第3話 城塞と城主

 ゴミにまみれた世界の中心に、突如として城塞が出現した。くすみのある光沢を放つ鉄で建造された、物々しい建造物だ。その周囲だけゴミが綺麗に片付けられているので、ライトとウェイミーは、まるで別世界に迷い込んだような錯覚に陥った。


 城門は格子状に鋳造された鉄でできていた。見上げるほどの高さが、威圧感を増幅させる。だがよく見れば、芸術的な彫刻が施されており、格式の高さも伺えた。


『無事着いたか』


 頭上からコジョの声が聞こえてきた。首を名一杯後ろに倒すと、スピーカーとカメラの存在を確認できた。ほどなく城門がゆっくりと上昇し始める。


『そのまま真っ直ぐ進め。あとはメイドに案内させる』


 城内には庭園があった。美しい花が並ぶ花壇や幾何学的に刈り込まれた樹木、小さな噴水も設けられている。落ち葉一枚落ちていないからに、まさにここは別世界の装いだった。


 ふと、生垣の陰から何かが出てきた。ロボットだ。それはカマキリのような形態で、鎌の部分が剪定鋏せんていばさみになっていた。カマキリ型ロボットはライトたちの前を素通りし、樹木の伸びた枝葉の剪定に取り掛かった。その動きはまさに機械的だが、ライトは不思議な愛着を覚えた。


「あれもコジョ様が作ったのかな?」


「あの巨大砲台も作っちゃうくらいだから、そうかもしれないね」


「僕、あぁ言うの結構好きかもしれない」


「へぇ、ライトがそういうこと言うの珍しいね」


 他にも、芝刈りロボットや水やりロボットたちの姿を確認できた。彼らの仕事ぶりを眺めながら進んでいくと、前方から近づいて来る人影があった。エプロンドレスに身を包んだメイドだった。


「ライト様とウェイミー様でいらっしゃいますね。ようこそおいでくださいました」物腰が柔らかそうな若いメイドが深々と頭を下げる。「私、お二方の城内の案内を仰せつかいまいした、メイドのヤーでございます」

 

 ライトとウェイミーが簡単な自己紹介を済ませると、二人はヤーに連れられ城の中に入った。そして間もなく感嘆の声を上げた。


 壁や天井には、繊細なモザイクによって装飾されている。繰り返される幾何学模様は永遠に続くわけではなく、いつの間にかまったく違う模様に変わっていた。ライトにはそれだけでも驚きだったのだが、壁のモザイクをじっくりと観察し、それがガラスやプラスチック、ゴムなどの欠片で造られていたことに、より一層驚いた。


「この城は、先先代が造り上げた発明品によって築き上げられた巨万の財産によって建築されたものです。の如何なる建築物にも引けを取らないようにと、壁や天井の装飾には特にこだわったと聞いております。そして外増も、現在は諸事情により補強されて無骨な印象を受けたかもしれませんが、本来は金鍍金きんめっきを施した輝かしい城でございます」


「スゴイこだわり様ですね」ウェイミーは目を輝かせて言った。


 ライトはヤーに視線を戻し、尋ねる。「ヤーさん、コジョ様はどのようなお方なんでしょうか?」


「大変な努力家でいらっしゃいます。この城内で働くメカたちをはじめ、様々なものを日夜発明されております。その熱意と資質は先先代にも勝るとも劣らないだと、私は思っております」


「先先代というのは、あの肖像画の方ですか?」


 ウェイミーが指差した方向をライトが見る。そこには2m超える大きさの肖像画が壁に掛けられていた。


 肖像画の中の人物は厳格な表情をした老人だった。せこけた顔に対し、燃えるように光る双眸そうぼうが強力な印象を見る者に与えた。額縁は、テレビモニターのフレームに小さな歯車やネジなどが装飾されたものだった。


「はい、その通りです。私は直接お会いしたことはありませんが、当時の記録やご本人が掛かれた手記を拝見する限りでは、とても独創的で情熱的なお人柄だったようです」


 しばらく進み、ライトたちの前に一際絢爛けんらんな扉が姿を現す。ヤーがそれを開けば、その先もやはり、光り輝くように豪奢な造りの部屋だった。三段に重なるシャンデリアや繊細な彫刻が成された長机、フカフカの絨毯などの品々が部屋には置かれていた。


 いずも高級な雰囲気が満載だが、やはり電化製品などの部品で作られている。外のゴミを利用して作られたに違いないと、ライトは確信した。そしてそれがこの世界の在り方であることも理解した。


 一際豪勢な上座の椅子には、既に人が座っていた。外見は二十代後半。短く刈ったくすみのあるブロンズの髪が特徴的な男だった。組んだ手の上にあごを載せ、じっとして動かない。


 彼がコアであるコジョかと思い、ライトは近づいた。だがコアが発する独特な気配を感じることができなかった。少しばかり慎重になったところで、思わず声を漏らした。


 男の下半身は椅子の座面と一体化していた。

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