50 京王井の頭線と紫陽花と水路橋
同じ京王線でも新宿⇔京王八王子の本線と渋谷⇔吉祥寺の井の頭線では「同じ会社が経営する鉄道なのか?」と思うくらい色々な点で異なることが多い。
井の頭線の特徴をあげてみると、
1.駅と駅の間隔が非常に短い
最短 渋谷⇔神泉 0.5km
最長 浜田山⇔高井戸 1.2km
2.京王線なのに、線路幅が狭軌
井の頭線 1067mm(狭軌)
京王線 1372mm(馬車軌間)
3.掘割と高架が多い
4.掘割の土手には紫陽花が多く植えられている
といったところだろうか。
紫陽花は、掘割部分の土手のほとんどすべての場所に植えられている。6月になると、井の頭線は『紫陽花電車』といっても過言ではないほど、素晴らしい景色を乗客に提供している。
奇しくも十数年前に北沢にお住まいの古老に、北沢から渋谷周辺の大正、昭和一桁のころのお話を聞く機会があった。
この方は、昭和一桁時代に北沢から青山にある青山学院まで毎日徒歩で通ったそうだ。
・・・そう、まだ井の頭線が誕生する以前の話しで、開通以前の井の頭線沿線は、畑や田んぼが広がるのどかな田園地帯だったそうだ。
1923年(大正12年)に関東大震災が発生すると、都心近くに住んでいて被災された人々が避難してきて、土地を借りて避難生活を始めた。
未だに都心から同心円を描いて、当時のどかな田園地帯だったあたりに借地権が多く存在しているのはそのためである。
井の頭線の歴史を紐解くと、山手線の外側に第二山手線ともいうべき環状線を建設しようと、1927年(昭和2年)に東京山手急行電鉄が、大井町 - 世田谷 - 滝野川 - 西平井 - 洲崎間50km余りの免許を取得したのが始まりだ。
一方小田急電鉄の祖である利光鶴松は、渋谷急行電鉄を設立し、1928年(昭和3年)に渋谷⇔吉祥寺間の鉄道免許を取得する。
昭和恐慌の影響で、両計画が頓挫しそうになると、東京山手急行電鉄と渋谷急行電鉄は合併して東京郊外鉄道となり、需要が多く見込まれて収益性の高い渋谷⇔吉祥寺間の建設を優先して取り組んだ結果、1933年(昭和8年)には、渋谷⇔井の頭公園間が開通、翌1934年(昭和9年)には吉祥寺まで開通した。
社名も建設途中に帝都電鉄と改め建設が進められましたが、当時としては斬新な高架線や掘割を駆使して、道路と立体交差を多くしたといわれている。
明大前で吉祥寺行きに乗ると、発車して間もなく首都高速の高架の下を潜るがその先最初に渡線橋が現れる。電車の中からでは単なるコンクリート製の橋にしか見えないが、実はこれは玉川上水の水路橋なのだ。玉川上水は橋の上に敷設された太い鉄管の中を流れ、そのわきには歩道もつけられて歩いて渡れるようになっている。
そしてこの水路橋にはもう一つ、興味深い点がある。井の頭線は開業当初から上下2線の複線で敷設されたが、この水路橋をよく見ると、4線通すことができるように作られている点だ。これは井の頭線を複々線化しようとしたものではなく、当初の計画にあった第二山手線を通すために複々線で設計されたためだ。掘割も幅広く作られている。
掘割を掘削してでた土砂は、高架部分の築造に利用されたほか、沿線の宅地開発に使われた。その掘割部分の土手に多くの紫陽花が植えられ、今でもこの季節、乗客を楽しまさせてくれている。
帝都電鉄はその後同系列であった小田急に吸収されて小田急帝都線となる。
1942年(昭和17年)、戦時下にあった日本は、陸上交通事業調整法に基づき、東京横浜電鉄、小田急電鉄、京浜電気鉄道が合併、さらに1944年(昭和19年)には京王電気軌道を合併して東急電鉄(大東急)となった。大東急に合併された際に、旧小田急帝都線は『井の頭線』と改名されている。
戦後独占禁止法、過度経済集中排除法が施行されると、大東急は対象外であったにもかかわらず、社内から分離独立の気運が高まり、1948年(昭和23年)に東急、京王、小田急、京浜急行に分離独立された。
独立の際京王は、「井の頭線も一緒でないと経営的に成り立たない。」と主張し、本来小田急の一路線であったものが、分離する際には京王の路線となった。だから京王電鉄は、1998年(平成10年)まで社名を『京王帝都電鉄』としていた。
現在でも下北沢で京王井の頭線と、小田急線の乗り換えは改札がない。違う会社の路線に乗り換えるのに、改札がないのを「何故?」と思われた方は少なくないだろう。
また、線路幅が違うのも、ルーツが違うからだったことは言うまでもない。戦時中、井の頭線の永福町車庫が爆撃にあって、多数の車両が焼失すると、井の頭線新代田駅と小田急線世田谷代田駅間に代田連絡線が敷設され、小田急線から車両が融通された。現在この、代田連絡線は宅地化されてしまい、地図をみても廃線跡らしいものを見つけることは難しい。
最近京王バスでは、昔の塗装を一部のバスに復活させて走らせているが、そのバスの側面には『京王帝都』と記されている。このバスを見かけると、なぜか得をした気になるのは私だけではないだろう。
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