大袈裟なもんじゃないな。ただ気づいたら側にいてしっくりくる感じ。あんなガミガミ女房になるとは思わなかったから、お前も相手をよく見て決めろよ。」
「後悔してるのか?」
「子供は可愛いし、後悔はしてないが何か失くした気がするんだ。」ライアンは上を向いて、ぼんやりと答えた。なんだか話しが違う方向へ向かっている。悩んでいるのは俺の方で、このままだと又いつもの愚痴に付き合わされるんじゃないか?しかしライアンは気分を切り替えたらしい。
「その女のせいでマギーを追い返したのか?」
と聞いてきた。
「俺が滅多に他人を家に招かないのは知ってるだろう。あれこれ構われるのが嫌な事も…」
「マギーと寝た…」
ライアンは俺に最後まで言わせず、俯いてぽつりと呟くように言った。
「今、なんて言った⁈」
「お前に追い返されて俺の所に来たんだ。酷く落ち込んで泣いてた。話しを聞いて慰めて…」
「もういいライアン!」今度は俺がライアンの言葉を遮る。
「マギーには、これ以上手を出すな。これは友人として言う。マギーは気軽な相手じゃない。」冷静に言ったつもりだが、親切な忠告とはとられなかったようだ。
ライアンの目つきが厳しくなり、顔色が変わる。
「お前の後釜に俺じゃあ役不足だって言うのか?たった今、俺に恋のアドバイスを求めていたお前が言っても説得力がねぇだろう!」
「落ち着けよ。そう言う意味じゃない。マギーは一緒にいて楽しいが、欲しい物は手に入れる貪欲な女だ。お前は家庭を壊す覚悟があるのか?ジュリアと子供に捨てられても平気なのか?」
「まさか、お前を腑抜けにした女ってジュリアか?いつから出来てたんだ!俺の女房に下心があるから運命だのなんだのとほざいたのかよ⁈」
懸命な説得も虚しく火に油を注いだだけのようだ。見当違いで俺に腹を立てるなんてお門違いもいいところだ。
「いい加減にしろライアン。頭を冷やせ。」
ライアンは無言で出て行った。
不思議と怒りは感じなかったが、昨夜から俺の人生が滅茶苦茶になった気分だ。
ウオッカをロックで一気に飲み干し、もう一杯注ごうとして止めた。今夜はいくら飲んでも酔えそうにない。
代わりにサマーが包まっていたブランケットを抱え眠った。
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