第3話 取調と画策
狭く、圧迫感のある部屋だった。窓がないことはもちろん、ライトの前には威圧的な目つきの三人の男が、スチール製の小さな机を挟んだ向かいにいる。ちなみに余談だが、室内の照明は陰が霞むくらいに明るかった。
「では君は、偶然あの場に居合わせただけで、そこに倒れていた男女とは縁も
「はい、怪しい人影を追い駆けて来たら、偶然」
「しらばっくれるな!!」ライトから見て左側に立っていた面長の男が怒鳴った。そして机の上のスタンドライトをライトの顔に向けた。「お前があの二人をやったに決まっている!」
「正直に吐いた方が身のためだぞぉ」右側に立っていた小肥りの男が腹を掻きながら言った。「今すぐ本当のことを話せば、
眩しいのは辛かったが、ライトは冷静に反論する。「僕がやったっていう証拠はあるんですか?」
それを聞いて、三人の男は不敵に笑った。
「先日導入されたばかりの
「壁を上って逃げることも不可能じゃないはずです」
「不可能だよ。ここ一帯のビルの屋上の床には、重さを検知して警備会社に連絡が行くシステムが漏れなく備わってんだ。警備会社に問い合わせたが、事件発生前後、システムが作動したビルは一つもない。無論、窓から侵入しても同じことだ」
「では今なおあの場所に隠れているとか」
「それもありえないぞぉ。今回は超高性能な小型鑑識ロボを導入したからなぁ、繊維一本、唾一滴まで見逃すわけがないぞぉ」
さすがのライトも口をへの字に曲げた。
「言っておくが、黙秘権なんてものはないぞ? 何日かかろうとも、口を割るまで徹底的に君を問い詰める」
「こんなライトはまだまだ序の口だ」
「早く吐くんだぞぉ。お前が吐かないと俺もカツ丼食えないぞぉ」
何とも仕様がないこの状況に辟易とし、いっそのこと強引にここを脱走しようかなどと考えている時だった。部屋のドアがゆっくりと開いた。全員が一斉にそちらへ視線を向ける。途端、二人の男は電気を流されたような勢いで姿勢を正し、一人は起立した。
一人の男が入ってきた。髪を短く刈った、ヤニ臭い男だ。年期の入ったコートを羽織っている。
「あぁ、いいいい、楽にしてろ」コートの男は手をヒラヒラとさせた。そして空いた椅子に、どっこいしょと言って腰かけた。「あぁ君、ライト君って言ったっけ? ついさっき、君の容疑が晴れた」
その言葉に、ライト以上に三人の男達の方が驚いていた。
「防犯カメラの映像を確認した。君が路地に入る直前に、キャップを被った人物の姿が映ってたよ。そしてそれから一分もせずに我々が突入した形になっていた。あの場所までの移動時間を考えると、君たちがどんなに急いだとしても、二人の大人を倒すにはさずがに時間がなさ過ぎると判断した」
三人の男たちは呆気に取られていた。だが間もなく、さらに驚愕する事態になった。コートの男が椅子から立ち上がり、そして頭を下げたのだ。
「君たちに不快な思いをさせたこと、大変申し訳なかった」
狼狽する三人の男たちも、最終的には頭を下げた。大の大人たちが自分に謝罪している光景に、ライトは申し訳ない気持ち以上に、不信感を募らせた。
「おぃクソ餓鬼! コンビニ行って帰ってくるのにどんだけ時間掛かってんだゴラァ!」
「文句あんなら自分で行けよ、チビネズミが」
「あぁ!? 今テメェ何つった?! もう一回言ってみろ!」
「はいはい、どーもすみませんでしたセンパイ」
「テメェ! 今日という今日は容赦しねぇぞ!!」
「へー、センパイ、俺とやり合うっていうんすかぁ? いいっすよ、今日こそハッキリさせましょうよ。どちらの実力が上かをねぇ」
「ちっとばかし上から期待されてるからって調子に乗りやがって……。テメェのその空っぽの頭と黒い腹にデケー風穴開けてやるからなぁあ!」
「全力で掛かってきやがれ!」
「くだらないことで言い争ってないで、とっとと作業に戻れ」
「くだらないとは何だ、くだらないとは! 俺はいつでも全力だ!」
「だったら全力で作業も終わらせろ。お前のノルマまでやってやるつもりは更々ないからな」
「ぐぅ……」
「おいモルデア! テメェこの餓鬼ちゃんと教育しとけ! 礼儀作法とかそういうのをよぉ!」
「ヤグリム、お前も人のこと言えた口じゃないだろが。お前が昔リーダーに盾突いた時のこと、こいつに話してやってもいいんだぞ」
「うっ!」
「けっけっけ、だっさ」
「……おいクソ餓鬼、これ以上調子に乗るようだったら、地中に生き埋めにするぞ」
「センパイこそ、俺の実力嘗めないでくださいよ? そんなの俺の
「ヤグリム、マグナ」
「あ!?」「んだよ!」
「次この場で言い争ったら、あのペルソナの餌にするぞ」
「とっととノルマ終わらせます」「大人しく作業します」
「それでいい」
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