第2話 人助け
ぐっと力を込めハンドルを握り締めるとゴクリと唾をのみこんだ。たったの数秒だと思うが、しばらくそうしていた様に思う。そして深い溜め息をつき車から降り、門の前にうずくまる人物にゆっくりと近づき声をかけた。
確かに不審ではあった。何しろこんな真夜中に他人の家の前でうずくまっているんだ当たり前だろう?
だが、襲われるのではないか?という恐怖心はなかった。
俯いていて顔は確認出来ていないが、黒く長い髪に華奢で小柄な体つきから女性だろう。近づくにつれ見えてきた衣服は白地に小さな花模様のパジャマだった。
誰かを襲うにしては丸腰すぎだろう。
「きみ大丈夫かい?どこか具合でも悪いなら救急車を呼ぶよ…。」
返事がないので軽く肩をゆすりもう一度声をかけた。
彼女はうっすらと瞼をあけるとぼんやりと自分を眺めていたかと思ったら、突然目を見開きパニックを起こしたようだ。何かを言いたいが言葉が喉に引っかかったように声に出せないといった感じだな。
「大丈夫かい?少し熱があるようだね。家まで送ろうか?」
彼女は口をパクパクさせ、震える体を静止させるように両腕をクロスさせ自分の体を強く抱きしめたが、無駄な努力だったようだ。彼女は、そのまま気を失った。
さて、どうしたものか。ざっと見たところ怪我もなさそうだ。こんな真夜中に救急車やパトカーの音は近所迷惑だろうし、連絡したとしても到着に20分はかかるだろう。夏とはいえ微熱があるのに外気はよくない。仕方ないひとまず家のソファにでも休ませて様子をみるしかなさそうだ。やれやれ今日はとことんついてない。熱いシャワーと睡眠を一刻も早くとるというささやかな欲望を諦め、だらりと力の抜けた彼女の腕を自分の肩にまわし、ふわりと抱き上げ自宅の門をくぐり歩きだした。
俺は決して軟弱な体格ではないが、レスラーのようなマッチョな体格でもない。ただ驚くほど彼女が軽すぎた。小柄で華奢な上に肉付きもあまりない。まだほんの子供なのだろうか。子供だとしたらこの近所の家の子なのか。そして、寝ぼけて外出したとか、いわゆる夢遊病か何かなんだろうか。
薄暗い中そんな考えをめぐらせながら歩き玄関前に着くと彼女を抱えたまま玄関の電子ロックを解除し、鍵穴に鍵を刺して器用にドアを開け彼女をリビングのソファへと運んだ。
まわりの人間にはプレイボーイだとか言われあまり感心されていないのは知っているが、どうだ役に立つ事もあるもんじゃないか。とニヤリとした。口説いて女をその気にさせても抱き上げた時のぎこちない動作には興醒めするものがある。せっかくの盛り上がったムードもドアをあける為に悪いが降りてくれなんて台無しだ。その証拠に彼女はピクリともせず眠っている。
彼女をソファに降ろすと、そっとブランケットをかけてやった。どうだ俺だって紳士らしい気遣いってのができるんだ。とフンと鼻をならし、人助けをしたヒーロー気分になって放置したままの車を車庫に移動するため、そっと部屋を出た。
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