第4話 捜索と創作
「はじめまして、旅のお方。わたくしは
このイディア界の
彼女は絵に描いたような薄幸の美女であった。整った顔立ちをしていながら、その肌や唇にはまるで血の気が感じられず、曇った硝子玉のような瞳で二人を見ていた。寝間着から出た腕は小枝のような細い。そしてコアとしての気配も霞のように曖昧なものだ。しかし声には多少の覇気があり背筋はピンと伸びているので、体力はまだあるのだろうと、ライトは推測した。
「こちらこそ、突然のご訪問にも関わらずお会いして頂き、誠にありがとうございます。僕の名前はライト、連れはウェイミーと申します」
「ライトさんに、ウェイミーさんですね。どうぞこちらにお掛けください」
二人は
「それで、わたくしにどのようなご用件でしたでしょうか? お客様がお見えになるなど久方振りのことで、嬉しさのあまり忘れてしまいました」
「用件、というほどのことはありません。強いて言えば、
「まぁ、話し相手。またまたどうして、わたくしのような病弱な女と? まだお若いでしょうけど、盛り場などに出向かれれば、もっと活気のある美しいお人と楽しい時間を過ごせますよ?」
「この珍しい世界を統治なさっているお方と中身のある会話をした方が、僕には楽しい時間を過ごせます」
「あらあら、ライトさんはそのお歳で随分と物好きなお人ね」
「よく言われます」
「そうね、屋敷の者たちとは今さら話すこともありませんし、わたくしを尋ねて来るお客様はお仕事関係の方しかいらっしゃらないですから、ただお喋りをするというのも、新鮮味があっていいかもしれないわね」
「ご存知かと思いますが、わたくしは曲がりなりにも美術商と工房を営んでおります」
「曲がりなりにもだなんて、こんな立派なお屋敷にお住まいなのに」
「いいえ、扱っているものがものですので、そう言わせてください。ーーそんな仕事をしている都合上、幅広い種類の作品を取り扱っておりまして、その辺りの知識はそれなりにあるのですが、実というとわたくし、恥ずかしながらまったくもって絵が描けないんですよ」
「描けないというのは、絵心がない、という意味ですか?」
「というよりは、絵を描こうとしても、まったく手が動かないんですよ。例えば庭にある木を
「絵を描きたいというお気持ちは強いんですか?」
「いいえ、それすらもないのです。でも何故かスケッチブックが手放せないのです」
「不思議な感覚ですね」
「お二人は絵を描くのはお好きですか?」
「僕は見るのは好きですが、描くのは苦手ですし、何より下手ですね。その点彼女は絵を描くのが得得意ですよ」
「あら、そうなんですか、ウェイミーさん」
「ウェイミー」
ライトに肩を叩かれ、ウェイミーはハッと顔を上げた。「あっ、ご、ごめんなさい! 話聞いてなかったです!」
「ウェイミーさんは絵を描くのがお得意なんですか?」
「え、えっと、
「そうなんですか。どんな作品を描かれるんですか?」
その後しばらく、
「そう言えばここに来る途中、画商の方だと思うのですが、不思議な話をしているのを小耳に挟みました」
「あら、どんな話ですが?」
えーっと……とウェイミーが言い淀んだので、ライトが答える。「作者不明、年代不明、異色の絵画が出回っているという噂です」
「あら、それは興味深いお話ですね」
「ライト様、ウェイミー様、お時間になりました。恐縮ですが、迅速にお引き取りください」
ライトとウェイミーは椅子から立ち上がった。すると
「ライトさん、ウェイミーさん、よろしければその絵を探して頂けませんか?」
「えっ!? ですがあれはあくまで噂話ですよ?」
「それならそれで構いません。噂の真相を確かめて頂けないでしょうか?」
「わかりました。やれるだけやってみます」
「よろしくお願いいたします」
「ねぇ、白黒は絵描くの好き?」
「えっ、どうして?」
「だって、あなたのその姿を私じゃないなら、それは白黒が自分自身で描いたんでしょ?」
「そう、なるね……」白黒は腕を組んで考えた。「どうなんだろう。描いてたような気もするし、そうでもないような気がするし……やっぱりよくわからないや」
「そっか、思い出せるといいね」
「危ないから下がってて」
「えっ、何々??」
途端、スケッチブックが浮き上がり、絵が画面から勢いよく飛び出してきた。そしてその場に、木を掘って作られた家を彷彿とさせるデザインの立派な一軒家が建った。
「この中で休んで、ゆっくり思いだそうよ」
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