第6話 機人と機獣

 混乱しながらも、ライトとウェイミーはコジョの先々代をゴミの山から救出しようとした。彼の上半身を覆っていたゴミを払い除け、そこから二人で彼の腕を引っ張った。


 思いのほか簡単に引っ張り出すことができたため、ライトとウェイミーは勢い余って再び尻もちをついた。軽い痛みを覚えながらも安堵感があったライトだったが、そんな感情はほんの一時のものに過ぎなかった。


 二人は同時に悲鳴を上げた。引っ張り出した先々代に下半身がなかったからだ。


「どどどどうしよう、ライト!?」


「お、落ち着いてウェイミー! と、とりあえずコジョ様のお城に運んで処置を――」


 ここでライトはあることに思い至った。立ちあがって、先々代の後ろに回り込む。そしてほっと胸を撫で下ろした。

 

「ウェイミー、この人もロボットだ」


「えっ!?」ウェイミーは慌ててライトの横に立った。


 その位置からは、先々代の胴の断面を見ることができた。普通の人間ならば、そこは艶やかな赤をした臓物が詰まっているはずだが、そこには光沢を放つ灰色の機械が詰まっていた。ダイオードが点滅し、ファンが回る音などが聞こえることから、まだ稼働していることが窺い知れた。


「まさかとは思うけど、これがコジョ様の大切な物なのかな」


「うーん、こんなにアッサリ見つけられるとは思ってなかったけど。でもともかくこの人を連れてコジョ様のところに戻ろう」


 ライトが先々代を担ぎ上げようと、肩に腕を回した時だった。先々代の瞼がパッチっと開かれた。青く黒い虹彩だった。


「気がつかれましたか?」ライトは人間に話しかけるように、先々代に話しかけた。


「何だお前らは?」警戒心を丸出しにしたような口調で、先々代は言う。


「僕はライトと申します。彼女はウェイミーです。ゴミ山に埋もれていたあなたを発見したので救出しました」


「そうか、それはご苦労だった。何か礼をと言いたいところだが、その前に俺の下半身を探してここに持ってこい。話はそれからだ」


 随分高飛車な口ぶりだなとは思いつつ、ライトは一旦先々代を下ろしてゴミ山に向かおうとした。だが「ちょっと待て」と呼び止められた。


「お前、さっき剣持って挑んできた奴か?」


「挑んできた? 何の話かわかりませんけれど、確かに剣は持っていましたよ」


「……そうか。それなら前件撤回だ。礼以上にあだの百倍返ししてやるよ」


「え? それはどういう――」


「俺を敵に回したことを後悔させてやるよ」


 先々代は左手首を引っ張った。するとその部分が伸びて、赤いボタンが現れた。そしてそれを力強く押した。


 途端、周囲にあったゴミが、先々代の頭上に高くに勢いよく集合し始めた。ゴミは長く長く連なっていき、そこに小さな手足や頭がつくことで、巨大な龍に姿を完成させた。最後に先々代が吸い込まれるようにして頭部に取り込まれた。


「これって、あの巨大ヤドカリとおんなじアレだよね!?」ライトは早口でウェイミーに言った。


「でも、ペルソナの気配がまったくしないよ!?」


「……ということは、あのヤドカリも」


「ペルソナじゃなかった……?」


 二人に考えをまとめている暇はなかった。


 龍が咆哮ほうこうを上げた。すると土に埋まっていたゴミが続々と地表に出てきて、それらがまた何かを形成し始めた。ほどなく小型の二頭の虎が現れた。


『今度は横やりを入れさせないぞ』


 頭上から声が降ってきた。先々代の声だ。


『ここの支配者が誰か、その身を持って知るがいいさ』


 ライトは素早くウェイミーを人形の姿にすると、鏡から剣を取り出して戦闘態勢を取った。 

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