第14話 ただ逢いたくて
噴水の水が止まり静けさが戻る。真夏には水の音が聞こえるだけでも涼しげになるのにと、恨めしく水の止まった噴水の方を見た。
やだ、あの男の人具合でも悪いのかしら?
なんだかフラついているけど、酔っ払っている風でもない。だけどなぜ裸足なんだろう。
なんかこっちに向かって来てるかも。
どうしよう?麻美早く来て!
ああ体がグラグラして、今にもつんのめりそうになってる。もしかして熱中症かしら?
微かに風が吹いて空耳かと思うくらいの小さな声が聞こえた。
「help …」
うそ!この声…。思わず立ち上がり目を凝らす。
間違いない彼だ。ライアンがどうして?と言う疑問が頭に浮かぶより先に体はライアンに向かって走り出していた。
焦りのあまりつまづきそうになる。腹立たしげにハイヒールを脱ぎ捨てた。
後数メートルで手が届く。
「ライアン!」彼の名前を叫ぶと彼は、ハッと驚いたように目を見開き顔をあげた。
「ライアン」
意識が朦朧とする中でサマーの声が聞こえた気がする。
顔を上げると駆け寄ってきてくれたのは、確かにサマーだった。
よほどサマーに執着して幻をみているのか、それとも少しは願いが叶ったということなのか。
理由なんてどうでもいい。サマーに会えたのだから。
結い上げた髪を乱し太陽の光を浴びながら駆け寄ってくる彼女は、女神ソルのようだ。
神様ありがとう!柄にもなくそう思った。
キーンコーン、キーンコーン、キーンコーン…
鐘の音が聞こえる。何処かに時計台でもあるのだろうか。何故だか分からないが凄く不快な音だ。
もう動けない。代わりに腕を思いっきり突き出した。
その刹那俺の腕がぼやけて見える。そして、だんだんと腕や手が透けていく。熱のせいだろうか?
ああ意識が遠のいていく、いや違う。意識が戻ると言ったほうが正しいだろう。
ダメだ、まだ醒めるわけにはいかない。
サマーの手を掴みなんとかしがみつこうと腕を強く伸ばす。夢から醒めまいと必死にもがいた。
サマーの恐怖に歪んだ顔が透けた掌から見える。君を怖がらせるつもりなんてなかったんだ。ただ逢いたかっただけなんだ。
「ごめんよ、サマー…」
ライアンが消えた⁈
なっ何が起きたの⁈
だんだんと薄れていくライアンの手を掴もうとしたが間に合わなかった。
ライアンが手をついていた場所に私も手をついている。
ライアンの姿が今もあれば、きっと互いの額をくっつけていただろう。
もちろん怖かった。人がこんなふうに目の前から消えてしまうなんて信じられない。
頭の中が真っ白になり、ただ呆然と彼のいた場所にへたり込んでいた。
「夏、夏、何があったの!返事をして!」
麻美に体を揺さぶられ、我にかえると同時に耐え難い恐怖に襲われ悲鳴をあげた。
麻美が強く私を抱きしめる。
「もう大丈夫だから、私が側にいるから」
と何度も言い聞かせるように呟き背中をトントンと優しくたたく。
そのしぐさがライアンをまた思い出させる。
ライアンに抱きしめられた時の事を思い出すと、恐怖が少しはおさまった。
まだ小さく震えていたが、静かに涙が流れ言いようのない悲しみがおしよせる。
麻美の優しさに少しだけ甘えさせて貰おう。
ごめんね麻美。ランチタイムを台無しにして…。
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