後。
* * * * *
さぁて、困った。
只今残金、ジャスト千円。全財産紙切れ一枚だとは、なんてシュール。
ああ判ってる、A●azonで突発的に発生したバーゲンで調子こいて注文しまくっていたせいだ。
全部俺のせい。でも前々から欲しかった一眼レフデジカメが安かったんだよぉぉぉ。
そして、今日中に家賃を振り込まなければならない。
家主が厳しくて、家賃は1日でも滞納すると即退去させられてしまう。
しかし、手持ちは千円一枚。
バイトの金はあと一週間。
仕送りは更に半月先。超ピンチ。
かと言って、街金のキャッシングには手を出したくない。うっかり手を出して返済地獄に陥り、退学、失踪した奴を知っているからな。
ああ、今こうして出ている小便が全部、金だったらなぁ……ヤベェ、ちょっと掛かっ……あ。
この間の、バイト先の便所で遭遇した、便座の神様。
どこの世界に便座に宿る神様がおるかと小一時間問い詰めたい所だが、今はとにかく藁にもすがる思いしかない。ああそういや藁と糞って漢字、似てるな。
駄目で元々だ、幸いにも願い事は言ってないから……幻覚だったらどうしよう。
「来たな」
俺の呼びかけに答えて顕現化したら便座カバーの上で大いばりしていた。
まさか来る事が判っていたんだろうか。少し面食らったが、この際細かい事には目を瞑ろう。
「俺を金持ちにしてくれ」
「流石に、それは無理」
「役立たず」
「誰が役立たずやねん。そんな漠然とした願いは答えられないだけだっちゅーの」
まぁ、それは予想していた事だ。それにまだ案がある。
「じゃあ」俺は全財産の紙切れを差し出し「これを増やす事は出来るか?」
「可能じゃ」
「なら、このお札の通し番号を全部別々にして増やせる?」
「それは無理じゃ。つーか違法じゃ」
まぁ当然だろう。神様といえども偽札作りは御法度らしい。
――お札なら、な。
「じゃあ」
俺は深呼吸し、
「これから先、お釣りを倍にする事は出来るか?」
「お釣り?」
便座の神様はきょとんとなった。
そして暫し傾げて、不思議そうな顔で俺を見た。
「可能だが」
それを聞いた俺は思わずガッツポーズをとる。
「よっしゃあ! それでひとつ頼む」
俺の計画はこうだ。
お札をそのまま増やされても、通し番号が同じだと色々面倒になるが、硬貨には番号はない。硬貨を増やせばいいのだ。
しかし両替した1000円札を増やされても、こんな便所で大量の硬貨を手にすれば持て余すだけである。
なら、お金がある時にだけ、お金が自動的に増えればいい。
1000円札で100円の物を買い、900円のお釣りを貰った時、神様の力でお釣りが倍になるのだから、1800円。900円が自動的に儲かるのだ。
万札で買った時に困るかも知れないが、ダブってる奴を処分すればいい。何、絶対マイナスにならないんだから構わないさ。
「九百円のお釣りです」
(・3・)あるえー? 何で増えてないの?
畜生、……あ痛……、こんな時に腹痛かよっ!
えーと、公衆便所、公衆便所は……あった!
「……え」
俺に再び呼ばれた便座の神様は、俺を見るなり険しい顔をした。
俺は構わず言った。
「さっきの願い、取り消せ」
「釣りが倍になる願いか? うーん、一度聞き入れてしまったからなぁ」
「いいから取り消せ! とっとと取り消せっ、こんな願いっ!……お願いだから取り消してぇ……ぐすっ」
俺は便所の中で大声で泣いた。
俺を見る便座の神様のその目は憐憫に満ちていた。そりゃそうだ、お釣りはお釣りでも、
「……臭い」
うっさい、黙れっ。
便座の神様。 arm1475 @arm1475
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