シナリオ 「宿ロッキー」

ヒロ・トミー

シナリオ 宿ロッキー

シナリオ   宿ロッキー 

作 ヒロ・トミー 


Scene1

地方都市

朝7時30分

古びた 商店街の 小さな 店


慌ただしく 開店の準備をする女 あい子(30歳)

あい子の父親 とみぞう(62歳)が起きてくる。

のろのろ手伝う。


あい子2階を 見る。 

しびれをきらし 

大声で 夫 はちろう(28歳)の名を呼ぶ。


Scene2

向かいの店に 3人のおばちゃん A、B、C

後姿 顔は見えない。

A「あい子さんも 大変だね… 」

B「鈴木工務店が倒産するまでは はちろう君も

経理部でなんとか 仕事してたのにね」

C「いや お母さんが亡くなったことの方が 

大きかったよ…」

A「もう一周忌が過ぎたね… 

8人兄弟の末っ子で 大事にされて育って 

急に心の支えを無くして…

それからだよ無気力になったのは…」

C「そうかい? もともと ぼんやり してたよ」(A,B,C笑い)


Scene3

あい子2階に駆け上がる。

だらしない顔で寝ているはちろう。

あい子 ふとんを引き剥がし、

罵声を浴びせる(気の強そうな顔 激しい気性) 


それでも寝ている はちろう の尻を蹴り、

階段を駆け下りる


Scene4

忙しく働く あい子


とみぞう A、B、C に気が付き「おはようございます」

力のない愛想笑い。


A、B、C「おはようございます」

A小声で「どうも あの家の男は 腑抜けっぽいね」

B小声で「いや 代々 、女が強いんだよ 

はちろうさんで婿養子三代目でしょ?」

C「はちろう君も婿養子にきてから 

5年は過ぎたけど子供できないしね…」

A「さあ 私達も 他人の心配してないで 

仕事 仕事」(笑い)


Scene6

はちろう やっと 起きてくる。

新聞を読んでいる とみぞう に 

ちょこんと頭を下げる。

とみぞう と はちろう 朝食を食べているところに 

厳しい顔の あい子。

はちろう に 早く 職安に行けと 怒鳴る。


はちろう 力なく立ち上がり 着替えるため二階へ。

はちろう身長180センチ 体重80キロ 

もたもたしながら 家を出る。


Scene7

職安に着くが真剣に仕事探しをするでもなく 

ただ ぼんやりと時間をつぶす。


また 仕事がみつからず、帰り道。 

前から気になっていた 

オンボロなボクシングジムに立ち寄る。


はちろう 中を覗く。

会長とトレーナーが将棋を指している。

はちろう に 気付くが無視する。


はちろう 理由なく、

どうしてもサンドバッグが叩きたくなる。


壁に 入会金5000円 月会費5000円の貼り紙を見つけ、

ポケットから 一万円札を取り出し、会長に差し出す。 

驚く 会長。 

 

入会手続きを終えて 

サンドバッグを叩かせて欲しいと頼むが、

まず柔軟体操をして

縄跳びをするように言われる。


Tシャツと トレパンを借りるが、

サイズが小さく、大きく突き出た腹。

不恰好さに吹き出す、トレーナー。

はちろう の身体の硬さと

縄跳びの不器用さを陰で笑う。


再び将棋を始める会長、トレーナー。 

いつまでたっても縄跳びを止めない 

はちろうに 呆れる。

 

中学、高校とマラソン部にいた はちろう

持久力だけはある。


汗びっしょりの はちろう に 

サンドバッグの叩き方を教えるが、

いきなり突き指をする。


シャワーを浴び、着替えて帰る はちろう。 

はちろう が明日来るかどうか賭けをする

会長、トレーナー。



Scene8

はちろう 帰宅。

店の掃除をしている あい子と商品棚の

間を通り、黙って二階に上がろうとする

はちろう。

すれ違う時、石鹸、シャンプーの

香りに気付き 詰問する あい子。 

逃げる はちろう。

激怒する あい子・・・・・


Scene9

翌日 あい子に睨みつけられながら

紙袋に着替えを入れて出かける はちろう。


Scene10

ボクシングジムに着く。がっくりする会長。

小躍りするトレーナー。

また、柔軟体操をして縄跳びを続ける はちろう。


Scene11

数日後

あい子

はちろうに対する不信感を とみぞうに話す。

Scene13

翌朝

出かける はちろうの後をつける とみぞう。


職安入り口で作業服姿の男から

日雇い作業員募集のチラシをもらう。

はちろう。

 

帰り道 ボクシングジムに寄る はちろう。 

驚く とみぞう。


Scene14

自転車を飛ばし帰宅。

あいこに報告する とみぞう。 

呆れる あいこ 理解出来ずに 悩む。 


Scene15

帰宅したはちろうと

話し合おうとしない とみぞう を

睨む あいこ。


Scene16

翌朝、5時に出かける はちろう。 

手には日雇い作業員募集のチラシ。

地図を見ながら、徒歩で集合場所に向かう。


集合時間30分前に着く。

公園のトイレで、水を飲み空腹をうめる

はちろう。


昨日の作業服姿の男、現場主任山本の車に乗り、工事現場へ行く。

工事手順の説明を受ける。 


鈴木工務店の経理部にいたことを告げる。

山本「じゃ だいたい仕事はわかるな 

今 男の事務職は求人ねえだろ」

と笑う。 

はちろう 黙って頷く。


Scene17

工事現場

体格のわりに力が無く、

よろけながら鉄筋を運ぶ はちろう。 

見ている山本。


Scene18

昼休み はちろう 手洗い場で水をがぶ飲みする。  

昼飯代が無いことに気付く山本。

「前金だ」 

はちろう に千円渡す。


コンビニでパンと牛乳を買い 

むさぼるように食べる はちろう。


Scene19

午後から 必死に働く はちろう。 

終業時 日当の残金を受け取る。 

ボクシングジムに寄り クタクタで家に帰り着く。

テレビの上に日雇い作業員募集のチラシと

5624円を置いて そのまま眠り込む。


Scene20

翌朝 5時に出かける はちろう。

山本が はちろう より先に集合場所に来ていた。

山本「おい かかあ が余分に作りやがって… 食ってくれ」

と でかい握り飯を差し出す。 

はちろう 遠慮するが、腹が鳴る。 

ペコリと頭を下げてうまそうに食べる


Scene21

工事現場

真剣に働く はちろう・・・・・

1ヶ月間、一日も休まず働いたはちろうに 

山本が特別に皆勤手当5000円を与える。

喜ぶ はちろう。 

ボクシングジムの月会費を払う。



Scene23

はちろうを無視するあい子。

元々、口数の少ない はちろう。

二人を避ける とみぞう。

会話の無い 家族。


2ヶ月が過ぎた。 


偶然 はちろう を 見かけた おばちゃんA

A「ちょっと!えらいことだよ 

はちろう君 見た?」

B「いや この頃 見ないねえって 話してたのよ」

A「癌か なにかだよ ぜったい! 

顔は真っ黒で 

誰だかわかんないくらい 痩せてさあ… 

もう 別人だよ…」

C「やっぱり… 

この間 とみぞうさんに 

はちろう君元気?って聞いたら 

なんか あやふやなこと ろ言ってたよ…

  まだ 若いのに可哀想に…」


Scene24

とみぞう「おい!あい子 最近 はちろう 

ひどく痩せて病気じゃないかって

近所で噂になってるらしいぞ… 

たしかに、ボクシングやってるだけじゃなくて 

ほとんど 晩飯食ってねえからなあ… 

話し合ってみたらどうかなあ…」

売り上げの計算中で 無視するが 

考え込んでしまう。あい子


Scene25

あい子 洗濯をしようと 風呂場に行く。

湯上りに身体を拭いていた 

はちろう の後姿を見る。

思わず息を呑むほど逞しくなった 

はちろう の背中に驚き 

慌てて 脱衣場から飛び出す あい子。 

壁にもたれて 

動悸を鎮めようとしているところに 

パンツ一枚で はちろう 出てくる。 

盛り上がった胸の筋肉と引き締まった腹筋。 

黙って あい子の前を通り過ぎる はちろう。

驚いている自分に腹が立ち、逆上する あい子。  

はちろうの背中目がけて洗濯籠を思い切りぶつける。

はちろう 驚いて振り返るが 

なにごともなかったかのように 

二階へあがろうとする。 

あい子「ちょっと 待ちなさいよ!

どういうつもり!

ボクシングだかなんだか知らないけど 

わけのわからない仕事に行って!!」叫ぶ あいこ。 

ギクッ!とする  はちろう。

あい子「なんで何も言わないの! 

言えないようなことしてるの? 

ちゃんと言え!」掴みかかる あいこ。

なんとか逃げようとする はちろう。


爪を立てて、顔、耳、髪の毛を、

激しく攻撃する あい子。 

たまらず はちろう あい子の両腕を抑える。

身動きできなくなった瞬間。

あい子 はちろうの左肩に噛み付く 

激痛に顔を歪める はちろう。 

あい子の両手を放す。 

噛むのをやめる あい子。 

はちろうの左肩 歯形が残る。

うっすらと血が滲んでいる。 

茫然としている あい子。 

何も言わず そのまま二階へ上がる はちろう。 

はっと 我に返り 二階へ駆け上がる あい子。 

ふとんに横になっている はちろう に 

泣きながら殴りかかる。 

制止しようと抱きしめ、上になり、

必死に首を振る はちろう。 

真っ直ぐあい子を見つめる


何かを感じたのか、

おとなしくなる あい子。

見つめ合う あい子 はちろう。 


あい子 小さな声で「重いから のいて・・・」

はちろう あい子を強く抱きしめる。 

黙って 目を閉じる あい子。


Scene26

翌朝 はちろう 目を覚ますと 

隣にあい子の姿がない。

台所で朝食の支度をしている あい子。


背中を向けたまま 

あい子「おはよう!」


はちろう「お……は…よう…」

あい子 に向かって久しぶりに声を出すせいか 

上手く声が出ない。

朝食を食べ終わり、出かけようとする。 

あい子「それ 持って行って」

あい子手作りの弁当が置いてある。

はちろう 胸に抱き締めて 外に出る。

ありがとう…

集合場所へと 走る。

微笑みを浮かべ はちろうの後ろ姿を見送る

とみぞう。



Scene27

いつも通り 山本が少し早く来ていた。 

握り飯を断り、妻の朝食を 食べて来たことを話し、弁当も見せる。

ニヤリと する山本。


Scene28

昼休み 作業員達と弁当を食べている。 

左肩の歯型を見つけられ、 冷やかされ 

真っ赤になる はちろう。


Scene29

はちろうに やさしくなった あい子。


仕事のこと、ジムのこと、少し話すようになった はちろう。


よく 笑う とみぞう。



scene

産院からあい子が帰って来た。


緊張して 出迎える はちろう、とみぞう。


あい子 笑顔でVサイン


跳び上がって 喜ぶ はちろう、とみぞう。


あい子「2ヶ月です おめでとうございます

だって」

両手を拡げて はちろうに 飛びつく あい子。


言葉が出てこない はちろう。

抱擁する。


とみぞう「おい… もう ボクシングなんて 危ねぇこと 止めてくんねぇかな…

子供のためによぅ…」

嬉し涙を 拭いながら 懇願するが…


黙って 小さく首をふる はちろう。

あい子も 微笑みながら頷く。


拳を強く握り締める はちろう。

 


Scene30

ジムの会長に笑われながらも 

プロテストを受け 合格。 


スーパーフェザー級 新人王戦に出場する。



scene

工事現場

はちろう 弁当を開く

中に 手紙が入っている


はちろうさんへ


私達 お見合い だったから

これが 初めての ラブレターです


やりたいことを、好きなようにやって下さい。


私にとっても、子供にとっても、誇れる

お父さんです。

あい子


はちろう 急に

シャドーボクシングを始める

皆、驚いて 遠巻きに観ている。


汗を拭くふりをして 涙を拭いている。


scene

デビュー戦の相手が決まった。


全試合KO勝利。

アマチュアボクシングタイトル

完全制覇という

日本ボクシング界のホープ。


生意気な態度とビッグマウスで 

マスコミの寵児となっている 

亀山こうじ選手。 


本来 フェザー級の選手だが、

所属ジムの会長の甥が

フェザー級の選手で、新人王を目指しているため、自分は重い階級でも、新人王ぐらい 楽に獲れると、豪語。

階級を上げて、スーパーフェザー級に出場している。

そのため身体を絞っていない。

相手が はちろう なので、完全になめている。


scene

ジム

縄跳びをしながら 談笑している 練習生。

トレーナー「こら❗パンチは多く!口数は少なく! はちを見倣え‼」

「はい」

「すみません」


インターバル


トレーナー「はちが ここまで やるとは 思わなかった… いつ来なくなるか 会長と 賭けてたぐらいだ」

はちろう「知ってました」(笑い)

トレーナー「よく 頑張った… 驚いている…」

紅くなる はちろう。


開始のゴング

縄跳びを始めようとする はちろうを止め、

トレーナー「今日から やることは 3つだけだ

ガード 、ボディブロー 、最終兵器!」

はちろう「最終兵器?」

トレーナー「相打ち の お稽古」(笑い)

はちろう「… …」

トレーナー「ガードを固めて ヤロウのゆるんだ

腹に 小さく早いパンチを当てる 強

さより とにかく数だ 最終兵器

ってのは、左のパンチを貰った 時! 当たったら ガン‼右を出す!

それだけだ‼

ワンチャンス!

はなっから 勝ち目は 万に 一つどころか 億に一つも無い

だが 試合に出る以上 何か やろうや 今 やれることは それだけだ」

はちろう 力強く頷く



Scene31

山本の口利きで、元請の建設会社の経理部で

働かないかとの話もあったが、

現場の仕事を選び、試合直前まで

工事現場で作業員達と共に働く はちろう。


scene

ジム

スパーリングをしている はちろう。


トレーナー「はち!もっとくっつけ‼

ガード! さがるな‼

ボディ!ボディ‼ガード‼

ジャブもストレートもいらん‼

さがるな‼ガード‼ボディ‼」


会長「おい はちの 長いリーチを 活かして 逃げ脚の フットワーク練習 しなくて

いいのか?」

トレーナー「亀山に 追われて逃げられる脚は持ってません

むしろ ガードして 大きいパンチ出しにくい

距離に くっついて 腹だけ打つ‼

この方が 覚え易いかと… 」

会長「なるほど 亀山も 面食らうかも知れんな」(笑い)

トレーナー「はち は、不器用だけど 教えたことは、確実に覚える

おんなじこと させても 飽きない 文句言わない」(笑い)

会長「良いところなのか… 損してるのか…」


Scene32

大きくせり出した お腹で 元気に働く あい子


あい子「はちろうさん デビュー戦 ぜったい勝ってね」 

はちろう も約束して、とみぞう を驚かせる。


あい子の顔も表情も性格までも穏やかになっている。 

はちろう も父親の顔になっている。 


真剣な顔で

カレンダーを見つめている はちろうに

ボディブローを見舞う

あい子。


scene

試合前日の深夜

家の前に タクシーが止まっている。


荷物を抱えて 一人乗り込む あい子

あい子「私も子供も 大丈夫だから心配しないで‼

念のため 産院の先生が 来なさいってこと

だから行くんだからね!

はちろうさん! 明日のために もう 寝て‼

お父さんも 早く 休んでね!」


タクシーが遠ざかる


とみぞう「気丈なところは 死んだ女房にそっくりだ」




Scene33

試合当日 控え室。

トレーナー「昨夜大変だったらしいな」

はちろう「いえ もう 落ち着いたみたいです」

会長「棄権したって よかったんだぞ」

はちろう「そんなことしたら ぶん殴られますよ」

トレーナー「奥さん 亀山より 怖いらしいすよ」(笑い)

はちろう「看護士している 姉が 付き添ってくれてるし

オレが いても 役に立ちませんから」




作業員達が 控え室に 入って来た。

一人一人に 明るく応対する はちろう。


会長「はち … 変わったな… いや 強くなったな…」

トレーナー「… 初めて かも 知れません… こんなに 勝たせてやりたいと 思うのは… 」


元請の建設会社吉川社長と経理部小畑部長が

激励に来る。


再度 経理部で働かないかと誘われる。


はちろう「この試合 勝ったら ぜひ お願いします」


控え室を出てドアをしめながら


吉川社長「どうやら 断られたようだね」

小畑部長「はい そのようですね」


scene

リングに向かう 通路

会長、はちろう、トレーナー

ゆっくり 進む

はちろう(あいちゃん 頑張れよ… オレも…)



Scene34

リングに登場した 亀山選手

いつものパフォーマンスで観客を沸かせる。

はちろうを 馬鹿にして 挑発するが、

はちろう 下を向いたまま。

ヒートする会場。


Scene35

はちろう の数少ない応援団席には作業員達、

吉川社長と小畑部長。

商店街の人達、おばちゃんA、B、C(三人の顔が初めて映る)


Scene36

とみぞう 産院からの連絡を待って 携帯電話を握り締めている


scene

陣痛に耐える あい子

腰を擦り 励ます はちろうの姉

あい子「頑張れ 頑張れ はちろうさん」


Scene37


ゴングが鳴る。

亀山選手の激しいパンチの嵐。 

一方的な試合。 

第1ラウンドで はちろうの 顔の形が変わってしまう。


Scene38

第2ラウンド 

亀山選手の派手なパフォーマンスに会場は沸くが、

セコンドは焦り始める

会長「おい こんな相手に 何やってるんだ 早く倒せ 

プロモーターも何人か来ている 夢が遠のくぞ」

セコンドに付いている亀山選手の父親

「やかましい おまえの甥のために

この階級でやってんだろが!」

セコンド「おい 会長になんて口きくんだ」

亀山選手の父親「なにをー」


アナウンサー「おや?亀山選手サイド 

セコンド同士もめているようですよ」

解説者「どうしたんでしょうね。

それに、亀山選手あきらかに

トレーニング不足ですね。ラウンド後半息切れしてますよ。

軽いパンチで ボディが赤く 腫れて来てます

鍛えていない証拠です いけませんね

こんな試合をしていると、今後に影響しますよ。

はちろう選手も一歩も退かずにタフですが、本人の身体のためには、

これ以上打たれたら試合を止めるべきでしょうね」


Scene39

第3ラウンドのゴング

パンチを打っても 打っても 倒せない 亀山選手

しつこく接近して ボディブローを打つ はちろう

観客もいらだち始め、野次が多くなる。

セコンドが つかみ合いを始める。


scene

はちろう応援団席

作業員達、商店街の人々一丸となって

「頑張れはちろう〰 頑張れーー」


小畑部長「うちに 来てもらいましょうよ」

吉川社長「当たり前だ! 絶対だぞ‼ 絶対だ!」

二人「頑張れーー頑張れーー」

 

携帯電話を握り締める とみぞう


Scene40

産院

あい子「はちろうさん! はちろうさん!」

オギャー オギャー 産声が響きわたる


とみぞうの携帯が鳴る

「やったぁ~~! 産まれた~~!

男の子だぁ~~~~」

立ち上がって 叫ぶ とみぞう


狂喜する はちろうの応援団席



Scene41

第3ラウンド終了

盛り上がっている はちろう応援団を 小馬鹿にする 亀山選手。


はちろう のコーナーにレフリーが来る。

レフリー「次の回、これ以上打たれたら 途中で止めますよ」


トレーナー「おい、亀山 左のガードが下がってきたぞ 

最終兵器の出番だ! 

一発勝負 !もらったら 気持ち良く寝ろ!

無理して 立とうとするな! 

もう 充分やった 誰も 文句はねぇ

聞こえてるか?」

かすかに頷く はちろう。顔は腫上がり目もほとんど見えていない。 


Scene42

はちろう のコーナーに とみぞう駆け込んで来る。

とみぞう「おーーい 産まれたぞーーー 男の子だーーー 

元気に産まれたぞーーー やったーーやったーー 」

とみぞうに手を挙げて 応える はちろう

セコンドアウトのホイッスルが鳴る

トレーナー「さあ‼ パパ! 勝負してこい‼」


はちろう(あいちゃん 頑張ったな… オレも…)

グラブでグラブを叩きながら 力強く立ち上がるはちろう


scene

応援団席

おばちゃんA「はちろうく~ん もういいよ~ 止めとくれ~」

おばちゃんB「赤ん坊のためにも 止めとくれ~」

おばちゃんC「もう 叩かれないで~ 叩かないで~」

三人号泣

山本 上を向いて 涙を堪えている

手を合わせて祈る者

叫ぶ者


会場内 所々に 小さく はちろうコールが 起き始める



Scene43

第4ラウンドのゴングが鳴る

焦って打って来る 亀山選手

レフリー試合を止めそうになるが、

はちろうの ボディブローを 嫌がる亀山選手


2分過ぎ 倒そうと大振りになる 亀山選手


左の リードパンチが はちろうの 鼻骨をへし折る


当たったらガン


呪文を唱えるように 

右ストレートを出す


リーチで勝る はちろう の右が  

一瞬早く ノーガードの亀山選手の顎を打ち砕く 


前に崩れ落ちる 亀山選手  


亀山選手のロングフックで大きく後ろに飛ばされ、 

ロープにしがみつく はちろう


試合会場 一瞬沈黙 その後 

爆発したかのような大歓声


目を見開き口を開けたままの とみぞう


立ち上がり、絶叫する はちろう の応援団席


茫然とする 両セコンド


はちろう ニュートラルコーナーに促されるが、

足がもつれている


亀山選手 うつ伏せに倒れたまま、ピクリとも動かない。  

カウントを始める レフリー


両手でマットを叩き

「立てぇーー! 立てぇーー!」

父親の喚き声に、目を開ける亀山選手


カウント9で、やっと立ち上がる


レフリーのファイトの声


ニュートラルコーナーから、

必死に亀山選手に向かう はちろう


立っているだけで精一杯の亀山選手

一気にラッシュする はちろう


打たれ放題の亀山選手


レフリーが手を挙げて両選手の間に割って入ったところでストップモーション


テロップが 下りてくる  

 完


タイトルの 宿ロッキー は

宿六《やどろく「宿のろくでなし」の意・

妻が自分の夫を卑しめたり、親愛の意を込めたりしていう語》

と ボクシング映画のロッキーを 混ぜた駄洒落です。


真面目なだけが取り柄の男が時代の流れと

唯一心のよりどころであった母親を失うなどの挫折から

無気力状態に陥っていたが、肉体を動かすことにより

勇気と自信を取り戻していく。

その過程で、

蔑まれていた妻からも男として認められるようになる。

男の逞しさが女を本来の性へと回帰させて行く。

寡黙な男の魅力、心温かい下町の人々、労働者など 

今はもう見かけないかも知れません…




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シナリオ 「宿ロッキー」 ヒロ・トミー @hirotomy

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