第5話
体力を付けないと何も始まらないと、俺は朝晩の散歩をすることにした。
……いや、歩くだけではぁはぁ息が乱れるレベルだから、歩いてちょっとでも体力付けないと走る事も出来んのよ。走ったら膝が大変な事になりそうだし、
入院していた時のリハビリを思い出すよね。体力が付いたら、走ったり、筋トレしたり、この世界の剣術を見よう見まねで覚えるためにお兄様の稽古姿を影からストーキングするつもりだよ!
それ以外は将来に向けての勉強や、魔法を覚えたいのでエミリアに場所を聞いた図書室に通うつもりだ。
……室と言っても別館のようになっている吹き抜けの三階建てなので、市立の図書館なんかメじゃないほどに広く、蔵書も百万冊くらいありそうだけど。
厳ついオッサン達が見張ってる入口を社会人生活で身に付けたのだろう愛想笑いでくぐり抜け、最初の一週間はとりあえず目的の本を探そうとしたのだが……そこで重大な問題に気がついた。
……この世界の字が読めないと言う決定的な問題に。
エミリアに日本人の最終奥義DOGEZAを使って、三週間で何とか単語を読めるくらいにこの世界の字を覚えた俺は、再び図書室探索に乗り出した。
一週間あれば見つけられると思ったが、結局目的の本を見つけるのに二週間ほど掛かった。広いし、まだ読めない字もあるから仕方ないのです。
『魔法大全』『魔法応用理論』『魔法の深淵』『魔法の初め方』などの魔法関連に
『ベルザール伯爵の美食記』『食文化の歴史』『ベルザール伯爵の秘密レシピ』など将来に向けての布石に
『マグナリア建国記』『マグナリア英傑伝』『マグナリア近代史』『マグナリア騎士列伝』『英雄王と魔王』など史実や、神話関連などの教養関連
『魔物の生態』『魔物達の危険性』とかこの世界の生態系関連
最後に剣術や武術関連の書籍を探し終えた。
早速魔法を使いたいとわくわくしながら本を開いて一通り読んだが『魔法の初め方』一冊で十分だった。……と言うより他のは基本的な事をわざわざ小難しく、解りづらい言葉を使い、自分理論を押し込めた代物だった。
そもそも『魔法の深淵』は意味がわからないことに半分以上空白だけどね。
……なんで石頭の学者って難解な言葉を使いたがるのよ?それが頭良いと思ってる厨二なのか?本当に頭いい人ってのは難しい理論をバカでも分かるくらい、分かりやすく説明するもんだろうに……。
纏めると魔法は四大属性、火、水、土、風、の四つと、二極属性の光と闇の六種類があるらしく。中でも光と闇は稀少で滅多にいないそうだ。
そして魔法には相性があって、基本的に一人につき一つの属性が普通らしく、ダブルは千人に一人。光属性を含めた三属性使えるトリプルは英雄や、勇者として歴史に名前を残すレベルだそうだ。それと一応魔法の適正は遺伝するようで、王公貴族はダブルとかトリプルが多いらしいよ。
やだ……お兄様たら光属性に適性あるうえでトリプルじゃん。さらっとエミリアの話を書き流したが、いくらメイン攻略対象だと言え、ちょっとチート過ぎません?
ま、いいけど……とりあえず得意属性の判別方法としては、グラスに水を注ぎ、魔力を込めた時の変化で分かるそうだ。
火なら水が沸騰し、水ならグラスから水が溢れ、風は渦を起こし、土は結晶が出来るそうだ。関係ないと思うけど、光は水が黄金のように輝き、闇は水が無くなるらしいよ。
何故か闇の判別方法は『魔法の深淵』にだけ書いてあった。何でだろうね?
ま、とりあえず、適性属性を調べるのに魔力の使い方を覚えないと始まらないけどね!
更に二週間が経ち、走れる程度の体力と魔力を使えるようになった俺はニマニマしながら、グラスに入った水を見ていた。
一週間は瞑想して魔力を感じ取り、また魔力を使えるようになるのに一週間。地味な修行をした成果が今見れるのだ。
わくわくしながらグラスに手をかざし、魔力をゆっくりと込めて行く。
すると水に渦が生まれ、水が溢れる。そして、中には綺麗な結晶が出来……水は無くなった。
…………あれ?渦は風。水が増えるのは水。結晶が出来るのは土。水が無くなるのは闇。
全部で風、水、土、闇と四属性ないですか……?
図書館で調べたが四属性が扱えた人間の記述はなかった。代わりに闇属性は縁起が悪いと言うか、地方の村だと殺されるレベルに嫌われてると分かったよ!
なんでも魔物を操り、人類を滅ぼそうとした魔王が使った魔法が闇属性だそうで、闇属性自体かなり稀少だが、闇属性持ちと分かったら隠すのが普通らしいです。
『魔法の深淵』をもう一度読み直したら、空白だったはずのページに文字が浮き出ていて分かったことだ。
冒頭は『この文字を読んでいると言うことは、君は闇属性持ちなのだろう。まず、最初に言っておく。秘匿しろ。絶対に親兄弟にも言うな。シングルなら難しいかも知れんが、闇属性を使えると言うことはダブル以上だろう。その他に使える属性を周りに言うのだ』
と注意から始まり、闇属性がどんな扱いを受けるのか実体験に基づいて書かれたエドガーさんのハンカチ片手にしか読めない半生と、闇属性の研究が書いてあった。
最後には『最後に闇属性は強く、危険な力だ。だが、力は力。所詮は使う者次第だ。君が闇属性を使えると分かったら衆愚どもは闇属性と言うだけで君を卑下し、怖れ、嫌悪し、迫害するだろう。私の研究を使って復讐するのも自由だ。それでも……私はこれを読んだ君が君の道を真っ直ぐ進み、正しく力を使うことを望む。君に精霊の恩寵を。
エドガー・マクスウェル』
もう俺の心の中でエドガーさんは師匠に認定しようと思う。あんな人生を送ったのにいい人過ぎるよ!エドガーさん。
とりあえず、闇属性は絶対に秘匿して、周りには土と風の二属性持ちってことにしておこう。水も使えるのを隠しておけば、何かあったときに使えそうだしね。まぁ……エミリア以外に話し相手も居ないんだけどね!
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