第4話 誤解
やっと口をきいたかと思えば、俺が何者かだって!俺を知らない?まぁそれはいいとしてだ、あまりに礼儀がなさ過ぎるんじゃないか?今の状況では俺は彼女の恩人といってもいいだろう。怒りを通り越して呆れてしまう。いや、自慢じゃないが最近ではパパラッチに追われるぐらいにはなった俳優のレオン・ビィンガムを知らないってのは面白い。まてよ、知らない振りってこともなくはない。
「お嬢さん、それはこっちの台詞だよ」やや引きった笑顔で答えた。
「じゃあ、ここは何処?私を拐った目的はなんなの?」彼女は潤んだ目に怒りと恐怖をにじませ睨みつけてきた。
あり得ない…。この女は何を言ってるんだ。頭がおかしいのか?あるいはドラッグでイッちまってるのか?いや、ドラッグはなしだ。自分はやらないがドラッグをやってる奴は何人もみている。彼女はやってない。なんだかさっきまで忘れていた寝不足と仕事の疲れが津波のように押し寄せてきて、今にも怒りが爆発しそうだ。
その感情を押さえるようにグッと両手を握りしめる。フーッと息を吐き出すと冷静を取り戻し言った。
「君は何も覚えていないのかい?まずは質問の答えだが、僕はこの家の主。仕事から戻ったら君が家の門の前にうずくまっていた。声をかけたが気絶してしまい、微熱があるようだったから一先ずうちのソファへ運んだ。つまり僕は君を助けた恩人で拐ったりはしていない。その証拠に玄関は、そのリビングドアを開けてすぐだから出るのは自由だよ。だけど、もう夜中の3時も過ぎてる一人で帰るのはお勧めしない。具合も悪そうだし、それにその格好で外に出るのはどうかな」
そう言われて彼女は初めて自分の身なりに気づいたらしい。パジャマ姿であることに気づくとブランケットに包まった。
「拐われてないなら、どうして見知らぬ人の家の前に…」
「まてまて!もう君からの質問はなしだ。話しがややこしくなる。僕が質問するから答えるんだ。」
やや間があいて彼女はコクリと頷いた。どうやらまだ不信感があるようだ。けれど、これ以上彼女の妄想だかなんだか知らないが噛み合わない話しに付き合わされるのはごめんだ。
「さてお嬢さん…」
「夏よ。ナツ・カトリ。」
「ナッツ?」
「いいえ、ナツ。サマーのナツ。」
「じゃあサマー。サマーでいいかな?」
「ええ、まあいいわ。」
「で、君の家はこの近所なのかな?」
「私の家は北野町よ。ここはどこなの?」
「キタノチョー?そんな地名聞いたことないが、どこの州?ここはLAだよ。」
「LAですって?!あなた何言ってるのよ。私の家は日本よ。」
「日本…。じゃあLAには旅行に来たのかい?」
「あなたさっきから何言ってるの。私は旅行者なんかじゃないわ。私は昨日から風邪をこじらせて、薬を飲んで眠ってたはずよ。旅行なんてするはずない。ここはどこなの正直に答えて。」
ますます話しが変になってきた。目は真剣そうだが妄想癖でもあるのか。まさか俺を騙してマスコミにネタを売ろうとしてるのか。
「少し落ちつこう。さあジュースを飲むといい。」
「私にもお水をちょうだい。」と俺のグラスを指差した。
「これはウオッカだよ。飲めるのかい」
「いえ、ごめんなさい。お酒の力を借りたいところだけどジュースでいいわ。これ以上訳の分からない事になりたくないもの。」
「同感だ。初めて答えが一致したな。」とくすっと笑うとサマーも恥ずかしそうに微笑んだ。
ふと、サマーがソファの上で横に流した足の裏が目に入った。足が汚れていない。門の前でみつけた時から素足だった。アスファルトの道を歩いてきたとしても有り得ない。まさか本当にサマーは誘拐されて来たのか。それで俺の家の前に捨てられたとか。いやいや話しが飛躍しすぎだ…。映画の中でもそれはないよな。
むしろサマーの中では俺が誘拐したという仮説の方が濃厚だろう。なんとかその誤解だけは解かなくては!
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