45 みんわの故郷3 程久保橋と勝五郎

 第43話では、下程久保橋と程久保村の藤蔵が幼くして亡くなり、中野村の勝五郎として生まれ変わったあらすじを、第44話では中程久保橋と勝五郎の生家、そして藤五郎のお墓を訪ねた。

 今回は、一度藤蔵の生家に戻り、高幡不動にある藤蔵の墓と、その途中にある『程久保橋』を取り上げたい。

 藤蔵の生家から下程久保橋を渡って多摩動物公園通りに戻ると、程久保川に沿って北に向かって緩やかな下り坂を進むと、三差路の交差点にでる。信号機を見上げると、『程久保橋』と交差点の名前が掲出されているが、周りを見渡しても橋らしい構造物は見当たらない。実は、この交差点自体が橋の上にある珍しい交差点である。地図を確認すると、程久保川と多摩動物公園通りは約20度位の鋭角で交差しているため、交差点を中心に前後約90mくらいの橋・・・というよりも暗渠のようになっている。ここを車で通過する人は、だれもこの交差点が橋の上にあるとは気が付かないだろう。橋というと欄干や親柱があるのが普通だが、そういったものは見当たらない。

 この交差点上のモノレールの鉄橋はとても長いが、夜中動物公園通りを封鎖して日本最大の超大型自走クレーンで吊り上げて設置した。たまたま架橋工事の時に帰りが午前0時を回り、この架橋工事に出くわして思わず見学してしまったのがつい先日のように思い出す(残念ながら写真はない)。


 程久保橋を通り過ぎると、川崎街道との交差点に至る。右に曲がると、聖蹟桜ヶ丘、稲城などを経由して川崎へと至る。左に曲がると、川崎街道は途中右に曲がって甲州街道日野宿に至る。

 左に曲がって歩みを進めると、程なくして正面に弁柄色で水煙が陽光にキラキラ輝く五重塔が見えてくる。高幡不動尊だ。

 高幡不動尊は通称名で、正式には『高幡山明王院金剛寺』という。草創は、古文書によれば大宝年間(701―704)以前とも或いは奈良時代行基菩薩の開基とも伝えられるが、平安時代初期に慈覚大師円仁が清和天皇の勅願により東関鎮護の霊場を高幡山山上に開いたのが始まりともいわれている。

 高幡不動尊は、関東三大不動尊の一つとして数えられ、「高幡のお不動さん」と呼ばれ人々の信仰を集めている。他の二つは、成田山新勝寺(千葉県成田市)、玉嶹山總願寺(ぎょくとうさんそうがんじ)(埼玉県加須市)だ。

 川崎街道に面して古色蒼然とした山門がある。この山門は室町時代の創建で、楼門として着工されたが途中で計画が変更され、上層の主要部を覆うような形で萱葺き屋根がかけられ、外観は単層の山門として完成した。

 1959年(昭和34年)に解体修理された際、二層の楼門として復元され、銅版葺きとなった。

 山門の左右に安置されている金剛力士像(仁王像)は室町時代の作と推定されている。第44話に登場した永林寺の金剛力士像は無彩色の質実剛健なものであったが、ここ高幡不動尊の金剛力士像は極彩色に彩色され、圧倒的な迫力を持っている。

 参道から奥へ奥へと進むと、墓地に至る。その墓地の中に藤蔵の墓はあった。藤蔵の墓に向かう途中、ここにも六地蔵が安置されていた。山の斜面に沿って並んだ六地蔵は、こんもりとした木々に陽光は遮られて昼もなお暗く、湿度が高いせいか、お地蔵さまの表面はしっとり濡れている。

 藤蔵の墓は、当初は生家の近くの裏山に祀られていたが、その後高幡不動に改葬されて現在に至る。

 墓石の右肩は一部欠損しているが、全体的に状態はよい。近づいてみると、

   文化七年庚午天

   頓悟童子 位

   二月四日 半四良

と書かれているのが、読み取れる。


 転生した勝五郎は、平田篤胤の門人帳に名を連ねているが、勝五郎の意思というよりは、篤胤が勝五郎を門人にしたかったようだ。

 成人してからの勝五郎は、農業をする傍ら、目籠の仲買人をして極々平凡な生活を送り、1869年(明治2年)12月4日に55歳で亡くなった。

日本人の平均寿命が大きく伸びたのは戦後のことで、19世紀半ばの平均寿命は30代半ば(1880年(明治13年) 男36歳、女38歳)ということからすると、勝五郎は天寿を全うしたといえるだろう。


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