第7話 贋作と画策
ライトとウェイミーは
ここに軒を連ねる建物はほぼすべて、画廊か工房の類である。店先には色とりどりの絵画が幾枚も展示され、さらには重ねられた絵画が道路の方まで伸びていた。古びた景観のわりには、絵画のお陰で華やかで鮮やかな雰囲気を醸し出している。
ちなみにはこの街、建物の一軒ずつが点描の一点のようになっており、街自体が一枚の絵画となっている。だがその全容を、ライトとウェイミーはまだ見ることが出来ていない。
ライトは手当たり次第に画廊に入り、画商に例の作者不明の絵の情報を集めようとした。だが皆が皆、怪訝な表情をして「知らない」と答えた。そして続けてこう言う。「そんな絵、ウチじゃ扱うわけがない」と。
散々歩き回った後、二人は裏路地で偶然見つけた点心の専門店に入った。席に着くや否や、ライトはだらりと腕を下ろし、
「やっぱそ~簡単には見つからないかぁ……」
「まぁ、お店の人たちがあぁ言うのも、当然と言えば当然だよ」ウェイミーは壁に貼られたメニューを見ながら言う。「どこの誰のかわからない絵なんて、複製画の専門店じゃ取り扱わないよね」
複製画。すなわちレプリカ。
この世界の画廊には、誰もが一度は目にしたことのある絵画や、一度は耳にしたことがある作家の作品が売られている。しかも知名度が高い作品であればあるほど、コンビニや量販店の如く取り扱いがあった。
そして工房では、それらが職人たちの手によって、効率的かつ機械的に生産されている。まったく同じような絵が室内に何十枚とある様子に、初めのうちは興奮していたライトであったが、次第に味気なさや虚しさを感じた。見れば見るほどに、芸術品としての価値が薄れていく印象があったからだ。
店員に注文を言った後、ライトは再び溜め息をついた。「東側はほとんど回ったから、今度は西側に行ってみようか」
「うん、そうだね。まだまだ可能性は――」
「西側には行かない方が身のためだよ」
ウェイミーの言葉を遮るように声が聞こえた。その方向を見ると、そこには一人の老婆がいた。齢九十はあるだろうか。ガリガリのヨボヨボだったが、一人でちびちびと点心を食べていた。
「どういうことですか?」ライトは尋ねる。
「どうもこうもないさ。あそこは別名犯罪市場。犯罪、蛮行、悪事が日常的に横行している、背徳しかない場所だ。あんたらのような穢れのない若者が行くようなところじゃない」
「僕たち、ある一枚の絵を探しているんです。作者不明の絵が出回っているっていう噂、お婆さん、ご存じないですか?」
「あぁ、知っているよ」
ライトとウェイミーは同時に椅子から立ち上がった。
「こう見えても、私も一端の商人だ。その辺の耳の早さは、そんじょそこらの奴らとは訳が違う」
「それで、その絵はその犯罪市場にあるんですか?」
ライトの質問に、老婆はすかすかの歯茎を見せた。「あぁ、そこにある窃盗品を扱う店で、それを見た。あんたらにそれ相応の覚悟あるなら、案内してやらんでもないよ」
「あります!」ライトは力強く答えた。「是非案内してください!」
「うんうん、意気込みはわかった。だがそう慌てなくていい。まずは点心を食べ終えてからだ。ここの点心は格別だぞ」
老婆の言うとおり、二人は間もなく運ばれてきた点心を口にした。溢れ出る美味に、二人は舌鼓を打った。
老婆を先頭に、二人はゆっくりと歩いて進んだ。しばらくの間はこれらしい変化はなかったが、ある時ガラッと雰囲気が変わった。
絵に描いたようなスラム街だった。美しさの欠片もない建造物と鮮やかさの欠片もない彩りがある光景が広がっていた。漂う空気や見上げる空さえもグレー掛かっているようであった。
「さぁ、こっからだよ。一歩一歩、命を踏み締めるつもりで歩きな」
進んでいくと、人の姿もチラホラ見られるようになってきた。誰も彼もが
さらに奥まで進む。より一層空気が淀んだように、二人は感じた。不審な人間の姿は見えない。だがしかし、二人の緊張はさらに高まっていた。
老婆は角を曲がり、薄暗い路地へ入った。それに続いて二人は入ったが、そこに老婆の姿はなく、行き止まりしかなかった。
途端、背後から何人もの人間が現れた。彼らはナイフや鉄パイプなどを手にし、ギラギラとした目で二人を睨む。
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