第9話
ちなみにあの夢から起きてもまだ午前四時だったから二度寝したら起きたのが九時でしたとさ、ちゃんちゃん。
もちろん必死こいてチャリこいで行きましたよ、ええ。
それはともかく教室に着くまでは必死だったけど、着いて落ち着いてしまうと頭の中は今日の夜のことでいっぱいだった。
別に用事があって会うんだから何があるわけじゃない、とは思うけど昨日の夢の話もあるし、余計に意識してしまうところはある。
どちらにしても一回で何かなるわけないなぁ、とか部屋の掃除しておいた方がいいだろうか、とか酒って言われたけど何を買えばいいんだ、とかまるで恋する乙女みたいな悩み方だな。
そんなのじゃない、そんなんじゃない。
だいたい別に好きだってわけじゃないし付き合いたいとかそういうのも別に思ってないし。
あんな出会い方したってのと、ただそれこそ今の時点で一番距離が近い異性であるだけでそんなんじゃないし。
そんなんで好きだなんだって盛りのついた犬じゃないんだから。
粛々と酒を買って適当に終わらせればいいんだ。
いいじゃないか、それが適切ってものなんだろ。
全く全然楽しみじゃないんだ。
そんなことを考えているうちに一時間目終了。
実は今日はこの後に講義はない。
課題はPC室でやるはめにはなるんだけど。ということでPC室に篭りますか。
購買でコーヒーを買って外で飲み干してから気合を入れてPC室に入ると、そこには眼鏡と彼女持ちがいた。
奴らも同じ事を考えていたらしい。
「よ、お疲れ」
右手を挙げて軽く挨拶。
「おー、お疲れさん」
「おう」
彼女持ちはこっちを見ながら挨拶してくれたけど眼鏡は完全にパソコンの画面とにらめっこで気もそぞろな返事。
そういうとこじゃねえの? お兄さん。
って俺も人のこと言えないけど。
「そっちは何か行き詰ってそうだな」
眼鏡が何をやってるのか見るために眼鏡の後ろに立つ。
「いや、ここの計算全然合わねえの。そうしようか、って言ってたんだけどこいつちょっと任せるわ、とか言い始めて」
ああ、そういうこと。
こいつはこういうの得意だからなぁ……。
とはいえ任せっきりも申し訳ないからな。
「俺もちょっとやってみるわ」
「おう、頼むわ」
彼女持ちよ、お前が言う台詞じゃねえよ。
なんとか課題の目処も立って午前十一時、おもむろに眼鏡が俺らにこんなことを言ってきた。
「実はさぁ、昨日告ったんだよね」
なるほどねぇ。
じゃないよ、そんな大事なことこんなにさらっと言うことじゃないだろ!
「マジかよ! で、どうだったんだよ!」
俺は次になんて言えばいいか分からず黙るしかなかったのだけどそこは彼女持ち、機敏に反応。
「はぁ……」
焦らすね……。
「オッケーでした!」
「おー! おめでとう!」
こいつがこんなに素直に祝福しているのだから俺は多少毒を吐かなければなるまい。
「そりゃあ駄目だったらこんなところでこんなこと言わんよな。ま、おめ」
というかよくその出来事をこの一時間ほど言うのを我慢できたもんだな。
俺だったら真っ先に言う自信がある。
「いやー、昨日な、俺の家で飲みましょー、って話になってな、って俺が切り出したんだけどさ、いつもだったら外で飲みましょうとかなんだけどさ、勇気出して言ってみたわけ。ああ、二人で飲むのは初めてじゃないんだけどな」
こいつよう喋るわ……。
テンション高くなるのは分かるけど。
さ、続きをどうぞ。
「それでな、もうこれは来たんじゃないか、と思ったわけよ。そこでつまんなさそうに聞いてるお前じゃなくて、彼女いるお前だったら分かってくれると思うんだけどな」
うっせえよ。
つまんないわけじゃなくていろいろ考えることがあるだけだよ。
あとはうらやましいから何も言えないというのもあるけどさ。
「いや、俺だってその時に告るつもりだったわけじゃないよ。でもさぁ、こう飲んでるうちにいい雰囲気になっちゃったわけ。後はもう、衝動ってやつ?気付いたら告ってたんだよね。ドキドキしながら返事待ったよ。時間にしたら一秒なかったんじゃないかな。でも長かったよ。体感時間は五分くらいあった気がする。いやいや、気がする、だって。そんな目で睨まないでくれよ。とにかくそれで彼女も、うんいいよ、なんてオッケーくれてさ。と、そういうわけで昨日から僕は彼女持ちです!」
はい、お疲れ様でした。
なるほど、衝動なぁ……。
俺も今日そうなるのか……とかそんな思いが頭をよぎったけど、だいたいまず前から仲良くしてて狙ってるという事実があってのその展開だからな。
それに別に好きとかそういうのじゃないって話だ。
でも確かに頑張ったよな。
努力が結果に如実に現れた好事例だと言えましょう。
これは確かに周りに俺ら以外の人がいても語りたくなるわ。
実はさっきから周りの目線が少しだけ痛いんだけど(まあ二、三人しかいないが)そんなこと気にする素振りもなく話し続けてるもんなぁ……。
こういうのを恋は盲目、と言うのだろうか、違うか。
とにかく無我夢中でそればかり見ているのは何となく分かる。
それはもう妬ましいくらいに。
本人はまだ嬉しそうに話してるしな。
「今日も会う約束してるんだよ。夕方から外に遊びに行こうぜ、って話になっててさ。だから課題も真面目にやってた訳。終わらないとおちおち遊びにも行けないだろ? なんせ今日の夜はやる暇はないからなー。あ、やることはやっちゃうかもしれないけどな!」
この状況で課題をしっかりと人任せにしないでやろうとする辺りにこいつの真面目な性格が出ていると思う。
それと、つまらない下品な冗談はそれ童貞臭いからな。
横でもう一人はその時期が一番たのしいよなー、とか言ってるし。
「そうかいそうかい。ついに俺以外はみんな卒業か。ばーかばーか」
毒されすぎてこんなことしか言えなくなったわ。
「まあそう僻むな僻むな。そうなると今までみたいに俺らとは遊べなくなるんだな……寂しくなるな。ま、頑張れ」
くそ、この良いコメントが出来るのが羨ましい。
と、そんな話をしていたら昼飯時だ。
とりあえず飯でも食って心を落ち着かせましょう。
昼飯を学食で食して(今日のメニューはお腹に優しめな鯖の味噌煮にしました)その後三時過ぎまで駄弁っていた俺らだったが眼鏡が今日までには聞いたことなかったくらい明るい声で
「俺そろそろ待ち合わせの時間だわ!」
とか言い始めたのでその場はそこでお開き。
俺自身もほとんど課題も終わっていたし、夜に予定が入っていることもありですぐに帰宅。
さて、夜のお酒でも買ってきますか、と意気込んでみたはいいけれどあいつがどんな酒を飲むのか全く分からない。
ということでとりあえずメール送信。
「酒って言われたけどいったい何を飲むんだ? あと食いたいもの。」
我ながら素っ気の欠片もない文章。
よく絵文字とか使わないのかよ、と言われるが男は黙って文字のみですよ。
向こうも暇だったのか程なく返信がくる。
「あんたがこれ飲むだろうな、ってお酒だけど。だってそういう設定だしー。ま、せっかく聞いてくれたんだから答えてあげる。ビールとハイボールの缶をとりあえずお願い。あとカルーアと牛乳でも買っておいて。最後は甘いものよね。あと食べたいものはピザ食べたい。頼んどいて。よろしくー」
ところどころ絵文字顔文字入っていたが割愛。
そっか、俺の好みなんだからそこは俺がこれを飲みそうだな、と思うものを飲むのか。
いやでもこの組み合わせを飲みそうだな、とかは思ってなかったぞ。
だいたい深層心理が具現化したものなんだから俺が知らないところだってあるだろうよ。
あいつが現れるまでああいう女の子が好みだって自分で知らなかったんだから。
とりあえず好みも聞いたからさっさと買って準備しましょう。
「またあんた寝てるわけ? そんな無防備な姿さらして何をあたしにさせたいのよ」
目覚ましが女の子の声なのはいいんだけどもう少し優しく起こして欲しいものだ。
「そこはおはよ、起・き・て・ハートとかじゃないのかよ」
あー、うん、小馬鹿にした顔された。
「予定あるのに寝てる人にかける優しい言葉なんてないわよ。全くもう」
そういえば買い出しを終えてピザも頼んだら満足して寝ちゃったんだよな。
そういえばピザの時間、ってまだ到着時刻の30分前じゃないか。
「俺の予想より早く来られたらこうなるんだ。よーく覚えておくように」
またもため息をついて彼女はこう言う。
「準備とか手伝ってあげようと思って早めに来たのにその言い方だもんなぁ……何もしてあげないよ?」
それはありがたい。
「すいませんでしたお願いします」
「ん、よろしい」
不覚にもその時の笑顔をすごい可愛いと思ってしまった。
いかんいかん、そういうことを意識したら終わりだ。
まともな俺じゃいられなくなる。
「と、とりあえず皿でも用意してくれ。まだピザも届いてないから話はそれから……」
そう言いかけた瞬間に玄関のチャイムが鳴る。
「こんばんわー。ピザハ○トです」
タイミングがいいというかなんというか。
さっとピザを受け取りテーブルの上に置く。
手伝ってもらったおかげでもう準備は出来たようだ。
ちゃっかり自分の分のビールはもう用意してるし。
抜け目ないな。
「ほら、早く座りなよ」
言われなくても。
さすがに乾杯の音頭は俺が取るよ。そこまではやらせない。
「じゃあ何を言えばいいか分からないけどとりあえずお疲れさん。乾杯」
「かんぱーい」
まずはビールを一口。
ぷはー、この一杯のために生きてるのよね、とはならないけどきちんと味も分かるしし思ったよりは緊張してるわけじゃないな。
「ぷはー、この一杯のために生きてるのよね!」
こいつそんなテンプレな台詞を恥ずかしげもなく言いやがった。
何が悪いのよ、って顔してるし。
「何が悪いのよ、美味しいからいいじゃない」
「別にいいけどおっさんくさいな……俺ってこんな感じの女の子が好きだったのか、って自分の趣味を疑いたくなるな」
親しみやすい、とかサバサバしてる、とかそういうのにしても限度というものがあるんじゃないのか。
「もううるさいな。こういう方が気を使わなくていいでしょ? あんまりに女の子女の子してたら苦手でしょうが」
その通りではある。
異性と縁がなさすぎて女の子ってだけで恐怖感じるようになってるからな。
出来れば男友達の延長線上で恋人になるのが一番というかそれしか手段がないと思ってるのか。
なんだか自分の意識してないところでの好みが分かってくるのはあまりいい気分じゃないな。
確かにあの仙人が言うように分からない方が幸せなのかもしれないな。
知れば知るほど自分を信じられなくなる。
「異性を好きになったことないから好みとか再確認どころか新しく認識することばかりだからよく分からん。しかもこれお前の好みだから、と言われてもいまいち信用できなくてなぁ……」
人から言われたのをそのまま信用するような、そういう状況だからな。
やっぱり何となくひっかかる。
そりゃあ可愛いとか好みかもしれない、とは認識できるけどそれでもな。
「ま、それでいいんじゃない? 消去法で考えれば今の状況の原因はあの夢だってことを選ぶだろうけどそれだって普通は正解だって言い切ることなんて出来ないでしょ? あたしだってあたし自身がそういう存在であることを完全に信じてるわけじゃないし」
普通、ね。
「どちらにしてもおかしい気はするけど、確かにどっちが普通な選択か、ってことならそうなのかもな」
普通、いい言葉だね。
「それはともかくとしてさ、本題に入ろうか。あ、ビールもう一本もらうね」
気付いたらピザも三枚くらい減ってるし。結構なペースで喰うね。
「あんたももっと食べればいいのに。あ、そういえばいくらかかったの? 半分払うけど」
「別にいいって。俺にも女の子に奢るという超絶男らしい行為を体験させてくれ」
女の子に奢るってのは夢だったし、ここでお金もらおうとは考えは浮かばなかったな。実際。
「そ、じゃあお言葉に甘えて。ありがと」
また笑顔。
どうにも俺はこの笑顔に心乱されるみたいだ。
平常心、平常心。
「それで本題だったな。出会いの設定をどうするか、だったな。とりあえず出会ったのはこの前とっさについた嘘のバイトで会った、で行くしかないよな」
もっといい嘘もあった気がするけどあの場でとっさに浮かんだのがあれなら悪いわけではあるまい。
設定も作りやすいと思うし。
「そだね、無難でいいと思うよ、あたしも。それでさ、出会った後の設定の前に出会う前の説明というかあたしがどんな人間か、ってのも決めなきゃならないのよね」
ちょっと理解できなかった。
「ええと、どういうことだ?」
彼女は恥ずかしそうにこちらを見る。
恥ずかしそうな顔も悪くないな……。
「えっとね、つまりあたしはあの設定でこの世にぽっと出てきたわけ。それにあんたの好みの異性という設定でしょ? だからそこに関しては決まってないの。というよりは君の認識であたしの過去が決まっていく、って感じかな」
なるほど、よく分からん。
要するに過去をある程度決めていかなければだめだ、ということしか分からない。
「それなら二人は幼馴染で結婚を約束した仲で高校時代から付き合ってる、とかそういう過去にしてしまうのは駄目なのか?」
それであればまだるっこしいことしなくてもいいじゃないか。
万事解決。
「ほんと漫画とかの読みすぎ……そんな都合のいい女の子がいるわけ、ってあたしの存在の設定も大概だからあんまりは言えないけどさ。それはともかく、それは無理。あたしはあんたの好みを具現化してあの時点で現れた、って設定だからその出会いは変えることは出来ないのよ。だからあたしと君はあそこで初めて会ったことにしか出来ないわけ。分かった? それを踏まえて設定を作るの」
なるほど。
結局は俺自身の過去は変えられない、ということだな。そう考えれば単純だ。
「まずは出身地だよな……俺の出身地は北海道だからそれ以外の方がいい気がする。どこか気に入ってる県とかあるのか?」
あるわけないよなぁ、と思ったけど一応聞いてみる。
「別に同じ所でいいと思うけどね……そっちの方が面倒がないし、話題もそれで話し始めた、みたいな感じに出来るじゃない?」
まあ確かにそうか。分かりやすいのが一番。
どうせ分かりやすかろうと分かりにくかろうとそれが真実になるなら俺も困ったときに郷土話で場を繋げられた方が気は楽だ。
「じゃあ出身地は北海道で決定だな。次は家族構成にしておくか。これは? 妹が欲しいとか妹が欲しいとか何かないのか?」
ここらで妹キャラを一人追加するのもいいかもしれない。
血がつながった妹はクソだけど年下の女の子は大歓迎だ。
当然に下心が丸見えだったからだいぶ引いてるな、これ。
「あんたねぇ……実際一人分登場人物が増えるとその分設定も増えるのよ。考えなきゃいけないかどうかは別にして面倒じゃないの? あたしは作った設定に必要な知識がある程度入ってくるみたいだけどあんたは覚えなきゃいけないのよ? 出来る?」
出来るか出来ないかで言われれば出来るんだろうけど確かに面倒くさい。
というか必要な知識は勝手に入ってくるってどういうことだ。
「必要な知識が入ってくるってなら北海道のことはもうある程度分かるのか?」
あのCMとかCMとか。
いくつか試してやろう。
「ここはお風呂の」
「遊園地」
「なんてったって」
「宇宙一」
「行ってみたいな」
「サンパレス」
「サンパーレスー♪」
ついノリノリで歌ってしまった……。
よし、もう一つ試そう。
今度は短いやつにする。
「千秋庵の」
「山親爺」
合格だな、よく勉強したな……じゃなくて。
本当に知識が頭に入ってきてるのかよ。
便利な設定だな……。
「まったく下らないことで確かめるんだから……そういうことなの! で、覚える手間と年下の可愛いけど会えない女の子を一人増やすのはどっちがお得だと思うの?」
お得感で言えば覚える手間を省く方だな。
年下の女の子キャラは浪漫でしかない。
この状況自体が浪漫の塊なんだからこれ以上欲をかいても仕方ない。
諦めよう。
「覚える手間を省きます」
彼女はにっこりと笑って
「ん。よろしい。次はきちんとあたしの学部を教えておかなきゃね。これに関してはなぜかあたし文系なのよね。自分に近くしたいなら君と同じ学部にするんじゃないの?」
そういう考えもあるか。
でもそれに関しては普通に考えたらその選択肢しかないよね。
「いや、こっちは数が少ないから……その……アレなのしかいないというか」
俺が他人の顔についてとやかく言うのも、と思うけどそれでも思っちゃうものは思うしこじらせてるからこその面食いってのもあるんですよ。恵まれてないからこそ一度のチャンスで大物を釣り上げようと思うんだろうね。
「それに毎回顔を付き合わせすぎるのもどうかと個人的には思うんだよな。飽きが出てくるというか悪いところが見えやすくなるというか」
それこそ適度な距離、ってものをとれなくなる気がする。
そりゃあ一緒に課題やったりとかも悪くはないけど。
あれだなー、あんまり自分のテリトリーに近づかれるのも嫌なのかもな。
それだとその後がどう頑張っても上手くいかないだろうけど。
「それはともかく、結局何学部なんです?」
「いきなりのその敬語はなんなのよ。私は法学部。何やってるのかは教えてもいいけど分かんないと思うから省かせてもらうわ。ま、ポケット六法をいつも持ってるくらいで認識してもらえばいいかな。ちなみにあんたは何学部なんだっけ?」
「聞いて驚け。泣く子も黙る工学部機械システム科だ!」
泣く子も黙るくらい男臭い学科ですよ、ほんと。
その分楽でいいけどね。
「確かにあそこ女の子の数自体が少ないよね。でもその子たちには各々彼氏いるんでしょ?」
そうなのだ。
まあ一人はとんでもないと言ったら失礼だけどまあアレでいない人はいるが、他はきちんといるのであった。
正直、あんまり手を出す人がいるようには見えないのだけれど、あの中にいると手を出すのか出してしまうのかよく分からないが奇特な人もいたりはするのだ。
飢えると何でもいいから食べれるものは不味くても喰うようになる人が多いのかなぁ……。
詮ないことですね。
「まあそんなものよね。こっちにも近くにいたってだけでくっついた人達はいっぱいいるよ。意外とイベントとか努力とかなくて何となく、ってのが一番多いのかもね。もちろん見えないところでいろんなことがあるとは思うけど」
一番近くにいる女の子ね……。
そう彼女の口から言われるとやっぱりあのことを考えてしまう。
俺のこの浮ついた感情は何なのか、ということを。
好きなのか、とかそういう答えを出すのはまだ早いとは感じるけどそれにしてもこの彼女が気になる感情の理由を俺は自分で理由付けしなければならない。
好みだから純粋に気になるのか、それとも近くにいてチャンスだから、と相当打算的な感情なのか、自分で理由付けしたいけど頭が回らない。
「どしたの? ぼーっとして。飲み過ぎ?」
俺の顔を覗きこんで彼女は言う。
近い近い。
それと女の子はいい匂いするっってのは本当だったんだな……。
「だ、大丈夫だって。足りないくらいだって。もう一本もらおうかな」
ビールの缶を空けて一呼吸。
「大丈夫ならいいんだけどね。目の前で倒れられたりしたら大変だし。あんたの家だからそこまで困らないけどさ」
ご心配ありがとう。
「で、次に決めることはあるか?」
彼女は首を傾げながら
「そうだね。今のところはいいかな。また追々決めていきましょ。ということでここからが本番だからね。設定決めるってのもあったけどせっかくの機会だからさ、仲良くやろうと思ったのよ」
いい子やで……ほんま……。
そこまで言ってくれるのなら俺だってやぶさかじゃない。
下心とかは全部忘れて普通に楽しもうじゃないか。
向こうは意識せずに接してくれている、と理解できたおかげでその後からは特に意識することもなく、それこそ普通の男友達と同じように接することが出来た。
もちろん彼女の人柄のおかげなんだろうけど俺でもこんなに女の子と話せるもんなんだなとも思ったのだ。
自信がついたわけではないけれどね。
で、お互いにする話はやっぱり学校の話が多くてとりわけ個人的に長く話した話題が例の眼鏡くんの彼女出来たという話だった。
「ちょうど今日言われたんだよ、その話。今頃はホテルかどっかなんだろうかね」
お酒はビールはすべてなくなり(二人で四缶ずつくらいは飲んだのだろう)リクエスト通りの缶のハイボールを飲んでいた。
「付き合ってすぐそれはないと思うけどね。男の子ってそういうの期待しちゃうわけ?」
酔っ払ってるからかそういう話題を特に気にすることなく振ってくるし俺も特にかまうことなく答えてしまう。
「そりゃあ期待すると思うけどね。だからって引き際を考えてないわけではないんだろうけど」
まあ男だったらそういうの期待するよね。
現に俺だって意識はしてないけど現在進行形で期待する面もあるしさ。
「ま、それはそれとして、羨ましいよな、やっぱり。彼女出来たってのもうらやましいけど自分の努力がそういう風に分かる形で実ったのは羨ましいと思う」
俺の言う過程と結果の直結だ。
縁起は悪いけどもし眼鏡の今回が駄目でもこの成功体験が次に進むための糧となるのだろう。
「あたしは結果がよければある程度は過程がよく分かんなくてもいいと思うけどね。みんな何となくなんだろうね、ってこれさっきも言ったね。そっか、君の周りはみんな彼女持ちになったのか。ご愁傷様」
ご愁傷様って……。
確かに彼女いないのは俺一人だもんなぁ……。
そう思うと寂しいけどでもそんなに寂しくはないのはきっと今この状況のせいだ。
「ところでそっちはそういう友達の話はないのか?」
「そうね……いろいろあるわよ。いい話もエグい話もね」
という風に彼女もいろいろ話をしてくれたがこの話は割愛。
とにかく楽しく過ごせた夜なのでした。
その楽しさが少し寂しかったのだけれど。
それも次の日の朝ではなく話している時のふとした瞬間に。
俺にこの寂しさをなくすことは出来るのだろうか。
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