第13話 願いが叶うなら

 マギーを追い返した後、気分転換にシャワーを浴びたが苛々は一向に治らなかった。

 何をしていてもサマーの事が頭から離れず、繰り返し思い返しては、自分の不甲斐なさや身勝手さに自己嫌悪ばかりしている。

 そして、さっきの夢の中のサマーの様に現実のサマーが元気に笑っていてくれればいいとさえ思った。

 そうだ!明日時間が空いたらリトルトーキョーに行ってみよう。

 LAから日本まで8000km以上もあるんだから日本から来たはずがない。サマーが言った日本と言うのはリトルトーキョーのことに違いないだろう。

 だとすればリトルトーキョーにいけば夢に出てきた同じ建物があるかもしれないし、本当にサマーに会えるかもしれない。謎が全て解決しそうじゃないか。

 しかし日本語なんて殆ど知らない俺が、夢とはいえ何故あんなにリアルな日本語の文字が出てきたんだろう…?

 まっ細かい事はいい。

 明日には謎を解き明かしてやる。

 そう考えると遠足前夜の子供にかえったようにテンションが上がってきた。

 サマーが残した薬をもう一袋飲んでベッドに潜り込む。

 あまりにワクワクしすぎて眠れないんじゃないかと心配になったが、ベッドに入るや否や3秒でウトウトし始め深く眠りに落ちた。


 気づくと公園の中を歩いていた。来たこともない公園だ。また、夢をみているのか。

 それにしてもなんて暑いんだ。しかも素足じゃないか。汗が噴き出しダラダラと全身を伝う。

 あまりの暑さで熱がまた上がってきたのか足元がふらつく。

 暑さのせいで人気もなく助けを求める事も出来ない。

 どこか木陰でおちつかなくては…。

 ひと休みしていた噴水がザーッと吹き出す。

 有り難い。噴水の水で火照りを冷まそう。

 ヨタヨタとしながらも噴水までたどり着くと、ガクリと膝から崩れ噴水の縁にしがみつき手で水を掬い額に当てた。

 水はたいしてキレイではなかったが、気にしている場合ではなかった。

 むしろ砂漠でオアシスを見つけたらこんな感じなんじゃないだろうか?などと水を手にしたことで楽天的になっていた。

 しかし、なんてリアルな夢なんだろう。

 アスファルトの熱も手ですくった水の感触も手や額の濡れた感じも、とても夢とは思えないほど生々しい。

 太陽が真上からギラギラと照りつけ俺の丸焼きでも作ろうとしているようだ。近くの木陰に移動しよう。夢の中で熱中症で死ぬなんてごめんだ。

 移動する前にもう一度水を掬い額と首筋に当て、噴水の縁を掴んで重い体を持ち上げる。

 噴き出していた噴水の水も勢いを落として休憩に入った。

 ふと見ると噴水の向こう側に藤棚がありベンチもあった。なんとラッキーなことに人もいるじゃないか。あの人に助けを求めよう。

 よし!もうひと踏ん張りだと気合を入れ、またヨタヨタとしながら藤棚を目指した。

 しかしなんて熱いんだ。アスファルトもここまで熱を吸収しなくてもいいじゃないか。足が火傷しそうだ。

 せっかく冷やした額と首筋も太陽にあっさりと効果を奪われ、汗と熱のせいで目がかすむ。

 あっ、向こうのベンチに座っている人も俺に気づいてくれたんじゃないか。じっとこちらを見ている気がする。見てるだけじゃなくて助けに来てくれよ。ああ、でも今の状況の俺はかなり怪しいかも。なんせTシャツにジャージのパンツ、おまけに素足でヨタヨタ歩いてるんだもんな…。ホームレスに間違われても仕方ない。

「助けてくれ」声にならない、ほとんど呟きだった。

 しかし、その人はスクッと立ち上がるとこちらに向かって駆け出してきた。

 ああ、良かった。助けてくれそうだ。安堵すると力が抜け膝から崩れアスファルトに手をついた。

 全身から汗がボタボタと落ち気力が削がれていく。まずい脱水症をおこしたようだ。

 夢ならもっとハッピーな夢がみたかったな。

 例えばサマーが消える前にコーヒーを飲みながら話しをした、あの時の続きを夢みたかった。

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