第6話 恐怖と安心
「コホー……! コホホホー……!!」
「
白黒は
「
白黒に激しく肩を揺らされ、ようやく
「お酒を描いて! それであいつを引き付けるの!」
「う、うん!」
緋猩猩は一旦退いた。その直後はとても警戒していたが、臭いで気がついたらしくじりじりとそれに近寄り、注意深く臭いを嗅いだり樽に触れたりといった行動を取った。
白黒は
しばらくして二人は壁際まで辿り着いた。緋猩猩が酒を飲み始める瞬間を、腰を低くして待つ。
が、白黒の思惑は見事に打ち砕かれた。緋猩猩が酒樽を掴み、二人目掛けて投げ飛ばしてきたのだ。白黒は咄嗟に
「そんな……」白黒の顔に絶望の色が滲んだ。
緋猩猩は二足歩行になり、大股で白黒たちに近づいてくる。二人距離を取るために、咄嗟に
「ここに扉とか描いて脱出できないの?!」
「一度スケッチブックから出した絵には描き足せないよ!」
「それならあいつの動きを止める武器とか道具とか、もう何でもいいから描いて!」
「そ、そんなこと急に言われても、何も思い――きゃああ!!」
口論している間に緋猩猩は二人の目の前までやって来ていた。そして
「
「白黒! 白黒ー!」
白黒に手を伸ばしながら、
「……うぅ……めい、めい……!」
白黒はその様子を見て、自然と歯と手に力が入った。
今彼女の中に芽生えているのは、緋猩猩に対する恐怖感や絶望感はない。ましてや
何故そのような感情が芽生えたのか。今の彼女に、それを疑問に思う考えはなかった。ただ必死に
ややあって、白黒は床を這い、白黒はクレヨンとスケッチブックを手にした。そして白紙のページに絵を描き始めた。
「お願い、お願い! 力を、貸して……! 奇跡が、起きて……!!」
そう強く懇願しながら、白黒は瞬く間に絵を描き上げた。
それは一本の剣だった。剣身が柄の倍近くの長さがある大剣で、美しさと力強さを兼ね備えた印象を見るものに与えた。
「お願い、お願い!
白黒の願いが通じたのか、剣は具象化した。そのことだけでも充分に驚きだが、自分の身長に匹敵する長さのそれがゆっくりと白黒の手に収まり、羽毛と同じくらいの重さしかなかったことに、より一層驚いた。例え軽くとも、剣の造りは重厚で、いかなるものでも両断できてしまいそうな鋭い刃だった。
この剣のイメージが起因しているものに、白黒は気づいていない。というよりも、それを考えることもない。ただただ必死に、頭に浮かんだものをそのままの形でそこに描き落としただけだった。ゆえに完成したそれを見ても、彼女は忘れたことを何一つ思い出せなかった。
白黒は剣を手に立ち上がると、緋猩猩に勇んで立ち向かった。
緋猩猩は自分で開けた壁の穴の直前までたどり着いていた。だがここで背後からの足音に気づき、振り返る。
「だああああああ!!」
白黒は渾身の力で跳躍し、緋猩猩に斬り掛かった。剣を扱ったことなど一度もない彼女のその姿は、構えや型などというものはまるでない不恰好なものであった。だが剣自体に意識があるかの如く、的確に緋猩猩を捕らえていた。
緋猩猩の腕が深く斬りつけられた。間もなく鳥肌が立つような高音の悲鳴と目を見張るような真っ赤な血飛沫が上がった。それとほぼ同時、
白黒は
「白黒!!」
「白黒ぉ……ゴメンなさい、私のために、こんなことまでさせて……本当にゴメンなさい……!」
白黒は
「わ、私はダイジョウブだけど、白黒が――」
「私のことは心配しなくていいよ。
抱きしめられた途端、
ほどなく
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