14 江戸の町4 江戸の『物価』

 12話で江戸の長屋の間取りをご紹介したが、家賃は今の価値に引き直すと、いくらぐらいだったのだろうか。江戸庶民の暮らし向きを物価の面から調べてみた。

 まずは、文化文政期(1800年代初頭)の様々なものの値段を調べて、お米の価値が現代と文化文政期が同じとして、江戸時代の価格を現代価値に引きなおしている。

 お米10kgの文化文政期の価格は270文、現代の一般的な価格を4,000円とすると、次のようになる。


    品  目  基 準   江戸時代の価格  現代に換算

現代  お米     10kg     270文      4,000円


収入 腕のたつ大工 日当     500文      7,407円

          月収     12,500文     185,185円

行 商 人     日当      200文      2,963円

          月収     5,000文     74,074円


生活関連 9尺2間の長屋の家賃

          1ヶ月     400文      5,926円

髪結い(店舗)   1回      28文      415円

髪結い(通い)   1回     200文     2,963円

銭湯        1回      8文       119円

芝居見物     1桟敷     2,917文      43,215円

蛇の目傘      1本     800文      11,852円


食べ物

長命寺桜餅(注1) 1個      4文      59円

握りずし     1貫       8文      119円

そば・うどん   1杯      16文     237円

日本酒      1合      20文      296円

スイカ      1個      38文     563円

串団子      1本      4文      59円

たばこ(注2)   10g     4.27文      63円

       注1:長命寺の桜餅の現代の価格は一個180円

       注2:現在刻みタバコは10g 360円 (税込み)


 江戸の街で税金を払っていたのは地主であり、庶民は税金を払っていなかったことから、上記表の収入は手取り額となる。所得税が源泉徴収されるサラリーマンからすると、なんとも羨ましい。

 話はそれるが、日本では、日清戦争が終わり日露戦争に向かって暗雲がたちこめていた1899年(明治32年)に、公債の利子に対して源泉徴収制度を導入している。

 給与収入に対して源泉徴収制度を世界で初めて導入したのはナチスドイツだった。日本も日中戦争に突入しその戦費を賄うため。ナチスドイツを範として1940年(昭和15年)に租税特別措置法により『一時的な取扱い』として導入されて現在に続く。

 近代における『税』の導入は、戦争と深いつながりが見えてくる。


 さてさて計算結果を見ると、意外と家賃が安いのに対して、ちょっと驚きは傘の値段だ。よく時代劇で浪人が傘の張替をしている場面が出てくるが、当時の『蛇の目傘』は何回も張り替えて繰り返し使われていたことからすれば、さもありなんといったところか。

 その他のものを見ると、さほど違和感はない。庶民の娯楽の芝居見物も桟敷席の値段とすれば、年に数回家族で、あるいは知り合いと行く娯楽と考えると、現代でもあり得る価格だろう。

 『幸福度』に絶対基準はなく、相対的に計られるものだが、江戸の暮らし向きを色々調べていくと、江戸の町民の生活水準は現代にも匹敵し、町民の幸福度はかなり高かったのではなかっただろうか。


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