第3話

……とりあえず状況を整理しよう。


俺の前世は葉山海斗。色んな意味でぶっ飛んだ異常な姉を持つ以外は、衣食住に困らず、学校も大学まで奨学金無しで行かせてもらえる程度に裕福な家庭で育ち、大学卒業後も姉が創業した会社に入社した。俺自身は平々凡々を絵に描いたような男だ。


……まぁ、姉のせいで人より色々経験してるが


それと社会に出てからの記憶は靄がかかったように思い出せないが……多分、エグい死に方したとかじゃなくて、本能的な防衛機能が働いてるんだろう。そうじゃないと入ってる魂と、器である幼い肉体に差がありすぎるんだ。


……たぶん、産まれた時から明確な記憶や自我がなかったのはそのせいだろう。


うん。そんな感じで納得しておこう。……別に神様と会った記憶がないしな。会っていたとしても、乙女ゲームに転生させるとか性格的に邪神の類いだろうけど。例えば姉みたいな……。



ちなみに俺が乙女ゲームを知っているのは容姿端麗、文武両道、悪逆非道、快楽主義、深謀遠慮、神算鬼謀といくつの四文字熟語で表して良いのか分からない姉の趣味の影響だ。


……まぁ大抵のエロゲーにしろ、乙ゲーにしろ、恋愛シュミレーションってジャンルは、現実じゃありえない疑似恋愛を楽しむものだろうが……姉は「だって笑えるじゃん?モテない女のありえない妄想って」と性格悪い事を言っていたな。


それとエロゲーは笑えないのか?と質問したら、冷めたお姉様的に男の妄想は笑うとかキモいとか通り越して哀れになるそうです。はい。


……俺は萌えならぬ、燃えゲーは大好物なんだけどな。運命とか怒りの日とか。


次はこの乙女ゲーム『フェイト・マグナリア』での俺を思いだそう。


カイン・マグナリア。


誕生日など祝ってもらってないので、わからないが……たぶん、五歳位になった肉付きの良い健康な子供であり、マグナリア王国第二王子にして、メイン攻略対象である第一王子アベル・マグナリアの弟、そして五人の攻略対象がいる『フェイト・マグナリア』で、どのルートでも悪役として嫌な死に方をするキャラ……だったはずだ。


……嫌だなぁ。生物である以上どのみち死ぬけど、火炙りや餓死とか勘弁だ。出来れば穏やかに死にたい。……確か物語の本編が始まるのは主人公が十五歳になり国立学校に入学してからで、カインと主人公は同じ歳だから残り時間は約十年か。


本編で十五歳にまで成長したカインは小太りでニキビ面、生理的に嫌悪感をもたらす笑いが特徴であることから、ヒキガエルとかユーザーからは呼ばれ、主人公に底知れぬ欲望を抱きストーカーしたり、権力や暴力で自分のモノしようしたりと、主人公と攻略対象の男たちが盛り上がる為の悪役なんだよなぁ……記憶が確かなら。


ああ……それと悪役はカイン……つまり俺だけじゃなくて、もう一人いたな。悪役公爵令嬢のディアナ・リグ・マグナリアだっけ?この子もエグい死に方や人生送るんだよなぁ。同じ悪役とかいう運命が待ってると思うと、なんか知らんが親近感が沸くよね。


……うーん。覚えてるのはこれくらいか?姉との付き合いで隣に座って喋りながら、一緒にやっただけだから……朧気にしか覚えてない。


どうせならやりこんだゲームに転生させてくれよ……こんな朧気な記憶を頼りに凄惨な死を回避しないとダメなのか。


無理ゲーじゃないですか?マジで。神様チョー鬼畜。


「なんて……ふざけた事を言ってられないよなぁ」


決して五歳児が口から漏らしちゃダメだろう重いため息を吐いて、気分を入れ替える。


状況整理が終わったら、次はこれからの十年の間にどう動くかだ。


一番心配なのは定められた運命シナリオの強制力がどれだけ働くかだ。是非ともニートしてて欲しい!けど……最悪は想定しておかないとな。……そもそもどう対処していいのかわからんが。


それに運命が仕事しなくて、僧になるにしろ、この国を出るにしろ、兄であるアベルが王位を継承するまでは第二王子スペアを簡単に手離すとは思えない。……なんかゲームや転生してからの記憶を掘り起こすと王族の割りに低い扱いされてる気がするけどね。


となると……現状出来るのは己を高めることか。このままヒキガエルみたいな容姿になるのも嫌だし、身体を鍛えて、勉強して、夢の詰まった魔法を覚えよう!あとは状況に応じて臨機応変に対応するまでよ!


……まぁ、今の所それしか出来ないとも言うんですがね?



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