connector 〜夢の続きを

karon

第1話プロローグ

「もしもし、母さん。ついに見つけたわ。本人はまだ全然気づいていないけれどね。でも時間はかからないわ。強く惹かれたの。もう興奮ものよ。冷静を装うのに苦労したわ」

 娘は確かに興奮している様だ。その証拠に主語のない言葉を連発する。

 そして時々、この娘は時差が頭に入っていないのだろうか?と疑いたくなる。日本は夕方でもLAはもう真夜中だ。例え頭に入っていても親の睡眠妨害をするのは娘にとって些細な事なのだろう。

 けれど嬉しいニュースには違いない。

「貴女がそんなに興奮してるってことは、本当に素敵な人なんでしょうね。私も早く会いたいわ。」

「ええ、楽しみにしてて。直ぐに会えるわ。じゃあまた連絡するわね。おやすみなさい。」

 娘は言いたい事だけ言うと電話を切った。


 どうやら目が冴えてしまったみたいね。ワインでも飲みながら読みかけの本を読もうとしたが、ふと古いアルバムが目にとまった。

 そのアルバムは永い間開いていない。最後に開いたのはアレン・ワイラーの写真を貼った時だ。彼は素晴らしい能力者で娘婿だった。彼を亡くしてからは、もう二度と彼の様な能力の持ち主は現れないだろうと悲しみに暮れた。

 人は皆何かしらの能力を持っている。その能力に気づく事は稀で、気づく事が必ずしも幸せとは限らない。例えばスポーツや芸術、音楽もそうだが他の人より才能豊かな人はいる。けれど何かを成し得るには努力も絶対に必要なのだ。

 だがもっと必要なのは、その才能に気づき触れ好きになる事。どんなにバレエの才能があったとしても、やった事がなければ才能に気づく事が出来ない。

 能力にも同じ事が言える。

 だがスポーツや芸術は結果を出せば認められるが、能力が結果を出した時には認められる事もあれば、時には恐れられ嫌われる事もあるのが厄介なのだ。



 曲りくねった坂道を登る黒いポルシェ。グッとアクセルを踏み込む。深夜3時をすぎていることもあって小高い丘にある住宅地までの道はしんと静まりかえり、夏の夜には風に吹かれ木々のこすれあう音もない。ただ聞こえるのは唸りをあげるエンジン音と自分の鼓動だけだ。

 ついひとり毒ずく。なんてことだ最近の寝不足で頭がクラクラするのにもうこんな時間だ。ライアンから飲みに誘われたが、なんとか振り切って車に飛び乗った。ライアンにも困ったもんだ。女房と上手く行ってないからといって毎晩の様に飲みに誘ってくる。男が自分の家に帰宅拒否症とは情けないにもほどがある。とにかく結婚なんてするもんじゃない。とくに自分のような気ままな人間には無理だな。フッと自嘲気味に笑った所で深夜のドライブのゴールが見えてきた。

 アクセスに乗せた足を少しリラックスさせるとゆるやかに車を止め自宅の門を開けるリモコンキーをダッシュボードから取り出し門に取り付けたセンサーに充てた。この仕草は速やかで日々の暮らしの一部。タバコを吸う様に自然な流れ作業だ。が、今日は違った。

 センサーを充てられた門がカタンと小さく音をたて開きかけたその時、門の前になにやら黒い大きな塊をみっけた。

 何なんだ?驚きとともにガックリと肩を落とした。一刻も早く熱いシャワーを浴びてベッドに潜り込みたいのに、いったいなんの罰ゲームなんだ?

 車の向きを対象物の方へ角度を変えライトをあててみた。

 黒い塊だと思った物は、黒だけではなく白かった。いや黒は1/8ぐらいで残りは白っぽい。そして物ではなく人だった。

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