第8話 過去と未来
龍の目が輝きを失った。間もなく浮力が失われ、地面へと急降下した。土やゴミが天高く舞い上がった。その激しい震動はライトの脇腹から体内に伝播し、鈍痛を拡大させた。
「ライト、お腹が!」
「だ、大丈夫……まだ耐えられる範囲だから」
「それでも応急手当だけでもしなくちゃ駄目だよ!」
「……わかった」
ライトがポケットから熊の人形を取り出すと、ウェイミーは自ら人間の姿になった。そしてライトの矢を抜き取り、コンパクトミラーから取り寄せたガーゼと包帯で傷口を塞いだ。
ライトは痛みに耐えながら、龍の頭の装甲を剥ぎ取る。その下からクワシが現れた。クワシは機能停止しているようで、ぐったりしている。
ライトは操縦席からクワシを持ち上げた。
「それじゃ、コジョ様のところに戻ろう……」
「私も手伝うよ!」
ライトとウェイミーは、クワシの腕をそれぞれ肩に回した。そして龍の頭から地面に下り、コジョの城を目指して歩き出した。
二人の前には、見渡す限りのゴミの平原が広がっている。ライトは砂漠を歩くよりも果てしないような心地になった。それでも、小休止を挟みつつ歩き続ける。
「部分的にゴミが片付いたくらいじゃ、やっぱりほとんど無意味なんだね」
「それがこのイディア界の在り方なら、これがあるべき姿だよ」
「それはそうなんだけど、でもやっぱりーー」
ウェイミーは言葉を途中で切り、空を見た。
「何か来るよ」
ライトがその方向を見ると、絵に描いたような真っ青な空に小さな黒点があった。ウェイミーの言う通り、それは徐々にこちらへと近づいて来た。ほどなく、その正体がヘリコプターであることが判明した。ヘリコプターはライトたちの十数m上空で滞空した。
「ライト様! ウェイミー様! お迎えに参りましたー!!」
ヘリコプターのスライド式のドアが開くと、メイドのヤーが半身を乗り出して声を張った。そしてライトたちに縄ばしごを下ろした。ライトとウェイミーはクワシをうまい具合に運びながら、縄ばしごを伝ってヘリコプターに乗り込む。機体は、操縦しているロボットも含め、ゴミで出来ていた。
「お二人とも、ご無事で何よりでした。見事な戦いぶりに感動しました」
ライトの向かいに座るヤーは深々と頭を下げた。
「また監視カメラでご覧になっていらっしゃったんですね」
「申し訳ございません。ですが、ライト様の身のこなし様には、コジョ様も大変驚かされましたよ」
ライトは「どうも」と一言礼を言った。その後、置物と化しているクワシを一瞥した。
「ところでヤーさん、コジョ様がおっしゃっていた大切な物というのは、こちらのクワシ様のことだったんでしょうか?」
「残念ながら違います」
「あっ、やっぱりそうですよね……」
ライトの顔がドッと疲れの色に染まった。
「ですが、その大切な物を持ち出した張本人がそちらのクワシ様です」
「どういうことですか?」
「詳しくお話しましょう」
ヤーは神妙に語り始める。
「クワシ様が発明した兵器が売れたことで、コジョ様たちは巨万の富を得たという説明は、以前にも話したかと思います。それ以前のクワシ様は、亡くなったコジョ様のご両親に変わって愛情深く育ててくれていたそうですが、富を得たことで、強欲で高飛車な性格になってしまい、英才教育と称してコジョ様を執拗なまでに厳しく育てるようになってしまったのです」
「コジョ様がクワシ様の発明した兵器のことを倦厭したような口調で話していたのは、そのせいなんですね」
「はい。そしてクワシ様は死の間際、そこにいるクワシ様のロボットを開発し、コジョ様に兵器開発を受け継がさせようと考えていらっしゃいました。ですがコジョ様は、クワシ様の死後、陰で行っていた、人の役に立つ発明品の研究により力を入れるようになりました。それがクワシ様のロボットにバレたことにより、お二人は大喧嘩しました。結果としてはコジョ様が勝ったのですが、クワシ様はコジョ様の大切な物を城外に持ち去ってしまった、というわけです」
「経緯はわかりました。それで、その大切な物というのは一体何なんですか?」
ヤーは口を開きかけたが、ふと機体の進行方向を見た。
「勿体付けるようで申し訳ありませんが、詳しくはコジョ様からお聞きください。間もなく到着いたします」
ヘリコプターは城塞の一角にある塔の屋上に着陸した。そこには既にコジョがいた。彼が人間のコジョであることは、機体から降りる前から、その気配で判断できた。
「良くやった。この
「お褒め頂き光栄です」
ライトは丁寧にお辞儀をした。遊戯のことなど忘れかけていたことは黙っておいた。
「よろしければ、
「いいだろう。今の俺は
コジョは咳ばらいをし、勿体ぶった様子で堂々と言い放つ。
「それはこの国の未来を変える、素晴らしい発明品だ!」
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