第7話 回避と速攻
「前門の虎、後門の狼」と言う言葉が、ライトの頭を過ぎる。ただし現状は「地上の二虎、天空の龍」である。更には恐ろしい兵器をいくつも搭載している始末だ。
『このクワシ様を怒らせたからには、ただじゃすまさねぇぞ』コジョの先々代、クワシの勝ち誇った声が聞こえてくる。『ネジ一つ残さない程に、お前らを
虎は左右から、龍は頭上から、ライトを襲撃した。虎の肩からはチェーンソーが突き出し、ライトに向かって猪突猛進してくる。龍は手の平から機関銃を出し、遠距離攻撃をライトに仕掛ける。
ライトはそれらの攻撃に対し、まずは避けることに専念する。敵の攻撃手段や行動を洞察するためだ。幸い、周辺に散在していたゴミは
虎の速度はライトを上回っていた。だが小回りはできず、チェーンソーを回避すること自体はライトには難しくなかった。ただしその隙を突くように、長い尻尾を
それでもライトが虎に苦戦しなかったのは、二体がほとんど連携をしなかったからだ。チェーンソー同士が接触して弾き合ったり、一方の尻尾に接触して感電したりした。回避し続けられれば、そのうち互いに潰し合ってくれる可能性は十二分にあった。
問題は龍の方だ。ライトの攻撃が届かない場所にいることはもちろん、人間が龍を操縦している故に、攻撃が的確だった。ライトが虎の攻撃を避けるであろうポイントに機関銃やミサイルを撃ってくる。加えて不用意に乱射することがないために、それらが虎に命中することが一切なかった。
先に虎を倒してしまえば、ライトは龍への攻撃に転じることができた。だがそれは相手にとっても有利に働く。虎がいなくなればより強力な攻撃を
ライトは考えることに集中したいと思うが、一向に攻撃の手は緩むことはなく、隙が生まれなかった。それゆえ拮抗状態が保たれたまま、時間だけが過ぎいく。
「ウェイミー、
ライトのポケットの中にいる、人形姿のウェイミーが答える。「今の効力なら四分強で、最大効力にするとギリギリ一分以内だよ」
「少しだけ効力を強めて、ここぞってタイミングで最大にしてくれる?」
「わかった。でも本当に危なくなったら、強制的に意識を戻すからね」
「了解」
冷たい物を頬に当てられたかの如く、ライトの表情が引き締まる。周囲への感覚は聴覚のみにし、それ以外の意識は機獣を倒す算段を立てることに集中させた。機獣の攻撃が度々掠る。それでも痛みや恐怖感に苛まれることなく、ひたすらに多様な可能性を模索した。
ライトが考えを纏めるまでに要した時間は二分弱。至るところに掠り傷ができているが、まだまだ俊敏に動くことはできた。
ライトは機獣たちに背を向けて走り出す。当然、虎はそれを追跡してくるし、龍はライトの進行方向を読んで遠距離攻撃をしてきた。ライトは蛇行して龍の攻撃をかわしつつ、虎と絶妙な距離を保って走る。
「ウェイミー!」
ライトに名前を呼ばれ、ウェイミーは志創能力の効力を最大にした。それは虎がほぼ直線に並んだタイミングだった。ライトは全力疾走し、一気に虎の距離を取る。だが龍の機関銃が止んだ瞬間に急いで進行方向を180度変え、虎に向かって走った。
龍は、ライトと虎との距離が一定以上離れると、ミサイルを必ず撃ってきた。今回もまた、腹から一発、二発とミサイルが発射された。
その時にはもう、ライトの目の前には一体目の虎が迫っていた。虎は跳躍し、ライトに噛み付こうとする。
ライトは更に速度を上げ、それを避ける。そして虎の下を潜り抜ける寸前に剣を奮い、長いしっぽを切断すると、それを空中で掴んだ。
二体目の虎はそのまま突撃してきた。刹那、虎の口から細いパイプのような矢が発射され、ライトの脇腹の当たりに突き刺さる。
攻撃を食らっても、ライトは止まらなかった。痛みを感じないほどに集中できているからだ。虎と正面衝突しそうになる前に跳躍すると、虎の背中を踏み台に更に跳躍した。
今度は二発のミサイルがライトの目の前に迫ってきた。一発目は飛び越えて、二発目はまたしても踏み台にする。ややあって、ミサイルは地表で爆発した。その爆風を追い風に、ライトはより一層高く飛躍する。
龍の口が開き、光が集まり始めた。光線か何かを発射するのだろうが、その攻撃はライトには当たらない。ライトが虎の尻尾を首元に突き刺し、軌道を僅かに変えたからだ。
突き刺した虎の尻尾は勢いがついたブランコのようにしなった。その反動を利用し、ライトは龍の頭に着地する。そして思い切り剣を突き刺した。
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