第9話 創造と再生(了)
「未来を変える発明品?」
ライトは
「ヤー、その老いぼれを頼む」
ヤーは子犬や子猫を抱きかえるように、軽々とクワシの機体を座席から持ち上げた。その光景にライトとウェイミーは「メイドさんって力あるんだな」と内心驚くばかりで、彼女もまた機人であることには思い至らなかった。
コジョを先頭に、ライトたちはしばらく城塞内を歩き進む。コジョが足を止めたのは、ライトたちも一度見た、クワシの肖像画の前だった。
コジョは画面の右端、背景しか描かれていない場所に右手をつけた。すると、ピピッ! という電子音が小さく成った。ほどなく画が掛けられている壁が滑らかに上へとスライドし、下へと続く階段が姿を現す。
階段を降りきると、数えきれないほどの機械が雑然と押し込まれた部屋に辿り着いた。低く目の天井の広がりを見れば、サッカーグラウンド大の広さがあることが推測できるが、床が見えている場所はその一割にも満たないほどだった。
道なき道を進むように、一同は部屋の奥へと向かう。そして辿り着いたのは、ドーム状に積み上げられたモニターが占領する場所だった。モニターには、このイディア界の各地の様子が映し出されている。ライトとウェイミーが
「お前らはそこで少し待っていろ。ヤー、お前はその老いぼれを
そう言ってコジョは椅子に腰かけ、モニターの前にある入力端末を操作し始めた。ヤーはクワシの機体を、モニターから少し離れた場所にある作業台に置いて作業をし始めた。そして待っていろと言われたライトとウェイミーは、コジョの傍らでモニターを眺めていた。
「あ、ウェイミー、あれ」
ライトが見ていたモニターをウェイミーも見た。そこにはあの、鳥に似たペルソナが映し出されていた。ペルソナはゴミの山をピョンピョン跳び歩きながら、仕切りにゴミを突っついている。その様子だけを見ると無害な小鳥にしか見えなかった。
「コジョ様、クワシ様がお目覚めになりました」
車椅子に乗ったクワシが、コジョに押されて現れた。ロボットだというのに、絵に描いたような不機嫌な表情を浮かべていた。
コジョは椅子を回転させ、クワシと対面する。
「これで勝ったと思うなよ」クワシは強く睨んだ。「俺にはまだまだ奥の手がある。お前の貧弱な発明品など簡単に捻り潰してやる」
「……あぁ、確かに俺の発明品は脆弱だったよ」
コジョの弱腰の発言に、全員が小さく声を漏らした。
「じじぃなんかいなくても、俺は一人でスゲー発明が出来ると思い込んでいた。だけど、じじぃが本気でこの城を落としにかかって来た時、本気で死ぬかと思った。俺の力じゃ立ち討ちできないかもしれないって、思っちまった……。だがそんな時、お前らがやってきた。だから憂さ晴らし兼当て馬つもりで機獣と勝負させてみたんだ」
ライトとウェイミーは口をギュッと結んだ。
「そしたらお前らは華麗に機獣を蹴散らしやがった。これはもう、自分の実力不足を認めざるをえなかった……」コジョは立ち上がり、クワシの近くまでいくと、胸に手を当てた。「俺が悪かった。もう一度ゼロから、俺に発明のノウハウを教えてくれ」
しばらくの沈黙の後、クワシは重い溜息を吐いた。そして胸部から、球状の物体を取り出した。それは硬式の野球ボールほどの大きさで、その表面は電子回路で覆われていた。
「こいつの仕組みはわかった。この程度のなら、一月もあれば改良品が作れる。その時までに俺の技を盗んで、対抗策を考えておけよ」
「……あぁ、今度こそ俺が圧勝する」
「減らず口が」
コジョはクワシから回路球を受け取った。
「おいお前ら、モニターをよく見ておけよ」
モニターは全部で一枚の大きな映像に切り替わった。高いところからイディア界全体を展望する映像だ。地平線の果てまで、余すところなくゴミが散乱している様子が見て取れた。
「さぁゴミども、俺がお前らに存在価値を与えてやる!」
コジョはそう言って、端末の中央にできた丸い窪みに回路球をはめた。
ほどなく建物が小刻みに縦に揺れ始めた。いや建物だけではない。この世界全土が揺れているのだ。
緊張した面持ちでライトとウェイミーがモニターを見ていると、何とゴミが勢い良く動き始めた。ゴミは場所ごとに集合すると、それぞれに様々な形を造っていく。この揺れはゴミが一斉に動き始めたことによるものだった。
「こいつに設計図を読み込ませると、ゴミを周囲から自動的に集めてきて、設計図通りに組み立てることができる。じじぃはこれを機獣を生み出すために使ったが、本来はーー」
揺れが治まった。モニターには、ゴミ溜まりが永遠と広がる雑然とした画ではなく、立派な建築物が永遠と建ち並ぶ美しい街並の画が映し出されていた。
「こうやって世界を造り変えるために使うのさ」
ライトとウェイミーは開いた口が塞がらず、ただただモニターに釘付けになった。
「じじぃ、何か感想はあるか?」
ややあってクワシは口を開く。「こいつは破壊し甲斐がありそうだな」
コジョとヤーは大いに笑った。
ライトとウェイミーは彼らに別れを告げ、城塞を後にした。そして改めてその変わり様に驚く。それらは確かにゴミから造られてはいたが、過程を知らなければそのことには気づけないほどの出来栄えだ。近未来的な見た目だが、長い歴史が刻み込まれた石造りの建築のような趣があった。
「まるで別のイディア界に来たような感覚だね」
「ホントだね。ここの人たちも凄くビックリしてる」
「最初からこんな世界だったら、あんな苦労しなくて良かったのにさ」
「まぁまぁ、これが造られる過程を見るに相応しい活躍をしたと思うよ」
しばらく歩くと街並はバッサリと終わた。ゴミが取り除かれたことで、汚染された土壌が剥き出しになり、だだっ広く続いている。そして地平線の辺りにはゴミは大量に残っていた。去り際に「まだまだやることが山積みだ」とコジョが言っていたのを、ライトは思い出した。
ライトの視線の先には、ペルソナがいた。ペルソナはモニターで見た時と変わらず、頻りに地面を突っついている。まだ距離が離れているため、ライトは鏡から剣を取り出しつつ、慎重にペルソナに近づいていく。
「!? ストーップ!」
ウェイミーが突然叫んだ。ライトは差し出そう引っ込め、ウェイミーを見る。「どうしたの突然?」
「これ、これ!」
ウェイミーの指差す先を見てみると、黒い地面に一本の雑草が生えていた。その意味をライトはしばらく理解できなかったが、理解した途端声を漏らした。
周囲に目を凝らしてみれば、これ以外にも雑草は点々と生えていた。それらを辿っていくと、最終的にはペルソナに行き着いた。そしてペルソナが地面を突いた場所から小さな芽が出てきていることに、二人は気がついた。
「帰ろうか」
「うん、そうだね」
ライトとウェイミーは方向を変え、地平線の向こう側へと消え去って行った。二人が残した足跡の一つにも、小さな芽が顔を出した。
<第三章 了>
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