第4話 報酬と罰則
座面と下半身が一体化した男は、唐突に目を見開いた。瞼が開いたというよりは、カメラのシャッターの開口部が開いたような印象だった。これはコアではなく、コアを
男は上半身を起こし、ライトたちの方向に首を傾けた。「よく来た。好きなところに座ってくれ」
ライトは左から二番目の席、ウェイミーはその右隣に座った。ゴミで出来ている椅子だが、座り心地はそれなりに良かった。
「我が城へようこそ。俺がこの城の主のコジョだ」
「ライトと申します。この度は突然の訪問に関わらず、お招き頂いてありがとうございます。こっちは連れのウェイミーです」
「紋切り型の挨拶はその辺にしておけ」コジョは頬杖を突く。「お前らもどうせ、昔の評判を聞きつけてやって来た口だろ?」
「昔の評判?」ライトは
「今在庫はほとんどない。残り物の中から気に入ったモノがなかったら、とっとと帰れ。言っておくが、新しいものを造る気は毛等もないからな。俺も暇じゃないんだ」
「えっと……済みません、どうにも話が見えないのですが」
コジョは頬杖から離れた。「お前ら、旅の商人とか、そう言う類の連中じゃないのか?」
「いいえ。旅の目的はありますが、商いをするためではありません」
しばしの沈黙の後、コジョは椅子の背に
詳しく聞きたいところだったが、ライトは追求を控えた。
背後から物音がした。見ると、ヤーが台車を押してこちらにやってきた。台車には、ティーボットやケーキなどが載っている。台の上でカップへ紅茶を注いだ後、それらをテーブルへと移す。そしてそそくさと部屋の隅へと戻った。
「そう言えばお前ら、どうしてあんな貧相な装備で
「クリーチャー?」
「あのヤドカリみたいなメカのことだ」
「……やはり見ていらっしゃったんですね」ライトは紅茶を一口飲んだ。
「クリーチャーの監視用に、千台近くのカメラが仕掛けてあって、その内の一つにたまたま映っていたのが見えたからな。さすがにヤバそうだったから砲撃もさせてもらった。感謝しろよ」
「はい、命拾いしました。ありがとうございます」ライトは深くお辞儀をした。「ご質問の答えですが、僕たちの旅の目的が、そのクリーチャー、僕たちはペルソナと呼んでいますが、その処理をすることなんです」
「ペルソナ……なかなかいいネーミングだな。身のこなしからして只者じゃないなとは思っていたが、なるほど、そう言うことか」
コジョは腕を組み、何やら考え事を始めた。ライトはお茶菓子のビスケットを食べながら、コジョの言葉を待った。
「ライト、俺と
「ゲーム、ですか。内容は?」
「実はな、俺はあのペルソナに、俺の大切な物を奪われているんだ。それを制限時間内に取り返してくることができればお前らの勝ち。できなければお前らの負けだ。どうだ、面白そうだろ?」
「勝った時の報酬と負けた時の罰則は何ですか?」
「勝ったら、お前らの旅に必要なものを何でも用意してやろう。負けたら――」
途端、椅子の背凭れから、腕時計のステンレススティールベルトのような物が飛び出し、ライトとウェイミーは瞬く間に拘束された。必死にもがく最中、頭上でバン! と物音がして見上げてみれば、二人の真上の天井が開放されていた。そしてその暗闇から、
反射的に爆弾だと思ったライトは椅子ごと立ち上がった。そしてウェイミーの椅子に体当たりをして、着弾地点から少しでも距離を取った。
だがいくら身構えていても、爆音や爆風はやってこなかった。恐る恐る確認すると、球体はコロコロと床を転がり、ヤーの足元で止まった。ヤーはそれを軽々と持ち上げて、床に何度も手で弾ませてみせた。
「次は本物の爆弾落とすからな」
コジョがそう言うと、椅子の拘束は糸を切ったように外れた。
「一応言っておくが、あくまでこれは遊戯、道楽だ。命が惜しいなら、悩まず辞退することだ。ま、辞退したら、この国から今すぐ追放させるがな」
「どうして……」ライトはウェイミーを起こしながらコジョに尋ねた。
「あのクリーチャーは俺の獲物だ。どこの馬の骨ともわからない奴に横取りされてたまるかよ」
「で、どうする? このゲーム、受けるのか? 受けないのか?」
「もちろん受けます」ライトは立ち上がり、真っ直ぐな目でコジョを見た。「僕たち、これでも一応プロですから」
「ふっ、上等だ。せいぜい俺を楽しませてくれよ」
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