第4話


「失礼しまーす……」


状況整理して、とりあえず生き残ってやらぁ!と、決心を固めていると……やる気の感じられない声と共に、タオルや水面器を乗せたリアカーを押してメイドが入ってきた。


全身から仕事だから世話してるんだからね?本当は嫌なんだからね?わかってんなコラッ!と主調しまくりメイドだ。


見た目的には充分美人の範疇に入る可愛い系なのだが……セクハラ上司に絡まれて無理に作り笑い浮かべたOLみたい表情をしてやがる。どんだけ嫌なんだよ……。歳の頃は十代後半と言ったところだろう。


いや……うん。記憶を掘り返すと優秀過ぎるほどに優秀らしい兄と比べ、直系の王族なのにも関わらず出涸らし扱いされてね?って思ってたけど……不敬過ぎません?このメイド。


「はぁ……朝の身嗜みを整えるので、大人しくしてくださいね。まぁ……言うまでもないですが」


あからさまにため息したよ。この人……。


色々言いたいことはあるが、言われたままに大人しくする。まずは金属で出来た洗面器を使って、顔を洗われる。櫛で髪を整えられ、そして服に手を掛けられ……って


「ち、ちょっと待って!自分できがえるからっ!」


「っ!?喋った……急に恥ずかしがってどうされたんですか?」


なんか、喋っただけのなのにおどろかれてるんだが


「まぁ……ご自分で着替えたいのなら、お任せしますが(手間が減ってラッキー)」


分かりやすい表情と、副音声だ。


渡された服に着替えながら記憶を掘り返す。……あ~、考えてみれば記憶が甦るまで、特に何も考えずに、ぼけーとしてたような気がする。転生の影響かしら?それとも……そうしてた方が良いと判断したとか……ね。


……そう考えると、このメイドがこういう態度なのは、今までの俺の反応が薄かったせいなのか?……いやっ!なんか最初からこんなんだった気がする。


たまに小声で「なんで出涸らしの専属になったのかしら……」「金持ちのお手付きになる予定が……」「愛人として贅沢三昧の夢が……」「せめて姫様とかの専属になって優雅な暮らしが……」とか言ってたな……。


……どんだけ腹黒いんだよ。そりゃそんな腹黒ブラックメイドを大事な嫡子であるお兄様には、付けないだろうさ。


あれ……?そんなメイドを付けられる俺ってどうなんですか?ちょっと。


「……朝食はどうなさいますか?いつも通り部屋で召し上がりになりますか?それとも食堂の方で召し上がりますか?」


ああ、なんか、いつもは部屋で出された料理をとりあえず食べてたな。お兄様の顔も見たいし、食堂に行って見るか。見るだけにな!……ユーモアのセンスは転生してもないらしい。



▲▽▲▽▲▽



食堂に行くと言ったら、ちょっと驚いた顔をしたメイドのエミリア後に付いて、長い廊下を歩く。


「はぁ……はぁ…」


うへぇ……多分5分以上歩いてるのにまだ着かないよぅ。無駄に広すぎだよぅ……。それとあまり出歩かなかったから、この体は体力無さすぎだ。もう息が上がって来たぞ……。


筋力無さすぎて、五歳児なのに膝も痛いし、余分な脂肪で重い。


これから鍛える事を考えると、ちょっとキツいぞ。


「こちらです。カイン様」


エミリアが立ち止まり、人の目があるから為か、優雅で恭しさを感じさせる所作で扉を指し示した。


素晴らしい猫被りだ。猫なんて可愛い生き物じゃなさそうだけど。女はとても怖い生き物なのである。


扉を開けると、赤、青、金、銀と絢爛豪華な内装に、絵画や調度品が並び、十人以上が余裕で座れるだろう食卓には、いくつもの燭台が置かれていた。


そんな無駄に広々とした食卓に座っているのは二人だけのようだった。


一人はお兄様だ。年は一歳しか変わらないはずだが、すでに人を従わせるようなカリスマ性と言うか、風格のようなモノを纏っている。艶やかな黒髪に、切れ長のサファイアブルーの瞳、綺麗な鼻筋。まだ子供の癖に可愛いと言う表現が許されないような存在だった。


もう一人は癖っ毛なのか、所々跳ねた金髪に、柔らかい印象を受けるエメラルドグリーンの瞳、全体的に整いながらも優しそうに見える顔立ちをしている。ただ……見たままに優しい少年だけと思って舐めたら痛い目に会いそう感じだ。腹黒いオーラを感じるもん。


その二人は扉から一番奥の席に座り、二人仲良く食事をしてるようだ。その後ろの壁には付き人だろうメイド達がいる。


食堂の豪華さや、二人の存在感にちょっと圧倒されて立ち竦んでいると、金髪の方が俺の存在にづいたようだった。


「あれ……?カイン……食堂に来るなんて珍しいね。いや、初めてかな?立ってないでこっちに来なよ」


人懐っこい笑みで手招きする金髪の少年に誘われるままに近づく。すると後ろに立っていたメイド達に、蔑むような冷たい目で睨まれた。


ひぇ……だからっ!朕には高貴な血がながれてるんだからね!いくらなんでも扱いが酷いよ。


しかし……エミリアだけじゃなくこういう態度って事は、俺の立場を正確に把握しておくべきか。うわーい、めんどくせぇなぁ……。


金髪に隣の席を勧められたので座る。お兄様は座った俺に一瞥すると、興味がないとでも言うように視線を外された。いや……いいんだけどさ。


「……アベル。カインが来たんだから挨拶くらいしなよ。お兄さんだろう?」


「ふん……弟だろうと、なんだろうと俺は俺の認めた奴にしか挨拶はせん」


「はぁ……気高いとも言えるけど固すぎるよ。将来、順当に行けば宰相として、そんな君を支える事を考えると色々考えてしまうね。例えば……君じゃなく、カインを擁立するとか……ね?君はどう思う?カイン」


……おいおい、部屋の空気がちょっと重苦しなったんですがっ!?この金髪はなにをいい笑顔で爆弾を投下してくれてんだよ。


と言うか……こいつらまだ6歳だよね?何この会話。下手に答えたら、色々終わるじゃないか。後ろのメイドさん達が怖いです。


よし!ここは僕、話の内容自体理解出来ませんよ~?作戦で……いや、もしかして逆なのか?


「いえっ!僕程度が兄上と張り合おうなどと、滅相もありません。兄上の足元にも及ばない凡才ですが、僅かでも助けになれるようにこれからは心身共に鍛練するつもりです」


「ふん……」


「はは……そうか。それは残念。まぁ、頑張りなよ」


金髪や、当然だと言わんばかりのメイド達の反応を見る限り、正解だったらしい……。


嫌がらせじゃなく、助け船か。有難いんだけど、心臓に悪いわ!



▽▲▽▲▽▲




「はあ~疲れた……」


食堂から自室に戻った俺は深く、重いため息を吐いた。幸せが結構逃げたな。今の俺に幸せ成分がどれだけあるのか分からんが……。


とりあえず食堂で食事は取らないことにした。兄上やあの金髪……アズマは特に問題ないんだが、メイド達の無言の圧力がキツい。道理でずっと部屋で飯を食べてた訳だよ。俺。


「では、ご用があればお呼びください。失礼します」


「ちょっと待ってエミリア」


「チッ……はい。なんでしょうか?カイン様?」


出ていこうしたから、呼び止めたらあからさまに舌打ちされたよ?いや、もういいんだけどさ。


「聞きたい事があるだけと……」


「あ~……仕方ないですね。特別ですよ?上か

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