第5話 少女と茶会
室内はとても殺風景だった。声が良く響く広さがあるにも関わらず、テーブルが一台と椅子がニ脚の計三点の家具しかないからだ。だがテーブルの上には、華やかなティーセットやいくつものおいしそうなお茶菓子が用意されていた。
「これも
「そうだよ、スゴいでしょ?」
「うん、とってもスゴいよ!」
二人は椅子に腰掛け、小さなお茶会が始まった。
白黒は早速、
「
「ありがとう。こっちの杏仁豆腐と月餅もおいしいよ」
白黒はそれらに舌鼓を打った。しかしあるタイミングで、ずっと気になっていたことを
「ねぇ
「なぁに?」
「さっきも話したけど、私さっき、赤いオランウータンみたいな怪物に襲われたんだけど、あれは一体何なの?」
白黒に質問された途端、
「私にも、よくわからない……」
「えっ? けどあれも
「うん……
「燃えちゃった? それって、
「ううん、ひとりでに、何の前触れもなく燃えちゃったの。それで、一度はいなくなっちゃったんだけど……」
「また、現れたの?」
「うん、新しく描いた覚えはないのに、どこからともなく現れて……それで、私が描いた絵をどんどん燃やしていったの」
「えっ?」
白黒の表情も、先ほどとは打って変わって、悲しげなものに変わっていた。
無言の時間がしばらく続いていたが、唐突にパン! と軽い音がした。
「もうこの話はおしまい! 次は白黒の話をしよ!」
「えっ、私の?」
「何か思い出せたことない? 絵を描くのが好きなこと以外に」
「何か思い出せた?」
「うん、ちょっとだけ」
「なになに?」
疲れたような表情を浮かべ、白黒は言う。「私ね、小さい頃、自分のことが凄く嫌いだったの」
「えっ、どうして?」
「んー……それはちょっと思い出せないんだけど、でもね、自分のことが好きになったきっかけは思い出したの」
「どんなこと?」
白黒は冷めた残りのお茶を飲み干した。「それがね、私が描いた絵を見て、たくさん『凄いね』って言って、褒めてくれる人と出会ったからなの。最初はとっても恥ずかしかったんだけど、その人のに褒めてもらいたい一心で絵を描き続けてたら、だんだん自信がついてきて、『私って凄いんだ』って思えるようになったの」
「それって、男の子? それとも女の子?」
「男の子。顔とかは、まだよく思い出せないけど、それだけはわかる」
「その子のことは、好きだったの?」
白黒はハッとして、そして頬を赤らめ、頷いた。顔も声も名前も、何一つとして思い出せないが、その人物に対する思いだけは、しっかりと心に残っていた。
「……いいなぁ」白黒とは対照的に、
「そ、そんなこと!
「ううん、私の絵は、ただの落書きだよ。恥ずかしくて誰にも見せられないから、誰にも褒めてもらえないし……」
「で、でも、一度も誰にも見せたことがないってわけじゃないでしょ?!
「……うん、少し前までは、そうだった。でも、今は……」
刹那、白黒は強烈な不快感を覚えた。突然の事態に、全身に鳥肌が立つとともに、自身も椅子から立ち上がった。
この感覚には覚えがあった。どこからともなく、鼻を突くような甘ったるい臭いが漂ってくるような気さえした。
「白黒?」
「
白黒が
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